Light Fallen Angels

桜木 朝日

エピローグ編

第1話 始まりの始まり

時は3016年。葉が紅に染まる秋。そこに、

小さくて僅かな光がある。これはその光が

動き出すきっかけの物語。

それを語る前に少しだけ光を語ろう。


ヒョウ型獣人「あ、フラット!財布落としたっすよ」


フラットと呼ばれた茶髪な少年は少しキョトンとした顔で彼の顔を見る。


フラット「あ、ありがと、エド!でも、そこ...日陰だけど大丈夫?なんか嫌な予感が...」

「ギャルル...!」

エド「げっ、アリジゴクっすか⁉︎」


アリジゴク。それは人を喰らうバケモノである。人を喰らっていないアリジゴクは一般人には見えず、幼体を維持したまま影の中に潜み、人を喰らう。


エド「ちょ、戦闘モード起動する暇がー」


時既に遅し。エドは幼体に一飲みにされた。


アリジゴク「ギャウン!」

フラット「エド⁉︎もう...!ちょっと待って!戦闘モード起動!」


フラットの腕時計状の端末から青い光が放たれる。そしてー


フラット「ウォッチフォンをカメラオンにしてドローンモード!さて、審判の時だ!第一審判『こぼし』・『凍瀧之結界』!」


近くの川の水をアリジゴクの足元に撒き散らしそれを神業で凍らして身動きを封じ込めた。


広報「浅草にアリジゴク反応!デ・ロワーが対処に当たります!」

フラット「ナイスタイミング!」

虎型獣人「おっと、ここか!」

フラット「バトラー⁉︎イベントは⁉︎」

虎型獣人「ちょうど公園のそばだったからよ!観客も避難済みだぜ!それよりナックル様の活躍、ちゃんと押さえてくれよペーター!」

ペーター「あぁ、任せておけ」

フラット「ペーターさんまで...でも助かった!いくよバトラー!エド救出作戦開始!」

ナックル「エド喰われてるのか?ったく、バカだなぁ!ならここは任せとけ!第一突進『光』術・『光纏タックル』!」


 光り輝く神力を纏い、ナックルはアリジゴクに突進した。


アリジゴク「ギャウン!」

黒髪少女「あれ、もう集まってる」

金髪少年「なんだ、このペアなら楽勝だな」

フラット「もう遅いよ!もうちょっと早く来いって!

第二審判『炎』術・『永久黒炎結界』!」


 黒い炎に包まれ、アリジゴクは討伐された。


アリジゴク「ギャァァァァ...」

フラット「よしっ、戦闘モード解除!」

エド「ん...あ、助かったっす...」

フラット「もう、油断大敵だよエド」

ナックル「で、やけに出動が遅かったが...何があったんだ?ノールか?クレアか?」

黒髪少女「クレアだ。足の怪我がどうってうるさくてな」

クレア「どうせなら他の奴を連れて行けよ!スターとかフォールとか!」

ノール「お前しかオフィスしかにいなかっただろ。スターとスラリアは公園だろうし、フォールはどうせ、酒のんでるだろうし」

クレア「怪我してる俺を連れてったところで足枷にしかならんだろ!」

ペーター「まぁまぁ、脅威も倒したことだしそれでよし、だろ?」

フラット「はい!じゃ、イベント準備にいこっか!」

ノール「その前にメンバー集めないとな」

金髪幼女「あれ?アリジゴクは?」

クレア「お、スターとスラリアも来たか!」

スター「うん!スラリアともうちょっと戦闘の練習したかったんだけど...

まぁいっか!」

スラリア「というより、解決早かったね。広報からほんの1分だったと思うよ」

フラット「まぁ、バトラーとペーターさんが来てくれたから」

ペーター「で、フォール君は?」

スラリア「多分、いや、絶対酒屋でしょ」

フラット「ん?あれ、フォールじゃない?」

クレア「どれどれ...お、流石に来たか」

エド「まぁ、もう遅いっすけど」

フォール「ありゃ?解決済み?なーんだ」

フラット「なーんだ...じゃないよ!また飲んだでしょ!匂うよ、ツマミの匂いもついでに」

フォール「ちぇ~、バレバレか」

ナックル「じゃ、全員集まったわけだし、イベント準備といこうじゃねぇか!」


 僕はフラット・クラリオ。この東京銀座の対脅威神兵部隊、いわゆるファイターとして活動している。

 そして、ここにいる皆は僕の仲間。ファイターは企業なんだけど、僕達はデ・ロワーで働いてる。

 そう、ちょっと特別な経験があったからー


 2024年ー

 とある小部屋の中...ギシギシと音を立てる縄。それにぶら下がり、指一つ動かさない。まるで人形のように固まった青年。翌日にはお経を読まされていてー



 その青年は目を覚ます。いや、気がついた。

フラット「ここは...?」

獅子型獣人「お、やっと目が覚めましたか。ご機嫌はいかがですか?」

フラット「あれ...何がなんだか...」

 

