第3話エンド
バッタン!
部屋に戻るなり私はペタっと地面に腰を下ろした。
自分に与えられた部屋を見渡すとアーサー様との部屋の落差に現実に引き戻されて冷静になる。
これでよかったんだ、私達は何もなかった。
アーサー様だって私みたいなのから言い寄られでもしたらと気に病んでしまうかもしれない。
彼は真面目で責任感の強い恥ずかしがり屋だから…
言い訳をするように自分に言い聞かせる。
だ考えないようにと思えば思うほど頭に浮かんでくるのは彼の事ばかりだった。
昨夜のお酒を飲みながらの会話で彼の事が少しわかった。
なんでも出来る完璧な男と思われがちだがそん事はなく、陰で沢山の努力をしている人だった。
毎日の鍛錬も欠かさずにやっている。
何もせずに強くなった訳では無かったのだ。
家の時期当主争いに優しい兄が傷つかないようにと自分が家を出たこと…
小さい頃に好きになった少女がいた事…
こう見えて花が好きな事…
アーサー様は色んな事を話してくれた。
そんな顔を知って好きにならない女などいるわけない!
あれはアーサー様が悪い!
今になりなんだがムカムカしてきた。
だから…
誰にも知られず好きでいることくらいは許して欲しい…
自分の髪から香るアーサー様と同じ香りに包まれて私は膝を抱えて丸くなった。
こんな気分でも容赦なくパーティはやってくる。
重い体を引きずって会場へと来ると扉に隠れて中の様子をうかがった。
いた…
そこには不機嫌そうに腕を組んで立つ、アーサー様の姿が目に入った。
今日も相変わらずご令嬢達に囲まれているがその顔はムスッとしていて誰の話も聞いて無いように見える。
キョロキョロと会場を見回して誰か探しているようだった。
私は見つからないようにコソッと隠れながら中へと入るとアーサー様のいる場所から死角になる壁際へと移動した。
ここなら気が付かれないだろう…いや、気が付かれてももう関わりたくないだろう。
どうせ見つけられたとしても話してくることはない。
そう思うと少し気が楽になった。
周りを見れば相変わらず楽しそうに話をする令嬢達、するとこちらに気がついてスタスタと歩いてきた。
「確か…ソフィア…様でしたかしら?あなたアーサー様とはどんな関係なのかしら?」
「え?アーサー様と?」
いきなりアーサー様の事を聞かれて戸惑ってしまう。
「ええ、昨日一緒に部屋を出ていかれましたでしょ、その後アーサー様の部屋からあなたが出ていくのを見た人がいるんですけど」
決して好奇心や友好的な態度ではなく敵対するような目付きで睨みつけられる。
「アーサー様は…私のドレスに飲み物をこぼしてしまったと言って気を使って下さり、部屋でドレスを綺麗にしてもらいました。誠実な対応をしてくれただけです。何もやましい事などありませんよ」
なるべく騒がせないように落ち着いて答えた。
「やっぱりそうでしたの!もうアーサー様は誰にでも優しすぎますわ!でもその優しさは私にだけでいいのに…」
真ん中にいた令嬢がアーサー様を思ってぽっと頬を赤らめた。
「そうですよ、アーサー様がこんな地味な方を相手にするわけありませんわ!イザベラ様が一番に決まってます」
取り巻きにおだてられてイザベラと言われた令嬢は得意げに顎を上げた。
「まぁそうでしょうね!アーサー様と唯一お茶をしたのは私だけですからね。部屋で二人っきりになったのも…」
そう言うと意味ありげにこちらをみて笑った。
ああ、そういう事か…
本当に一人で勝手に惚れて馬鹿みたいだ。
アーサー様くらいの人なら相手がいない方がおかしい…私の事は本当に酒のせいでの過ちなのだ。
そう思うと気分が沈む…
その間もイザベラ様はべらべらとアーサー様の事を話して来るがほとんど頭に入ってこなかった。
ある程度時間が過ぎたら部屋に戻ろうと考えていると…
「ソフィア!」
アーサー様が私を見つけて凄い形相で小走りに駆け寄ってきた。
「あ、アーサー様…ごきげんよう」
イザベラが笑顔で挨拶をするのを華麗にスルーして私の元にやってきた。
私はサッと頭を下げて視線を逸らす。
なぜわざわざ知らない顔をしたのに名前を呼んで近づいてくるのか…しかもイザベラ様がいる前で…
「顔をあげてくれ」
「は、はい」
顔をあげると表情が強ばっている。
「体は…その…大丈夫だろうか?」
「なっ!」
そんな事をこんな場所で言わないで!
