第23話 かぐや姫と朱雀明

―第七局目、延長戦、朱雀先行。

「あーそうそう、言い忘れてたことがある。」

ゲームが始まる前にかぐやが朱雀に言う。

「今まで使っていたトランプも少し信用ならないから、取り替えてくれない?」

そう言って玲愛からトランプの束を受け取る、

「当然だが不正が無いか確認するぞ。」

「どうぞどうぞ。」

そう言いかぐやはカードを渡す。

何もない。

「何もないなら始めるわよ。」

そう言ってかぐやはカードを2つに割る。

「………!」

ババババババババババ!

凄く綺麗なショットガンシャッフルだった。

「いいシャッフルだな、始めるぞ!」

そして、最後の一局が始まった。

そして朱雀は自分の手札を確認する。

…朱雀の息が一瞬止まった。


最上位フルハウスだ。


2、2、2、1、1と綺麗に並んでいた。

((嘘だろ!?ここに来てか!?これはもはや、豪運以上のものだぞ!?))

朱雀は自分が困惑しているのを必死に隠そうとする。

だがこの勝負は一本勝負、賭け金による駆け引きはできない。

さらに、朱雀には透視能力がある。

((勝利はほぼ確定しているがかぐやの手札を確認するか。))

朱雀がかぐやの手札を確認しようとするとき、何かがおかしい、そう思った。


かぐやの手札の数字が見えないのだ。


((なぜだ…!?どうなっている!?まるで数字が重なっているような…。))

数字の重なりという点から朱雀は何かを察した。

((まさか…このトランプ全て重なっている!?透視能力を阻害するためか!))

朱雀が何かを察したのを見て、かぐやはニヤリと笑う。

「カード交換、わたしはしないけど、あんたは?」

かぐやの問いに対し、朱雀は首を振る。

どうやらもう隠す気はないらしい。

「では、この戦いを終わりにしよう!!!」

そう朱雀は叫び、カードを床に叩きつける。

かぐやのペアは…




3のファイブカードだった。




ファイブカード。

もはや確率的に不可能とまで判断されるそれは、

知らない人間も多いと思う。

13分の1と17分の1、25分の1そして、49分の1

それら全ての確率が絡み合い、

0.00000369…%という、異次元の確率として存在する。

それが今、顕現した。

「わたしの勝ちね。」

かぐやは囁くように言った。

「一体どうやったんですか!?」

玲愛が驚くのも無理はない。

最上位フルハウスとファイブカード、それもカード交換なしで起こるなんてことはありえない。

「真の不正は、練習によってできるのよ。」

「え?」

かぐやの言葉をヒントに、玲愛はかぐやが練習していたことを思い出そうとする。

「…まさか!?」

玲愛はこの不正の正体に閃いたが、同時に驚愕した。


「まさかあのシャッフルで!?」


そう、かぐやは玲愛にあらかじめ一定の配列をしたトランプの束を作らせていたのだ。

そしてそれをショットガンシャッフルで望んだ配列に変えた…。

到底人間が出来るレベルを超えている。

「かぐや様凄いです!こんな凄技でき…」

玲愛は勝利の愉悦に浸ろうとするが、まだ終わっていない。

かぐやと朱雀の関係、これを晴らさなければこの勝負は終わらないのだ。

「朱雀、お願いがあるわ。」

そう言ってかぐやは朱雀に問いかける。


「わたしの過ちを、受けいれて欲しい。」


許して、とは言っていない。

ただ、自分の行った罪を、自分ではない者が行った罪を、朱雀には知って欲しいのだ。

朱雀は口を閉じたままだが長らくして開いた。

「…なんでだろうな。」

朱雀は誰にも聞こえない程の小声で囁く。

「あたしの使命はお前らを排除すること、そうなら勝負開始以前にも記憶は消せてたのに。」

これは嘆きなのだろうか。

「だが思っちまったんだ、あたしが殺ろうとしてる奴らが、本当は悪い奴ではないんじゃって…。」

朱雀から涙が少しずつ零れ落ちる。

「だから…だから…あたしの鈍さが、甘さが、こんな結果を招いたんだ…!」

そして朱雀は弱弱しく、かぐやの胸ぐらを掴む。

「なぁ、頼むよ…悪役になってくれよ…あたしにお前を…殺させてくれよ…。」

かぐやは掴んで離さない朱雀を静かに抱きしめた。


朱雀明はかぐやに似ている。

地球経験者という点もあるが、2人は1度、

全てを失っている。

朱雀は、失った物を悔やんでいる。

かぐやは、失った物を取り戻そうとしている。

かぐやは長らく閉ざしていた口を開け、朱雀にある提案をした。

「あなたの大事なモノを奪ったのはわたし、償えるモノなんかじゃない。だから、新しく大事なモノを作る手伝いをさせて欲しい。」

「………。」

朱雀は、何も言わなかったが、かぐやの手を握っていた。

―翌朝。

「同盟か、何千年ぶりだろうな。」

朱雀はあぐらをかきながら茶を飲み言う。

「そもそも月の民に同盟を結ぶ感情があるかは謎だけどね。」

かぐやは漫画を読みながら返す。

「同盟がどんな影響を及ぼすかは分かりませんがね。」

玲愛は同盟の契約書類を見ている。

「ま、今のところは平和なんじゃない?わたしもストックを消費しないといけないし。」

玲愛は山のように積み重なったラノベと漫画を見てため息をつく。

いい加減本棚を用意しろと。

「ところで、今何読んでるんだ?後で貸してほしいんだが。」

かぐやは少し空白を置いたあと、ニッコリして答えた。


「AKIRA。」

「激寒だな。」―朱雀編、完―

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