精霊姫 On mizukarA
@Tsuka_
第1話
「もうそろそろのはずだが…」
夕焼けが鮮やかに広がる空の下、庭の池を見つめながら、つぶやくように妹に話しかける男がいた。
「奔放なお方ですから…」
皆まで言わず、そう返す妹。
上空に何かを感じ、男が天空に目を向け、一瞬遅れて妹も目を天空に向ける。
妹の方は表情を変えないが、男の方は眉間に少ししわを寄せ、不服の意を表情に見せていた。
―
夕焼けが鮮やかに広がる空の中、高度数千メートル付近で風のゲートが展開される。
ゲートから飛び出した少女が地面に向かって突進するように自由落下をしつつ、邪悪とも見える満面の笑みで咆哮した。
『ついにやってきたぞ!この世界に!』
―
夕焼けが鮮やかに広がる空の下、中学校から帰宅途中の少年が何気に空を見上げてみると、少女が上空から地面に向かっていた。
現実が受け入れられず、最初につぶやいた言葉が
「…投身自殺?…」
自身のつぶやいた言葉を耳にして、改めてその意味を認識した時、落下点に向かって走り出していた。
(落下点に着いたとしても、自分には何もできない!)
走り出してからその事を認識はしたが、でも走ることをやめられない。
奇しくも、その方向は少年の帰路と同じ方角だった。
―
天空を見上げていた男が念じると、男の周辺に霧が展開される。
続いて飛び上がると男の足裏に都度つど氷の板が展開され、階段を駆け上がるように、男は朱色の天空へ上がっていった。
男が駆け上りながら呼びかける
「姫、身隠しの術(hide (by mist))を展開してください。映像記録を残されると厄介なことになりますので。」
水分子が糸電話の役割を果たし、未だ数千メートル上空の少女に声を伝える。
姫と呼ばれた少女が答える
『すぐに用を済ませて帰るのだ。少々は問題ないのではないか?』
「姫!」
怒気を含んだ声で“否”との意味を男が少女に伝える。
しぶしぶ少女が呪文を唱えて術を展開し始める
『えーと…たしか…こうだ! ぐわぁ!』
少女の下方から噴水が吹き上がり、少女の顔面を直撃した。
男が嘆息しつつ、霧を周りに展開しながら駆け上がるスピードを速めた。
―
少女の落下点に向かって走っていた少年は不思議に思った。
頭を下に向けて落下している少女の顔が、笑っているような気がしたのだ。
この距離で表情が見られるわけがないので、それはおそらく気のせいなのだろう。
(…そもそも何処から飛び降りたんだろうか?)
そんな事を考えながら走っていたら、少女の少し下方から噴水が吹き上がり、少女の顔面を直撃した。
あっけにとられて思わず走る速度が落ちるが、数秒の後に少女の近辺が霧に包まれ、気が付けば少年自身の近辺も霧に包まれる。
―
『いつつつっ…』
噴水の直撃を食らった少女が顔面の痛みを両手でさすっていると、膝裏と背中に腕の感触を感じた。
気が付くと氷の板の階段を駆け上がってきた男に抱きかかえられており、その体制のまま落下をしていた。
2人の周りは霧が立ち込めており、2人を周囲の視界から完全に隠していた。
男が言う「言いたいことが山ほどあるのですが」
姫が答える『聞きとうない』
「なぜ風のゲートなのです?水のゲートからお起し頂く手筈でしたが」
『風の王の所に寄ってから来たのじゃ』
「身隠術(hide)は最低でも覚えておいて頂く術の一つだったはずですが」
『最強破壊術を覚えてきた。問題なかろう』
「…人の世では使用を禁止して下さい。」
『なぜじゃ!せっかく覚えたのに!』
「今の世、この国では戸籍というものが思った以上にしっかりしているのです。行方不明者の警察捜査は侮れません。それよりも記憶消去術(Forget me not)を駆使して下さい。まさか…」
『記憶消去術?…あーあれね。うん大丈夫大丈夫』
「…さしあたってもう一つ」
『まだあるのか』
うんざりした表情を姫が浮かべる。
表情を変えずに男が言う。
「風乗りの術( ride wind)は使えますか?まもなく地面です」
『えーと、たしか…』
姫が逡巡している間に、男が足元に水球を展開させる。水圧を操作し、地面に軟着陸をした。
男の妹がひざまずき出迎える「ようこそお越し下さいました。姫様」
本来ならば姫からの「面をあげよ」などの声掛けが無い限り、姿勢を変えることは無いのだが、近寄る人の気配を感じて男が妹に立ち上がることを目配せで促し、妹もそれに応えて立ち上がった。
―
急遽濃い霧につつまれていた少年だったが、数分後あっという間に霧が晴れた。
霧で視界が数メートルという中でも、なんとか勘を頼りに少女の落下点と思われるところに向かって走っていたのだが、とうとう自宅となりのお屋敷にまでたどり着いた。
自身の通う学校の先生宅である。
学校教師の住居としては不相応なほどの豪邸なのだが、“親が資産家だっただけです”というのが先生の弁だ。
表札には“江蓮”と書かれている。
格子状の門の隙間から先生の背中が見えたので、声をかけようとしたが躊躇した。
“空から少女が落ちてきませんでしたか?”なんて言って、大丈夫だろうか?信じてもらえるだろうか?
少年が迷っていると江蓮 涼先生が振り向き、先生の妹であるしずくさんがこちらを見た。
反射でお辞儀をして挨拶をする。
母が昔から“涼さん”と呼ぶので、僕も自然と“涼さん”と呼ぶようになり、中学に入学してから最初のうちは “江蓮先生”と呼ぶようにしていたが、「他に人がいないときは“涼さん”か“涼先生”で良いですよ」と先生が言ってくれたので、そのように呼ばせてもらっている。
「涼先生、しずくさん、こんばんは」
そのとき、涼先生の陰から少女の顔が飛び出した。
“あっ!落下していた少女だ”と思った少年だったが、先に少女が叫んだ
『見つけたぞ!用は済んだ!帰るぞ!完だ!the end!』
涼先生が少女の口をふさぎ、こちらに背中を向けて小声で何か話しかけている。
(涼「見た目の雰囲気は似ていますが、まるっきり精霊力を感じないでしょう?」)
(姫『…たしかに。なんと紛らわしい!こうなれば最強呪文でこやつを…』)
少女の口をふさいだ涼の手から水が発生し、少女の口中を水であふれさせる。
(『ゴポッグガゴゴゴ…』)
しずくさんが話しかけてきた。
「こんばんは、じょう君。遠縁の親戚なのです。長く海外で暮らしていたの。よろしくお願いしますね。長旅で少し疲れて混乱しているみたいです。ごめんなさいね」
「は、はい」
とにかく、少女は無事だったという事…なのか?そもそも少女が落下していたというのが幻かなんかだったのか?
自分自身も混乱しながら隣の自宅に向かって歩き出した。
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