周りを見れば私達に視線が集中していた。
そんな私の様子に気がついたのかアーサー様はまた腕を掴むと歩き出した。
え?イザベラ様は?
私は唖然とするイザベラ様の顔を見ながらアーサー様にテラスへと連れてこられて誰も入ってこないように扉を閉められる。
「ここなら二人で話せるだろ、それに声も聞かれない」
「あ、ありがとうございます…でもいいんですか?」
私はアーサー様の顔が見れずに顔を逸らして後ろを気にしながら返事をした。
「なにがだ?いや、それよりも体は大丈夫なのか?」
肩を掴まれて体を確認される。
「は、はい!なんともありません!だって何も無かったですから」
無かったことにするんでしょ?
だったら自分から先に言ってやる。
その方がダメージは少ないから…
そう思って自分で口にするが思った以上に辛い。
グッと胸の痛みに耐えて笑顔を作って前を向く。
「それはあの手紙に書いてあった事か…」
コクッ…
私は頷いた。
「そうか…」
アーサー様の反応が気になり顔を見ると大きな手で口元を隠して笑っていた。
その顔をみて確信する。
「ご安心下さい、私から公言する事は致しません。アーサー様は安心してイザベラ様と幸せになって下さい」
「ん?待てなんでそうなる。イザベラとは誰だ?」
「アーサー様の恋人なんですよね、私が言うのもなんですがこんな事もうないようにしてください昨夜の事は全て忘れます。あの夜の事は二人だけの秘密です」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!私に恋人などいない!イザベラなんて人も知らない」
え?じゃあさっきの人はなんなんだ?
私は首を捻った。
「あの手紙はそういう意味だったのか…」
何を今更とアーサー様を見ると何故か悲しそうな顔をされた。
「そんな顔をしないで下さい」
こっちまで悲しくなる。
諦めようとしていた気持ちに迷いが生まれる。
「ソフィア、昨夜の事をなかったことには出来ない」
「え…」
「そんな不誠実な事、私には出来ない…だから責任をとらせてくれ」
責任…こんな時まで責任を感じなくていい、自分が惨めになる。
「いえ、大丈夫です。わかってますから…私本当に誰にも言いませんから」
笑ってそう言うとアーサー様の機嫌が悪くなった。
あからさまに目を釣りあげて怒っている。
「ソフィアはわかっていない、私がどれだけ君を思っているか…お願いだ私の伴侶になってくれ」
伴侶?
伴侶って…アーサー様と結婚するって事?
「無理無理!無理です!私なんかじゃ釣り合わない!」
「釣り合う、釣り合わないではなく…私の事をどう思う?」
「そ、それは…」
いつの間にかそばにきて壁際に追い詰められていた。
「それは?」
下を向いて少しでも逸らそうとすると長い指で上を向かされる。
否応なしに視線が合うと昨日の事を思い出して顔が赤くなった。
「あんな事をして何も無かった事になどできない。わかってるだろ」
アーサー様の真剣な顔に服を汚された時の事を思いだした。
「でも…イザベラ様が…」
「先程から言ってるイザベラという人だが私は誰か知らん!それに付き合ってる女性もいない」
「本当に?本当に私でいいんですか?」
「私で、では無い。ソフィア、君がいいんだ…ずっと君が好きだった」
アーサー様に優しく顔に手を添えられて上を向かされる。
私は少しだけ踵をあげてアーサー様に近づいた。
私、最高の伴侶を見つけられたみたいです。
でもずっとって…?
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