第1話 別れ。そして出会い 

(ここがお母さんの通っていた高校。桜は綺麗だけどもう葉が見えてる。このペースだと入学時には全部散ってしまってるかもしれない。それにしてもこの学校相当広いんだな。地図を渡されて確認した時から思ってたけど実際目の当たりにすると余計実感するなぁ)


 他校と比べて広大な学校範囲に目を奪われつつ学校周辺を歩いていると身長190㎝はありそうなガタイのいい野球部のユニフォームを着た男子が眉間にしわを寄せながら唸りながら前方を歩いて来た。


(かなり大きい人だな。日本でこの身長は珍しいよね?それにかなり鍛えられた体つきをしてる。けどその体つきに似合わず随分悩んでいる顔してる)


 目の前の男性を前にそんな事を思っていると目が合った。すると急に歩みを止めて輝明の方をジィッーーと見つめ出した。すると突然制服に目線をやった直後急接近でこちらに近づいて来た。


「もしかして君は春からウチの新入生?」


 唐突な質問と急に距離を縮められて少し狼狽えそうになったが男子生徒のユニフォームを確認してから軽く頷いた。


「よっしゃぁあー!それなら大丈夫だ!!」


「?」


 先程までの悩みの種は完全に消滅したかのようにハツラツとした表情を浮かべる男子生徒だあるが、対照的に輝明は何故そのような反応リアクションになったのか、悩みが解決されたその要因が彼にはさっぱり理解できなかった。


 そして何が大丈夫なのだろうか?と思った瞬間には目の前の彼、前沢自由(まえさわじゆう)に担がれていた。


(え、えっ?…えっ?)


「フハハハハハハハ!確保ーー!!」


 輝明には自由が現在進行形で起こしている行動も、行動を起こすに至った理由も理解できず彼の脳内にはひたすら疑問符だけが浮かび上がり、そんな彼の心の内などまるで見えていないかのように男子生徒は笑いながらどことも知れない場所に向かって走り出し、気付いた時には校舎のグラウンドに連れて来られていた。


「おお~前沢、誰か助っ人見つかっ…た……か」


 最初は遠くて自由しか視界に捉えておらず何気ない面持ちだった野球部員達も、彼の方に背負われていた輝明の存在に気付いた瞬間唖然とした表情へと変貌した。


(ここは…この学校の校庭、かな?)


「前沢君さぁ、正直聞くのが恐ろしいんだが君の肩に乗っかってるその子は何かな?うちの学校の制服じゃないみたいなんだけど」


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくださいました!見てください、学校の周りを歩いていたみたいなんで練習要因兼新入部員を見つけてきました!」


「「「………」」」


(練習?新入部員?)


 何の説明もなく連れて来られた輝明は当然困惑した。しかしそういった反応をしていたのは彼だけではなかった。


「あれ?どうしたんですか。、皆して固まっちゃって」


「「「こんの~馬鹿がぁーー!!」」」


彼らが予期していた最悪の返答を平然と口にする自由に対して部員全員の怒号が彼に降り注いだ。


「な、何ですか急に⁉みんなして何をそんなに怒ってるんですか?」


(((こいつ…!!)))


「怒るに決まってんだろうか!どこの世界に新入部員を肩にかけて連れてくる球児がいるってんだよ⁉」


「しかもこの子の制服松村中のじゃないか?」


「つまりこの子まだ中学生って事じゃないか」


「高校生が中学生を拉致るとか…マズイ、よな?」


「ああ、マズイな。誰がどう考えたても思いっきり犯罪行為アウトだな」


「おい!さっさとこいつを警察に突き出して謝罪と共に『この一件はこいつ一人が暴走したもので野球部は一切関与してません』て言わせねーと最悪活動停止になるぞ!」


「いや、それでも今年一杯活動自粛を言い渡されるかもしない。かくなる上はこの件が外部に漏れぬよう闇に葬って完全隠蔽しなければ…」


「ちょっとちょっと、何で大事みたいに言ってるんですか?」


「このアンポンタン!お前が考え無しによりにもよって中学生よそ様をかっさらって来てるからだよ」


「それだとまるで俺がこの子を誘拐してきたみたいじゃないですか」


「みたいじゃなくてそう言ってんだよ」


「そんな大袈裟な、あははははは…」


「「「………」」」


 ありえないといった感じで呑気に笑う前沢だったが他の野球部員の呆れと怒りを孕んだ真顔と沈黙が突き刺さり、流石の彼でも不味い状況なのだと感じ取った。


「な、何でですか!?俺はこの子を連れ来てただけじゃないですか?」


「ちゃん聞き取れなかったみたいだからもう一度言ってやるけどな、どこの世界に新入部員を肩にかけて連れてくる球児がいるってんだよ!?」


「でもこれカッコよくないですか?」


「よくねーよ!下手したら通報ものだ!」


「取り敢えず返してこい」


「ええぇ〜、でもせっかくここまで連れて来たのに」


「連れて来たもなにも、お前絶対碌な説明もせずに拉致っただろう」


「ど、何処にそんな証拠があるってんですか?言い掛かりはドロボーへの旗印なんですよ!?」


「ろくに記憶してない適当な知識を継ぎ足した馬鹿な発言はやめろ。足のケガとかで背中に背負われてるならまだしも、肩に引っ掛けられてるとか。少なくともお前が彼の返答を聞く前に連れて来たのは明白だろうが」


「そ、そんなことはないですよ?」


「はぁ〜、じゃあ一応確認するわ。君はこの見た目はゴリラ『ゴリラ⁉』中身はギリギリ小学生『小学生⁉しかもギリギリ⁉』の地球人みたいな見た目かもしれない人にちゃんと説明されたのかい?」


「先輩俺の事なんだと思っているんですか⁉」


「地球外生命体。で、どうなのかな?から説明らしきものはされたのかな?」


 他の部員たちの目が一斉に大河に集まった。その中で由自が両手を合わせて『お願い!話し合わせて!』と今にも懇願しそうな涙目の表情でジェスチャーしてきた。


 変わってるとは思うけど悪い人ではない…と思うし、いいか。


 ”コクリ”


 輝明が軽く頷くと自由の顔がパアァーと明るくなった。


「…本当に説明してくれたのかあの野生人。出るとこ出ればあのバカ突き出せるよ」


「ちょっと!ちょっと!ちょと!」


 まあ、特別何かされたわけじゃないし


 ”フルフル”


「ほ、ほら~。本当だったでしょう⁉」


「………はぁ、この子の優しさに免じて追及はしないでおいてやるよ」


 その言葉を聞いてあからさまに安堵する由自の姿を見て『やっぱり攫ってきてやがったな』と部員達は確信するのだった。


 そしてこれが赤坂輝明と前沢自由を含む野球部員らとの奇妙な出会いとなるのだった。

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