 真っ白な部屋の中、見知らぬ獅子獣人が話しかけてきた。


獅子型獣人「夢を見ていたのですよ。危うく、あなたはあの世行きでしたが。私が救ったのです。それでは私が責任持ってあなたを送り戻します」

フラット「...戻る...」

獅子型獣人「はい、あなたが望む世界に。なので心配いりませんよ」

フラット「なら...お願い」

獅子型獣人「かしこまりました。では...」

 

 彼は指を鳴らす。すると辺り一面が闇に溶け込まれていく。


フラット「うわっ!...あ、夢...だったのか」


 腕時計型の端末で時間を確認するフラットは、一瞬変な違和感を覚えた。


フラット「?3016年...いや、何そんなことで驚いてんだ。えっと...6:17...!やばっ、朝食!その前に顔洗わないと!あぁでも洗濯!」


 時刻を確認すると、すぐさまベッドから飛び降りて家事を始めた。


フラット「ふぅ、まだ6:40か。じゃ、顔洗おっと」


 洗面所の鏡を見るフラットは、また違和感を覚えた。


フラット「だ、誰⁉︎...いや、僕じゃん。何言ってんだ?まぁ、顔洗おっと。寝ぼけてるんだ、きっと」

 

 ――ピピピピ!ピピピピ!


フラット「朝食できた!って、のんびりしてる暇、ないんだった!大学の準備も整ってないし、まだあれも...あれもあった!やっばーい!」


 部屋の中をドタバタと音を立てて慌ててフラットははしくり回っていた。


ナックル「何だよ朝から騒々しい」

フラット「ナックルさん!大学!」

ナックル「あ?今日は金曜日だろ?」

フラット「そうだった、丸一日寝てたんだった。ナックルさん、今日は土曜日!大学もあるよ!」


 2階から降りてきたナックルは、何も状況を知らず、ドタバタと音をたてているフラットにイライラしていた。だが大学の講義があると知った途端に目の色を変えた。


ナックル「え...あ、マジだ!何で起こしてくんねぇんだよ!」

フラット「寝坊しちゃったからだよ!だから今急いでるんでしょ!」

ナックル「わーった、わーった!耳元で怒鳴んなって」

フラット「分かればいいよ!ほら朝食できてるから先に食べてて!僕は後で食べるから」

ナックル「一緒に食う!それが掟だろ?」

フラット「はいはい。じゃあちょっと待ってよ。パパっと準備終わらせちゃうから。ていうか、ナックルさんこそ大丈夫?昨日は一日中寝てたけど」


 飲みすぎて1日潰すとかもったいない、とか言いたいけどそんな暇ないくらい忙しい!

 チャチャっとやること終わらせないと!


ナックル「俺は既に準備終わらせてあるからな!問題なしだぜ」

フラット「もう、そういうとこはぬかりがないんだから」

ナックル「ていうか寝癖なおしとけよ。今日は一段と酷いぞ」

フラット「いやセットだし。どうせ春風で乱れるしどうでもいいよ」

ナックル「ハハハハ、たしかにな!」



フラット「じゃ、準備も終わったことだし、いただきます!」

ナックル「いただき!ってまたハンバーグかよ。晩飯と同じじゃねぇか」

フラット「残ってるからじゃんじゃん食べてね!おかわりもあるよ!」

ナックル「んないらんわ!」

フラット「冗談だよ、冗談!あ、ほら急がないと!遅刻しちゃうよ」

ナックル「だったら...これで行けばいいだろ!」


 食パンをハンバーガー状にして口に挟むナックル。そのまま玄関へと向かう。


フラット「小学生の遅刻じゃないんだよ⁉︎」

ナックル「いいからいいから!急ぐんだろ?」

フラット「もう...恥ずかしいとかないのかな」



ナックル「ほらな!大学着く前には食い終わるんだぜ」

フラット「ながら食いってはしたない...」

女教授「あら?お二人とも。ごきげんよう。お時間ギリギリですのでお急ぎくださいまし」


 門を越えると、穏やかな表情を見せる教授がいた。


フラット「あ、バジー、おはようございます。それでは講義に行きますので」

ナックル「?お前、バジーに敬語なんか使ってたか?」

フラット「えっ?どうだろ...気にしたことなかったな」

ナックル「まぁいっか。それじゃあな!」



 講義室ー

フラット「ふぅ、何とか間に合った~!」

ナックル「ギリギリだったぜ」

教授「おーし、それじゃ始めるぞ。今日はレポートの提出日だったな。受付開始してるからパソコンのデータを提出するように。不具合で送れない者は後で来い」

ナックル「ふっふっふ、提出するぜ!」

フラット「...?ねぇナックルさん。バッグは?」


 その言葉がナックルの笑顔を打ち砕いた。


ナックル「へ?...わァァァァ!」

教授「⁉︎何だ、誰だ⁉︎授業中に大声出してるやつは」

フラット「ちょ、バレたら洒落になんないよ!

