紅葉電球

カラ缶

第1話

紅葉電球


今日は地元の電気屋にやって来た。電球がいくつか壊れてしまったからだ。結構長持ちするタイプだったんだがなあ……。「うう、なんか寒くなってきたな」今はもう10月。例年ならまだ寒くはならないんだが、今年は少しばかり寒波が早く訪れてしまったか。半屋外のこの店だと寒さが結構こたえるな。

すると「いらっしゃい」と店を切り盛りしている店主のおじいさんが出てきた。「こんにちは。ちょっと電球の寿命が来ちゃいまして……。何かいいのありますか?」「そうだねぇ……あ! あれが入荷したんだった!」そうして何かを思い出した店主は店の奥の方に行き、棚をゴソゴソし始めた。「そうそう、これだよ! ちょっと見てくれ」店主が見せてきたその電球は至って普遍期な物だった。まあ別にそのような物でいいのだが。「これは紅葉電球と言ってな、モミジやイチョウみたいに、オレンジや黄色の光を照らしてくれる物なんだよ」面白い電球だな。今までは白く光る物しか見たことがなかったからなあ。「これが結構いいらしいんだよ。リラックスにも効果があるってさ。今なら20%引きで譲ってやるよ」店主は少し笑いながらそう言う。まあどうせ電球買わないといけないし、いっその事まだ壊れていない電球もこの紅葉電球にしてしまおう。「じゃあ、6つください」「毎度あり!」


さて、家に着いたことだし早速取り替えてみよう。既存の電球をグルグルと回して取り外し、紅葉電球を取り付ける。「さあ、スイッチを入れるぞ」そうしたらなんと、紅葉のような暖色に電球が光ったのだ。「わあ、落ち着くなぁ」

思っていたよりもいい物だな。買ってよかった。ひと段落してテレビをつけてみると、たまたまショッピング番組で紅葉電球が取り上げられていた。「そこそこ値段がするな、やっぱり店舗で買ってよかった」そうして紅葉電球を嗜んでいった。


あれから月日が流れて一段と寒くなった。そして何故だか紅葉電球の調子が悪くなってきた。明かりが弱くなってきてしまったのだ。時間が経てば直るだろうと思いきや、その逆で完全に点かなくなってしまった。たった2ヵ月で壊れるなんて有り得ない。「きっと不良品だ。店主に言って交換してもらおう」

電気屋に着いてすぐ「あの、この電球もう壊れたんですけど。どういうことですか!」と、僕は半分キレ気味に店主に聞いた。すると店主はこう言った。「お前さん、取扱説明書読んだかい? こいつは壊れてるわけじゃない」「は?」どういう事だ。「こいつは冬になると全く点かなくなる。だがな、春に近づき暖かくなれば緑色に光るんだよ。そして、また秋になると紅葉の色になるって訳さ」

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紅葉電球 カラ缶 @karakan0618

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