短編寄せ集め

事務所公認の関係?~歌手とモデルの2人で配信始めました~

 2020年 08月19日に別サイトにて投稿したものを加筆修正しています。(初投稿作品ですので広い心でお読みくださいませ)


澪奈みおなちゃん、収録が終わったら事務所に来て欲しいって広報の水島さんから電話があったよ」


 撮影が終わり、今日はこれで帰れるなと思っていたらマネージャーの森さんからそう言われて事務所に向かうことになった。


「おはようございます。あれ? 桜も一緒?」


 事務所の会議室には水島さんだけではなく、ルームシェアをしている歌手の結城 桜も待っていた。


「2人とも急にごめんね。今日2人に来てもらったのはお願いがあって。昨年からうちの事務所でもネット配信を始めているのは知っているよね? 企画で次に配信を始めて欲しい人のアンケートをしたら、1位になったのが2人でやって欲しいって意見だったんだけど、やってもらえない?」

「え、無理です」


 思わず即答してしまった私に水島さんは即答じゃない、と苦笑している。


「桜ちゃんはどう?」

「私もちょっと難しいかなと」


 少し考えている様子の桜だったけれど、結果的には無理と返事をしていた。


「うーん、そっか……理由を聞いてもいい?」


 2人の懸念事項は分かるけど一応ね、と言われて桜と顔を見合せた。


「色々あるんですけど、まず一緒に住んでることって知られても大丈夫ですかね? 部屋を見たら一人暮らしじゃないのは一目瞭然なので」


 私と桜は学生時代からの友人で、事務所に入る前から一緒に住んでいる。歌手とモデルで職業は違うものの、お互いのことを番組や雑誌で話すうちにいつしかペアと認識されることが多くなった。オフの日は目撃情報も多かったりと、お互いの距離感から色んな噂があるくらい。


「それなら問題はないわ。ルームシェアは珍しい事じゃないし。社長にね、付き合ってるとかってよく噂になってる2人ですが配信チャンネルを一緒にしてもらっても大丈夫ですか? って聞いてみたの」


「え!?」

「は??」


 私と桜の声が重なった。


「この際色々公表してしまえ、だそうよ」

「うわ、社長言いそう……」


 桜が呆然と呟いた声がやけに大きく響いた。


「事務所としてOKもらえるなら私はやっても大丈夫です。桜は?」

「私も大丈夫です」


 私と桜が了承すると、水島さんがバックから取り出した紙を机に並べた。


「実はもう配信チャンネルは出来上がっていて、2人から了承が貰えればすぐにでも始められるわ。ちなみにこれ企画書で、初回は生配信ね」

「え、こわ!」


 準備の良すぎる水島さんに対して本音が漏れたのも仕方ないと思う。



 *****

 澪「これってもう始まってる?」

 桜「多分始まってると思うけど……皆さん聞こえてますか?」

 澪「あ、聞こえてるってコメント沢山来てるね」


 見に来てくれるのか不安で昨日はあまり眠れなかったけれど、コメントが沢山送られてきて2人揃ってホッと息を吐いて、ソファに座って配信を開始する。


 桜「皆さん見に来てくれてありがとうございます!」

 澪「なんかさ、凄く沢山の方が見てくれてるんだけれど、期待が怖い」

 桜「何を期待されているんでしょうか」

 澪「今日は初の生配信という事で私達もよく分かっていないので暖かい目で見て貰えたら嬉しいです」

 桜「あ、澪ちゃん、私たち自己紹介すらまだしてないよ! 私は結城 桜です。職業は歌手です。よろしくお願いします」


 桜の言葉で自己紹介もしていなかったことに気がついた。


 澪「橘 澪奈です。桜と同じ事務所に所属していて、モデルをやらせてもらっています。よろしくお願いします」

 桜「自己紹介も終わったところで、早速初めて行きますね。今日の生配信でやる企画がいくつか用意されているのですが、時間も限られているので皆さんが見たいものをアンケート機能から回答してもらって、多いもの3つをやるので、是非回答してください」

 澪「ちなみにアンケートの内容はスタッフさんが用意してくれたので私達もまだ知りません」

 桜「一体何が書いてあるのか……え!?」

 澪「カップルへの10の質問、お互いの好きなところ10個、ふたりだけの秘密大公開、イチオシの写真公開、愛してるよゲーム、なんでも質問コーナー……なにこれ?」


 明らかにおかしい内容が並んでいて、配信トラブルが起きた時の為に来てくれている水島さんがカメラ越しにニヤニヤしているのが見える。


 桜「ほんとにやるの? ちょっと水島さん笑いすぎですよ! なにこれ初回からドッキリ?」

 澪「今名前の出た水島さんは事務所の広報担当の方で、このチャンネルのスタッフさんです。これ考えたの水島さんですよね? コメントが水島さんへの感謝で溢れてるのはどうしてなの……」

