ロケットナイト~戦うイケメン機士~
山岡咲美
第1話「聖剣のイケメン兄弟機士」
神様は思いました、せっかく手に入れた知恵をどうして戦争ばかりに使うの?
人間ってバカなの?
***
「ふざけるな!! 俺はこんな下らない事の為にゲルマニア前線から戻されたのか!!」
金細工に彩られた金の聖剣、平和の剣[クラレント]を腰から下げたその男は金の短髪を逆立てて真っ白なダブルボタンの軍用コートを身にまといウエストランド円卓帝国加盟国ガリア北部に在る首都ガリアのガリア宮殿に召還さらた。
ガリア宮殿は質素をむねとした現君主を表すような質実剛健な内装に改装されており、その回廊を「ガチャガチャ」とその金の聖剣を揺らしながら早足で歩く軍事コートの男はその苛立ちが回廊に響く足音に表れていた。
「仕方のないよ兄さん、ルイ・ウエストランド皇帝陛下の
同じく真っ白なダブルボタンの軍用コートを身にまとい銀細工の美しい、銀の聖剣、破滅の剣[ベイリン]を音の鳴らないように手で押さえ、銀の短髪の若い男が静かにその兄と呼ぶ男の姿を追う。
「ああ、あのマリーLOVEのバカ皇帝せいだ!!」
「兄さん! 仮にもブリテン・ガリア円卓王国をホーリーロームルス帝国と繋いでウエストランド円卓帝国をお作りになった偉大なる皇帝陛下ですよ」
「それが問題なんだよ! ウエストランドを作る時ホーリーローマが送り込んだわがまま皇后マリーハプスブルグ・オストマルク王女殿下とルイ・ブリテン・ガリア国王陛下の結婚せいで軍は無茶苦茶だ!!」
「ホーリーロームルスを動かしていたハプスブルグファミリーギルドがオストマルクの王女を送り込んだって言うよりルイ・ウエストランド皇帝陛下がマリー・ウエストランド皇后陛下に一目惚れしたって感じでけどね……」
「全く色恋で政治を動かされてたまるか!!!!」
「ボクは戦争で領土を争うよりいいんですが……」
大回廊の突き当たり、赤の礼服を織り目正しく着こんだ近衛兵が両脇を守るなか、分厚い真っ白な二枚扉の前に二人の兄弟機士は「ピタリ」と止まり近衛兵に来たぞと目をやった。
「「モードレッド・M・セイクリッドソード卿!! ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿!!
近衛兵は大きな声で伝令し、扉のロックを外すとその大きく重々しい扉を力強く開いた。
***
「モルドレッド・M・セイクリッドソード勅命により参上いたしました」
「ガラハッド・G・L・セイクリッドソード同じく勅命により参上いたしました」
帝座の間、そこは
「よく来た、モードレッド・M・セイクリッドソード卿、ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿、まずは前線での武功大義である、こたびセイクリッドソードの名を冠し聖剣を所持するおぬしら兄弟機士を帝宮であるガリア宮殿に呼んだのは他でもない、それは新たなる機士団の創設に関してである」
ウェストランド円卓帝国ルイ・ウエストランド皇帝が
「ルイ・ウエストランド皇帝陛下、失礼ながら申し上げる、その下らんしゃべり方と大層ないで立ちを今すぐやめろ! そしてその古めかしい横ロールの連なったハクハツのカツラは何らかのコントであらせられますか!!」
「兄さん!! 申し訳ございません皇帝陛下! 兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿は前線で
兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿は丁寧な口調ではあるが皇帝ルイ・ウエストランド皇帝への苛立ちをかくさず、弟のガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿は慌てたようすでそれを取り繕った。
「ガラハッド!! オレが戦争なんかで疲弊などするものか!! 疲弊するとしたらわがまま王女、マリー・ハプスブルグ・オストマルク! 失礼、マリー・ウエストランド皇后陛下のせいだ!!!!」
「うぅ、兄さん……」
弟、ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿は兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿がいつものようにその短い導火線に火を付けレッドモードに突入してイライラが爆発したと思った。
「…………わかった、すまぬモードレッド・M・セイクリッドソード卿、いやモードレッド、余……、いや僕も辛い立場なんだ、やれ権威を示せだ皇帝らしく振る舞えだの、何故永世帝位にしないだ、どうせブリテン・ガリアとハプスブルグファミリーギルトが組んだんだから国王による皇帝選挙はデキレースだ、なにがみんな仲良く平等だの、拷問無くす法など作ったら犯罪者が付け上がる人権って何だ予算の無駄の方をなくせ、ギロチンの改修とか皇帝の仕事か? だの、マリー皇后にゾッコンか? 皇后の尻にしかれ過ぎだ尽くすのも大概にしろだの言われ、いや良いのだ予算はともかく尻にしかれるのも尽くすのも良いのだ、結構好きだ、いや違うこんな話をするために呼んだ訳では無い」
ルイ・ウエストランド皇帝はフランクにぶっちゃけた。
「…………」
「…………」
