第11話 なかなか来ない相方
ルドルフが中央エリアへと向かうと、そこにはすでに大勢の人間が詰めかけていた。エリアの真ん中ではなく、北側の廊下にほど近い場所だ。管制塔から監視していた結果、このあたりのターミナルへと着港して来ることがわかったのだろう。
指揮をとっているのはミルド、横には騎士も立っている。
保安部はもともとそれほどの人員を揃えていない。せいぜい五十人に、騎士が五十人、そして冒険者は二百人はいるかという人数だ。烏合の衆でどこまで立ち向かえるか。
「敵は北の方角から向かって来ている。おそらく着港は第六、七、八あたりになるだろう。敵は空賊、竜の爪痕。数は五百人は下らない。頭であるルゼファーはSSランクとも称される人物だ。気を引き締めて迎撃に当たって欲しい。我々の目的は、賊の侵入阻止及び早期の撤退を実現させること。深追いはせず、ターミナル入り口で防波堤を築いて守りに徹してくれ。騎士の援軍も準備が整い次第やって来る予定だ」
保安部の職員と騎士達は一様に頷くも、黙っていないのは冒険者だ。
「頭の首、獲ってもいいんだよな」
「獲れるものなら是非ともお願いしたいところだが、何があっても責任は持てんぞ」
「上等だ、命が惜しくて冒険者やってられっか!」
頼もしい雄叫びが上がり、熱気が包み込んだ。
「もう間もなく竜の爪痕はここへ来る。迎え撃て!底力を見せてみろ!」
ミルドの鼓舞で士気は最高潮に達した。ルドルフは迎撃準備をしつつも、まだ現れない相方のことが気がかりだった。一体どこへ行ったんだ? 十一歳の女の子一人探すのにこれほど手こずるようなやつではないはずだ。
現状を聞こうかと通信石を起動しかけた時、遠くから足音が響いて来るのを確かに聞いた。
空賊がーーやって来た。
「急げ!」
言われるまでもなく皆が音のする方へ駆けて行く。第七ターミナルだ。ルドルフが飛び込んだ時には空賊の一団がターミナル内を占拠し、手近なドックを襲っているところだった。
剣を抜き、戦闘準備をする。
すでに血の気の多い冒険者たちは空賊の只中に突っ込み、敵を討ち取ろうと気色張っている。
「うェアァ!」
ルドルフの前に一人の賊がおどり出る。力技で攻撃を仕掛けて来る賊の剣を受け止め、数撃の打ち合いの後に突きの一撃で腹へと剣を突き立てた。そのまま後ろからやって来る敵へとぶつけ、剣を抜いて蹴り飛ばす。
竜の爪痕は五百人という賊と呼ぶにはあまりにも大規模な数で攻めて来ている。接続ゲートから雪崩を打ったように続々と出て来る賊達は、金品を求めてターミナルから出て中央エリアや他のターミナルへと侵入しようと襲いかかって来た。
空港内にはそこら中に利用客が置き去りにして行った荷物が散乱しており奪うものには事欠かない。ある者は奪った物資を持って船へと戻り、またある者はさらなる得物を求めて空港内に侵入しようとする。
「させるか!」
ルドルフは他の職員とともにターミナルの入り口付近に陣取り、先へ進もうとする空賊と斬り結んで侵入を阻んだ。
「
ルドルフは軽い身のこなしで次々と敵を倒す。
通常の保安業務では殺しはご法度だ。どんな下手人だろうと生け捕って騎士団へと引き渡すのが基本。だから相手がどれほど手強かろうと、一撃必殺のような技は使えない。けれど今回のような空賊の襲撃となれば話は別だ。相手は犯罪者の集団、殺して奪う気で攻め込んで来ている。ならばこちらとしても、手加減なく急所を狙って攻撃できる。
ルドルフは足元へと魔法を収束し、空賊の後ろへと回り込む。目の前の空賊は直前の攻撃で剣を振りかぶったもののルドルフの姿が消え、うろたえていた。隙だらけの背後から空賊の首めがけ、ためらうことなく剣を振り抜く。
賊が気がつく間もないほどの速さで振り抜かれた剣は、寸分違わずその首を吹き飛ばした。血飛沫が上がり、首が切り離された体がぐらっと揺れてそのまま地面へと倒れる。
殺した相手に構っている暇などない。相手も仲間が殺されたというのに誰一人気にすることなく襲いかかって来る。
「ラチがあかないな……!」
「なんとか撤退まで追い込むんだ!」
職員の一人とそんな言葉を交わしながら、ルドルフは次の敵を相手取る。
空賊の目的は略奪だ。奪い尽くし、頃合いを見て不利になりそうだと思ったら撤退して行く。だからそこまでなるべく短時間で持ち込むのがルドルフ達の職務だ。
敵の壊滅を目論むには戦力が足りていないし、頭を倒せるほどの者も残念ながら今ここにはいない。そもそもそれは騎士の職分であり、本気で竜の爪痕の討伐をするのであれば騎士と高ランク冒険者の混成部隊を組んで、飛行船に乗り込み空の上で決着をつけるだろう。空港でやるには建物も人的被害も大きすぎる。
保安部の職員の職務はあくまで空港内の治安を守ること。
ターミナルの出入り口を死守すべく戦うルドルフだったが、敵の戦力は圧倒的でジリジリと押されていった。そして僅かにできた綻びから、敵が無理やり押し通る。
「しまった!」
どれほど小さな穴だろうが、出来てしまえば塞ぐことは難しい。一人また一人と賊が隙をついてターミナルの外までその足を伸ばして行く。
「追え、逃すな!」
近くで戦うミルドの指示により騎士の数人が駆け出した。ルドルフも行こうとするも、眼前に迫る敵がそれを許さない。
「おっと、ニイちゃん。どこへ行くんだ? 俺と遊んでいけよ!!」
「ぐっ!」
力任せに武器を振るうその男は存外に素早く、ルドルフにエリアを出る隙を与えない。
(さっさと来い、デルイ!)
ちっとも現れぬ自身の困った相方に思いを馳せ、ルドルフは賊と剣を交えた。
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