 桜「アンケートの結果、愛してるよゲーム、ふたりだけの秘密大公開、イチオシの写真公開の3つに決まりました。他も結構接戦ですね」

 澪「え? これ需要あるの? 本気で?」


 私もドッキリを疑ったけれどコメントを見る限り本当に望まれているみたい。


 桜「皆さんのコメントの熱量が……」

 澪「水島さんから早く始めてって言われたので不本意ながら始めたいと思います」

 桜「どれからにする?」

 澪「桜はどれが恥ずかしい? ちなみに私は愛してるよゲーム」

 桜「全部恥ずかしいんだけど、私も同じかな。後に残した方が辛いよね……?」

 澪「最初に終わらせちゃおう! お互いに言い合って、照れたり笑ったりしたら負けってゲームだよね? どっちからやる?」

 桜「なんか澪ちゃん開き直ってない……?」

 澪「よし、じゃあ私からね」


 ここまできたら思いっきりやっちゃおう、という気持ちになって桜をじっと見つめる。


 桜「え? 澪ちゃん見すぎじゃない? 待って、待ってこれ無理」


 何も言わずに見つめ続けると桜は真っ赤になって両手で顔を覆ってしまった。


 澪「可愛すぎる。ちょっと可愛すぎません? これ私の勝ちでいいよね?」


 桜の反応にコメント欄には尊いが溢れている。


 桜「澪ちゃんずるい……ルール変わってるもん」

 澪「もんとか可愛すぎ……これって恥ずかしがる桜を見るゲームでしょ?」

 桜「違うし! みんなもそうだよとかコメントしないで!」

 澪「あんまりいじめると拗ねちゃうからちゃんとやりますか。桜、愛してるよ」


 桜を見つめて言うと不意打ちだったのかじわじわと顔が赤くなった。


 桜「不意打ちはずるい! 澪ちゃん、愛してるよ?」

 澪「最後疑問形だったけど可愛い……! みんなにも横顔じゃなくて私目線で見せてあげたい! あ、でもダメだ。減る。なんでこんな可愛いの? チューしていい?」

 桜「何言ってるの!? 澪ちゃん落ち着いて! みんなもチューしろとか書かないで、しません!」


 あまりの可愛さにテンションがおかしくなった私を落ち着かせようと桜があたふたしている。そして水島さんのニヤニヤが止まらない。


 澪「これは引き分け? この企画はありでしたね。またやりたい」

 桜「最初と言ってる事が違いすぎる……」

 澪「では、皆さんに桜の可愛さが伝わったところで次に行きたいと思います。次はふたりだけの秘密大公開でいいかな?」

 桜「もうなんでもいいです」

 澪「みんな応援してくれてるから頑張って!」


 まだ1つ目の企画しか終わってないのに諦めモードの桜に応援コメントが殺到していた。


 澪「ふたりだけの秘密って何かあったかな?」

 桜「ないかも?」

 澪「終わっちゃうじゃん! 何かあるはず」

 桜「あ、澪ちゃんの趣味部屋公開!」

 澪「待って、待ってそれはやめよう?」


 桜の暴露に慌てて口を塞ごうとするも間に合わず、コメントは趣味部屋公開への期待で埋まってしまった。


 澪「今は片付いてないし、カメラ固定だから今度お見せしますね! ちょっと水島さんなんでカメラ外してるんですか? あ、水島さんが持ってくれるんですか、そうですか……」


 抵抗虚しく趣味部屋公開が決まってしまった。


 桜「ここが澪ちゃんの趣味部屋です!」

 澪「はい、私の趣味部屋です。見てわかる通り桜のDVDとかグッズを並べています。はい、では公開したところですぐ戻りましょう!」

 水「桜ちゃん、そこにあるアルバムは?」


 戻ろうとすると、今までずっと黙っていた水島さんがアルバムを指さして言った。


 桜「澪ちゃんが撮った写真です。次の写真企画で使えるから持っていくね」

 澪「ちょっと1回中確認してもいい? あ、水島さん取らないで返して、大丈夫か確認させてください。面白そうだから駄目? え?」


 事前確認はだめって言われたけれど変な写真入ってなかったかな? と思いながら元の部屋に戻って水島さんにカメラを固定してもらった。


 澪「趣味部屋が公開されてしまったので言うと、ただの桜のファンです。ライブとかでも目撃されてるから結構知ってる人多いかも? 来週にあるライブも実はチケット当選してて。2階席のどこかに居るので近くになったらよろしくお願いしますね?」

