第37話 武藤要、主人公を知る
「今…なんて言った?」
玄武は予想外の賭けに少し困惑する。
((掴んだ…!))
要は誰も気づけない微笑を浮かべる。
「朱雀の命ですよ。親父がうちに勝てば、南部で最も厄介な奴を殺せる…こんなチャンス、二度と来ないですよ?」
「成程、お前さんが身分を弁えずその申し出をする理由は分かったよ。では、ルールを聞こうか。」
そして要はルールを言っていく。
「うちと親父での決闘、気絶、または死んだら負けとなる。そして能力の使用を禁ずる。どうですか?」
「ふっお前さんらしいな。能力無しのお前にはメリットになるルールがあるではないか。」
玄武は要に対し嘲笑に近い笑いをする。
「そうでもしないと、うちが勝てませんからね。でも、親父には''神獣化''があるでしょう?」
要の返しに玄武は顎に手を当てる。
「成程…いいだろう、そのルール、受け入れてやる。だが、俺は面倒な事は直ぐに片付けたい質なんだ。翌日だ、翌日の昼150時に始めようか。」
「分かりました、健闘を祈ります、親父。」
そして部屋から出ようとする時に玄武の声で立ち止まる。
「待て要、聞きたい事がある。」
「…なんでしょうか。」
玄武はのれん越しでも分かる神妙さで聞いた。
「何故お前さんはそれを今望むんだ?」
要は少し考えた後、微笑を浮かべながら答えた。
「北部を守るためですよ。」
要はそれ以上何も言わず、玄釉から去った。
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―かぐや宅。
「話をつけて来ました、かぐやさん。」
要は玄釉に居られないのでかぐやの職場で匿ってもらっていた。
「お疲れ、要。」
現在、玲愛は自室で寝ていて朱雀は鳳凰邸で過ごしている。
つまり、今はかぐやと要の2人きりだ。
((き、気まずいな。))
かぐやがいつ話しかけようかと苦悩していると要が口を開いた。
「かぐやさん、さっき言えなかった事があるので良いですか?」
要はかしこまった表情で言ってきた。
「な、何かしら。」
何を言ってくるのかマジで分からないので少し怖い。
「すみませんでした。」
「………!?( ゚д゚)」
予想外の言葉が飛んできてかぐやはこんな顔をしていた。
要は続ける。
「うちはかぐやさんの大事なモノを奪おうとしました。書類、記憶、そして命を。」
かぐやは黙って聞いている。
「本来なら許されません、うちだったら許さないと思います。でも、かぐやさんは…朱雀達はうちを助けようとしてくれてる。それは…かぐやさん達が主人公だからですか?」
「…ぷっ。」
要の最後の一言でかぐやは笑ってしまった。
ここに来てまたメタ発言かよ、と。
「全然そんなんじゃないわよ、ただわたし達の計画の中にあんたが必要なだけ。そこに優しさなんて皆無だから期待しない事ね。」
そう言いながらかぐやは布団を敷く。
ちょうど前朱雀が寝泊まりしてたから布団がもう1つあった。
「そうですか…。」
要は今ので満足いく答えが出たのかは分からない。
だがこう言う事で自分に課せられた重みが減るのは確かだ。
布団の中でかぐやは続けた。
「それと、わたし達は別にあんたの事を許した覚えは無いわよ。別にわたし達は優しくなんて無いし。ただ今1番言いたい事は、今の主人公はわたしでも朱雀でも、ましてや玲愛でもないって事よ。」
「え、それって…」
要が何か言おうとした時、その時にはもうかぐやは寝息を立てていた。
「…まぁいいや、うちも寝るとしようかな。」
そう言って要も布団に潜り込む。
((なんだこの布団…クソ暑いんだけど))
要は嫌な予感がして布団を再確認してみると布団に大量の赤い羽根があった。
((あのクソ女と仲直りするのはまだ先になりそうだな))
要はそう思いながら寝息を立てた。
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―翌日、正午。
「…来たか。」
ここは玄釉特別訓練所、今日要と玄武が戦う事となる戦場だ。
大体約100×100mの広がる大地は、学校の運動場を彷彿とさせる。
身長190cmの誰でも震えあがらせる白髭はと白と青が混ざりあった髪の毛は圧倒的存在感を放っていた。
「お待たせしました、親父。」
要は時間ぴったしで来た。
「そいつらはお前をたぶらかした野郎か?」
玄武はそう言いながら3つの影に指を指す。
「別にそんなんじゃないわよ、命令した事はないし。」
「たぶらかすなんて表現、失礼にも程があるぞ。そうだったな北部はそういう野蛮な事しか言えないんだったな、HAHAHA。」
「2人とも…敵でも一応目上の人だから少しは敬意を…。」
この日要の勇姿を見に来たのは、かぐやと朱雀と玲愛である。
※不知火は朱雀の分も仕事なので欠席。
「まーわたし達が直接危害を加えるつもりは無いから安心しなさい。」
要はかぐや達に親指を立てて玄武に接近する。
少しずつ、少しずつ。
最終的に2mまで距離が縮まったところで、要と玄武は叫んだ。
「覚悟して下さい親父!」
「逆らえぬ事を教えこんでやる!」
38話に続く…
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