「…………すまない、まずはカツラだったな」
ルイ・ウエストランド皇帝はその頭からおうぎょうな横ロールが段々に巻かれた白髪のカツラを外す。
「……相変わらずですね皇帝陛下」
「プッ、兄さんボク駄目だ(笑)」
ルイ・ウエストランド皇帝のカツラの下から「くるりん」とサイド二つ跳ね上がった金髪の癖っ毛を除かせる、整ったナイスミドルの顔立ちもその癖っ毛のせいで台無しだ。
「これ鉄板でウケるんだよね……」
ウエストランド円卓帝国ルイ・ウェストランド皇帝はどや顔をキメこんだ。
***
「……ところでルイおじさん、なんだあの電文にあった
兄弟機士の兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿、弟、ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿はルイ・ウェストランド皇帝と共にルイ・ウエストランド皇帝専用執務室に入っていた、そこは帝座の間近くに作られた秘密の執務室で小さな執務机と来客用を兼ねた四人がけのテーブルがある実用を絵に描いた(文章にしたためた)ような場所でルイ・ウエストランド皇帝が
「そうですねルイおじさん、電文にはマリー・ウエストランド皇后陛下の為の式典機士団とありましたが?」
弟、ガラハッド・G・L・セントブレイド卿も電文の内容に違和感があると言いたいふうだ。
「ルイおじさんらしく無いな、ルイおじさんはいくらマリーを溺愛していても国、いや国民に害ある事などしないだろう? 式典機士団なんて税金の無駄使いだ」
兄、モードレッド・M・セイクリッド卿は小さく実用的な木のテーブルの上に皇帝自ら入れた皇室にはこれ以下のティーカップは存在しませんって感じの高価なティーカップで紅茶を一口飲み『不味い』と思いながらそれは口に出さずまた実用的なテーブルの上に「そっ」とのせた。
「う~ん、マリーがイケメン部隊が欲しいと言うもんで、アイザック・サイエンス博士に頼んだらこんなことになった」
兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿も弟、ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿も超イケメンだ。
「ルイおじさん!!」
モードレッド・M・セイクリッドソード卿はまだ熱く不味い紅茶を一気に飲み干しテーブルに「ガタン!!」と置いた。
「兄さん!!」
兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿はここに来てもまだボケるのかとその苛立ちは頂点に達し、弟、ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿とルイ・ウエストランド皇帝は自分のティーカップからたとえ不味く淹れてしまった紅茶とはいえ国民の税金で購入した紅茶がこぼれないようにと「さっと」持ち上げ避難させた。
「すまないがオレは真面目な話が無いなら前線に帰らせてもらう、前線にはオレの力を必要としている将兵がごまんといるんだ」
「兄さん、この人一応皇帝陛下なんだから口の聞き方考えてよ……」
「気にするなガラハッド、僕はそのような
意外と細かいところ気にする人だな、ルイ・ウェストランド皇帝。
「申し訳ございません皇帝陛下」
弟、ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿が頭を下げる。
「もういいから話を進めろルイおじさん」
兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿はこのコント終わりにしようとばかりテーブルと対となる質実剛健な木の椅子に静かに座った。
「……そうだね、マリーの式典機士団と言うのは隠れ蓑さ、実のところはこれは実験機士団なのさ」
「巨人機、新型ロケットナイトか?」
兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿は身を乗り出す。
巨人機とはこの世界の主力戦闘機械であり、その
「兄さんじゃあ、七色機士団は?」
弟、ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿はルイ・ウェストランド皇帝の意図に気づき兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿に目をやる。
「そうだよガラハッド、七色機士団は新型巨人機、ロケットナイトRK-5[パラデイン]とロケットナイトRK-6[サジタリウス]の実戦実験場になる予定なのさ、既にジャン・フラッグ卿、シャルル・ガンレイピア卿には新型巨人機を届けているからすぐに実戦での性能試験報告が入るだろう」
ルイ・ウエストランド皇帝は壁まで歩き、そこにある窓から空を見上げ……
「ルイおじさん……この部屋密談に使うから窓は無いぞ」
兄、モードレッド・M・セイクリッドソード卿は静かにそう言った。
「兄さんナイスツッコミ!」
弟、ガラハッド・G・L・セイクリッドソード卿は静かなツッコミも良いよねと親指を立てた。
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