 桜「関係者席じゃないんだ? ってコメント多いですね。澪ちゃんはいちファンとして自分でチケットを取りたいって関係者席に座ったことないんだよね」

 澪「うん。そこはちゃんとしたくて。落選した時は本気で悩むんだけどね」


 桜のライブはすぐにチケットが完売になっちゃうから毎回大騒ぎ。落選することも多くて、落選した時は関係者席空いてるか聞いてみる? それはダメ! のやり取りまでがセットになっている。


 桜「澪ちゃんってライブが近くなると予習って言ってDVDに釘付けで構ってくれないよね。本人いるのに!」

 澪「自分に嫉妬? なにそれ可愛い! 見る側も準備が必要なんだよ。構って貰えない桜ちゃん可愛いだって。良かったね?」

 桜「見に来てもらえるのは嬉しいのに複雑……!」


 当日楽しみたいから詳細は聞かずに、DVDを見比べながら演出を想像したりグッズを調べたりとライブ前は私も忙しい。


 澪「来週当選した方は存分に楽しみましょう! 残念ながら落選してしまった方にも朗報があります。なんと! ライブ前の舞台裏に潜入させてもらうことになりました! 生配信では無いですが、DVD発売より早くお届け出来ると思うので楽しみにしていてください。私も初の舞台裏が見られることになって今から楽しみです」

 桜「澪ちゃんが撮影するの? え、私聞いてないよ? 企画書にも書いてなかったよね? 本当に?」

 澪「その反応が見たかったので桜には内緒にしていたそうです。素の反応ありがとうございます!」


 私にもたれかかりどうしよう緊張する、なんで教えてくれなかったの、と上目遣いで睨んでくる桜はカメラの存在を忘れているみたい。頭を撫でなだめつつ、もう少し堪能したいところだけれど可哀想なので教えてあげることにした。


 澪「桜? 生配信なの覚えてる? コメントは今日1番の盛り上がりだよ?」

 桜「あっ……!」


 カメラをちらっと見てすぐに、私の背中とソファの間に半身を隠してしまった。


 澪「可愛いが溢れてますね。桜が隠れちゃったのでコメント読んでいこうかな。素の反応の破壊力やばい、無意識のイチャイチャ最高……水島さん隠し撮り企画お願いします? 水島さんがニヤニヤしているのでそのうちあるかもしれません。疑心暗鬼になりそう……」


 コメントを色々と読んでいるうちに桜が復活したので次の企画に移ることにする。


 澪「最後の企画はイチオシの写真公開です。さっき持ってきたアルバムから選ぼうと思います。お互いに1枚でいいのかな? せっかくなので全部? 結構あるよ? カメラも遠いので、って水島さんなんでカメラ外してるんですか? またこの流れ?」

 桜「水島さんがノリノリすぎて怖い!」


 さっきと同じ流れで水島さんがカメラを外してアルバムをアップにした。


 澪「じゃあめくっていきますね。ほとんどが桜の写真で、たまに2人での自撮りかな? もうね、被写体がいいから止まらなくて。最近は私目線での桜が1番可愛いんじゃないかと思い始めています」

 桜「何その自信? あ、今コメントに澪ちゃんが撮影した写真での写真集希望、だって。」

 澪「私に見せる笑顔が違う、好きが溢れてるって書かれてるよ? なんか私も恥ずかしいな」

 桜「そんなことないよ! え、ないよね?」


 途中隠し撮りした寝顔が見つかって怒られたりってこともあったけど、事前の確認が出来なかったので許して欲しい。最後まで見たところでちょうどいい時間になったのでそろそろ配信を終わりにすることにした。


 澪「今日の生配信、楽しんで頂けましたか? これからも沢山2人での動画を投稿していきますので、楽しみにしていてくださいね」

 桜「初めての生配信で緊張しましたが、暖かく迎えてくれて嬉しかったです。これからよろしくお願いします。」


 お互いに一言挨拶をしたところで定番の挨拶をするために桜と顔を見合わせる。


「「せーの、チャンネル登録と、高評価よろしくお願いします、バイバーイ」」


 配信が切れたのを確認して、2人揃って机に突っ伏した。そこに配信を切った水島さんが近づいてくる。


「2人ともお疲れ様。たくさんの方が見てくれたし、登録者数もすごい勢いで伸びているよ。定期的に生配信をやっていこうね」

「水島さんが1番楽しんでた気がしますよ。ずるい!」

「これからも楽しませてもらいますね。それでは、私は帰ります。お邪魔しました。」


 桜の言葉を否定せずに、水島さんは笑顔で帰っていった。


 ちなみに水島さんが帰ったあとに桜が生配信の内容に拗ねて、機嫌をとるのにあの手この手を使うことになった。

 水島さん、今度の生配信は事前共有必須でお願いしたいです……

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