第4話 地獄への道は大体のもので舗装できる


 緋色(ひいろ)英雄(ひでお)はとあるヒーロー組織のリーダーを務める人物である。

 そんな彼の耳に、とんでもない知らせが届いた。


 「は? GNOの研究所が潰された?」


 『GNO』正式名称『Greatグレート Newニュー Onesワンズ』とは、ここ十数年で勢力を拡大してきた、割と新興の悪の組織である。

 高い技術力、手段を選ばない悪辣な作戦の数々、非道な人体実験。極めつけは、古の邪神の召喚を企むなど。

 この悪の組織は、例のごとく、さも当然の権利とでも言わんばかりに政界に進出、コネで非合法の研究所(偽装はしてある)を手に入れている。

 その研究所を守るのは、勿論強力な怪人たちである。


 ヒーローですら手を焼いていた巨大組織、末端とは言え、その一部を壊滅した存在に、英雄は脅威を抱いた。


 「しかし、誰がやったんだ? できるとしたら、並の能力者じゃないはずだ」

 「あの、悪名高い矢倍高校です」

 「なッ」


 英雄は、ヒーロー兼秘書兼妻(の一人)である、甘粕あまかす彩子さいこから聞いた襲撃犯の名前に、言葉を詰まらせた。


 矢倍高校は、その筋でも有名なキチガイ集団として知られている。


 曰く、欲望の渦巻く暗黒の危険区域である。

 曰く、学生寮は、かつての九龍城塞のように違法建築マシマシである。

 曰く、校舎内は、ある生徒の開発した装置により、ダンジョンとなり、魔物が溢れている。

 曰く、プールに巨大怪獣を飼っている。

 曰く、無敵の怪物に支配されている。


 「よし、ここは初代チームで出動だ。多分、次の目的地は、ここだな。誰かが運び込まれたらしい。彩子、アイツらに連絡してくれ」

 「分かりました……貴方、気を付けてね」

 「ああ……」


 正義の味方には、苦労が絶えなかった。




 ◇




 『ゲヒャヒャ!! 美味ぇ!! この肉美味ぇよ!!』

 『あ~、スッキリしたぜ~、いい声で啼いてくれてよ~。まだ使えそうだから、ゼロの力で体内に保存してやったぜ。これでいつでもヤれるな』

 『こっちもイケメンがいたから、あたしも保存したわ。便利ね、これ』


 邪悪。その一言に集約される会話の内容、そして光景だった。

 男も女も犯され、食われ、殺される。中には、死という安寧すら許されない者もいた。


 『正義ッ!!! 俺達が正義だァァァァ!!! 死ねぇ!!! 死ねぇ!!!』

 「ヒィー!? や、やめ……ゲブジョ!?」

 『貴様らはかの超神に楯突いた!!! 楽に死ねると思うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 「た、助け……ああああ!?」


 一部の生徒は、人間から怪物染みた姿へ変貌し、研究所内部にいた研究者や、警備員である戦闘員や怪人を好き勝手に拷問、虐殺、あるいは、口に出すのもはばかられる行為を行っていた。

 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。しかし、止める者は誰一人としていなかった。


 「おーし、そろそろ次行くぞー」


 しかし、無敵の号令により、生徒達はいたぶっていた手を止めた。

 生き残った者は、僅かながらの希望を見せる。


 『ウッス。この生き残り共はどうしましょう』

 「んんー?」


 無敵は、四肢を引き裂れてなお生きている者や、これから玩具にするために捕らえられている者を見て、考えた。


 「別に見逃してもいいんだがな」

 『それじゃあ』


 生き残りは、目に見えて喜びを露わにした。

 しかし、事態は一変する。


 『無敵! 地下で実験体にされた連中を見つけた!!』

 「何?」


 地下を捜索していた生徒が、人体実験の材料にされた者達を見つけてきたのだ。

 そして、その中の1人を見て、眉間に皺を寄せた。


 「そいつは……」

 『ああ。最近行方不明になった、矢倍高校の生徒だ。ひでぇことしやがる……家族ごと拉致るなんて……』

 

 もはや人間とは呼べない異形と化した人々を見て、無敵の怒りメーターは振り切れた。

 なお、無敵軍団は自分から異形になったのでセーフである。無理矢理がアウトなだけである。


 「土偶羅ドグラ

 「はっ」


 無敵は、土偶羅という生徒を呼んだ。

 すると、即座にハニワのような顔をした男子生徒が駆け付けた。彼の目や口は、空洞もかくやというほどに黒々としていた。


 「地獄を見せてやれ」

 「了解」


 土偶羅は、おもむろに服を脱いだ。

 

 「あっ!?」


 研究所員の生き残り達は、驚愕した。

 彼の鍛え抜かれ、研ぎ澄まされた肉体には、光を反射せず、吸収しているかのような“穴”が開いていたのだ。


 「魔物のエサにしてやる……死すら生ぬるい地獄を体験させてやる!」


 土偶羅の声とともに、体の穴からドロドロでグチャグチャの怪物の塊が噴出した。

 見るだけで、そこに存在するだけで、強靭な無敵軍団すら言い様も無い恐怖を感じる。平気でいるのは、無敵、錦、土偶羅だけである。

 それらが、この世で最も哀れな生き残り達を掴み、穴へ引きずりこもうとしていた。


 「ヒィーッ!! た、助けてくれー!!」

 「お願いじまず!! あの! アレは! あれだげはやめてぐだざい!! お願いじまずぅぁ……ああああああああ!!!」

 「こ、殺された方がマシだったぁーっ!!!」


 生き残りは、全員穴へと消えた……

 そして、土偶羅はそそくさと服を着た。


 『無敵殿……今のは?』

 「知らん……が、地獄とだけ分かっている。この世の悪意やら邪悪やら、そんなもんを凝縮した空間らしい。まあ、私に恐れをなして逃げ出すレベルの、気休めにもならん場所だ」

 『なるほど……』


 説明にもなっていないが、生徒達は納得した。脅威のスルースキルである。


 「さて、実験された奴らは、学校に転移おくったな?」

 『ああ。空間能力が発現してる奴がいて良かったぜ』

 「じゃあ、行くか。多分次んとこにいるだろ」


 無敵の号令のより整列した無敵軍団は、再び走り出した。

 その目的地は、この地域では最大の大きさを誇るビルだった。



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