第14話 踏み出す勇気 #14


 「お疲れ様」

 「お疲れ様でした」


コチンとガラスのコップをアスカさんと合わせて僕はジンジャーエールを、アスカさんは今日は呑みたいということで、アルコール度数の高いチューハイを選んだ。


 「タクヤくん」

 「はい」

 「今日は私の自信作がズラリだから、全部食べきってね」

 「オ、オッス……!」


テーブルにはこれでもかと存在感を放つ、明らかに一人前のサイズではないオムライス。さらには、昨日の残り物をアレンジしたという色とりどりの野菜が入ったシーザーサラダ。極め付けは、まるで力士が風呂に浸かっているかのように君臨しているロールキャベツ入りのスープが目の前に並んでいる。アスカさんは僕の胃袋を、まだ学生で現役のそれと勘違いしているのかもしれない。さすがに喉がひゅっと鳴りそうだった。


 「じゃ、じゃあ、いただきます」

 「はい。どうぞ召し上がれ」


恐る恐るオムライスに手を伸ばす。卵にスプーンを入れると、そこからマグマが流れ出したかのようにトロトロの黄身が湯気を出しながら溢れてきた。僕はそれに感動しながら口に運んだ。僕は立て続けに二度目の感動を覚えた。


 「え、美味っ……」

 「めっちゃ美味いでしょ! 自信作だって言ったじゃん!」


僕は一瞬にしてアスカさんのこの料理の虜になった。これまでアスカさんとは一緒に食事をすることになっても居酒屋で済ませたりファミレスへ行ったりすることばかりだったため、今日こうしてアスカさんの手作りをほぼ初めての感覚で食べた僕は、どうしてこれまでアスカさんの手料理を食べてこなかったのか過去の自分を責めながらアスカさんの料理を口の中へ運んでいく。ん? 少し前に誕生日会みたいなのがあって食べさせてもらった記憶があるな。いや、それにしても。


 「めっちゃ美味いっす、アスカさん!」

 「ふふふ。良い食べっぷりだね。まだまだあるから全部食べてね」

 「いや、これはマジで全部食べ終わっちゃいますよ?」

 「いいよ。私、タクヤくんに全部食べてもらいたくて作ったから」

 「これでますますアスカさんに彼氏が出来ない謎が深まりましたよ」

 「余計なことは考えなくていいから。ほら、サラダもまだまだあるよ」

 「オムライスのこのトロトロだけ、作り方を教えてくれませんか?」

 「えー、やだ」

 「断るの早すぎません?」


明らかに食べきれないであろうと思っていた料理が、みるみるうちに無くなっていく。僕の食べるスピードも早いと思うが、アスカさんもなかなか負けていないと思う。というか、そもそもこんなに美味しい料理を、仕事が終わって疲れている状態で作れるという事実がもう既に僕は感動している。


 「そういや、タクヤくんとこうやってゴハン食べるの、結構久々だね」

 「誕生日会を四月ごろやってくれましたよね。じゃあそれ以来だから多分半年ぶりぐらいです」

 「時間の流れは早いねぇ。私にはつい先月ぐらいに感じちゃうよ」

 「アスカさんそれ、もう立派なアラサー発言っすよ」

 「事実じゃん。有効活用するに限るじゃん」

 「ハハ、開き直っちゃいましたか」


アスカさんの作ってくれた料理は、僕の体も心も満たしてくれて今日も頑張った僕を癒してくれたようだった。料理を全て食べ尽くし、少し休憩していた僕の目の前にアスカさんが昨日買ってきていたらしいプリンが置かれた。アスカさん曰く、ディナー後に食べるプリンがこの世で一番美味いらしい。至れり尽くせりの僕は、遠慮することもなくそのプリンもありがたくいただいた。アスカさんが言っていることもあながち間違っていないかもしれない。確かにプリンはめちゃくちゃ美味しかった。


 「確かにめっちゃ美味いです。ご飯もプリンもいただいちゃって、何かすいません」

 「何で? 私がしたくてしてるんだから謝んなくていいんだよ」

 「相変わらずアスカさんは優しいっすね」

 「当たり前じゃん。優しさが私の持ち味だよ」

 「ハハ、そうっすね」

 「むしろそれしか良いところ無いし」

 「いや、そんなことは絶対無いでしょ」


アスカさんが急に言葉を発さなくなった。けれど、それは不貞腐れているわけでもなければプリンに集中しているからでもなかった。何かを決心したような表情に見えた。そしてアスカさんは大きく息を吸ってからゆっくりと吐いた。アスカさんが普段から醸し出している暖かくて柔らかい雰囲気みたいなものが明らかに変わった気がした。


 「ねぇ、タクヤくん」

 「はい」

 「私ね、タクヤくんがバレーしてるところ、とっても好きなんだ」

 

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