しょうがない、取りに行ってくるよ」

ナックル「へ⁉︎どうやって!」

フラット「まっ、任せて。教授、お手洗いに行きたいのですがいいですか?」

教授「あぁ、フラット君か。いいとも」

フラット「すみません」

ナックル「便所って言っても往復でせいぜい10分しか

言い訳成立しないぞ⁉︎」

フラット「大丈夫、5分もあれば何とかなるから」

ナックル「は?」



フラット「はぁ、結局あの術を使う羽目になるのか。よいしょっと、誰もいないよね...神業・空間接続」


 個室トイレの壁に隙間が生じる。その隙間の向こうにはナックルの部屋が写っている。その中には案の定、ナックルの鞄があった。その隙間をまたいで、フラットはナックルの緑色の鞄を見つけた。


フラット「あれか。よっと、じゃあこれ持って...あ」


 ここに来てフラットはある問題に気がついた。


フラット「この鞄持ったまま講義室入ったら絶対怪しまれる...どうしよ...」


 フラットはとりあえずトイレに戻り、隙間を閉ざすしてから辺りをキョロキョロ見回すと、ツルの伸びたヘチマの苗を窓の景色から見つけた。


フラット「ツル...これだ!神業・急成長!」


 フラットが“神力”で“神業”をツルに向けて使うと、そのツルが一気にフラットのもとまで伸びた。


フラット「あとはこれを括り付けて...講義室までツルを伸ばせば!」


 鞄をツルで結び、更に神力でフラットの思うがままにツルが伸びていった。



 その頃、グラウンドー

男子1「ん?おいアレ何だ?」

男子2「ツル...?おい浮いてるぞ⁉︎」

女子「嘘⁉︎異世界モンスターか何か⁉︎」

男子1「だったらヤベェ!逃げろ!」



 だが、何も知らないフラットは-


フラット「何だか外が騒がしいな...まぁいっか」



 講義室ー


ナックル「?うわっ!な、何だよ⁉︎」

教授「どうした?ってなんだ⁉︎」


 フラットが伸ばしたツルはたしかにナックルの元まで伸びた。

 だが、神力を浴びすぎたせいで少し自我を持ってしまったか、ウネウネと奇妙な動きをしていた。

 しかし、ナックルはそのツルに自分の鞄が結びつけられていることを確認した。


ナックル「あ!俺の鞄!てことはこれ、アイツの!ちょ、返せ!よっと!」

教授「そ、そのツル、異世界モンスターじゃないのか!」

ナックル「じゃあこれ、切っとくぜ」


 鞄の中からハサミを取り出し、ツルを切る。すると、ツルは地面へと重力に従って落ちていった。


ナックル「これで一安心だろうぜ」

教授「あ、ありがとうナックル君」

フラット「今戻りました」

教授「あ、フラット君、君は運がいいね」

フラット「え?」

教授「あぁ、知らなかったならいいよ。じゃあ席ついて」

フラット「はい、失礼します」


 結局、フラットは何も知らぬままであった。


ナックル「ったく、迷惑かけるような真似しやがって」

フラット「ごめん、こうするしかなくってさ」

ナックル「まぁ、ありがとよ。あの教授、怒るとうるさいからな」

フラット「河合教授?怒ったとこみたことないけど」

ナックル「そうでもないぜ。裏の顔を見せたら最後、長時間にわたる正論説教の開始だ」

フラット「アッハハ、何それ」

広報「ウー!ウー!ウー!アリジゴク大量発生!浅草にいる人は近くの地下シェルターへ避難してください!」

ナックル「へ、は⁉︎」


 大きなサイレンと共に、避難指示が出された。これはファイター企業が非常事態時に出す、避難命令である。


フラット「教授、一旦避難しましょう!」

ナックル「くっ!」

教授「避難だな!今日の講義は延期にする!日程は後ほど送る!その代わりレポートの提出は言った通り昼まで!避難するぞ!」


 講義室の生徒が一斉に中庭にある地下シェルターへ向かっていく。ただしー


フラット「行かなくちゃ!1人も犠牲が出ないうちに!」

 

 その波を掻き分け、フラットは校外に飛び出る。


フラット「あそこか!」


 空にアリジゴクを呼び出すゲート、通称“脅威の口”が

開いていた。


フラット「あれが閉じるまで...!誰もいないよね。カメラをオンにして...僕の専門チャンネルでライブ中継開始!いくよ、応援よろしくリスナー達!戦闘モード起動!」


 ライブ機能をオンにしたウォッチフォンをドローンモードにし、同時に“モード承認”という画面をタップすると、フラットの右手に眩い青い光を放つ槍が握られた。

 そして、既にウォッチフォンの画面には-


[がんばれ法神!]

[ファイト!]


といった応援コメントが送られていた。


フラット「うわっ、もう支援力集まってる!ありがと!じゃあ...いかせてもらうよ!まずは動きを制限する!

第一審判『零』術・『凍瀧之結界』!」


 三頭のアリジゴクを中庭の下水管の水を使った凍った滝で閉じ込める。


フラット「よしっ、このまま倒す!

第二審判『炎』術・『永久黒炎結界』!」


 止めに神器から放たれる黒炎がアリジゴクを包み、討伐成功への道が開いた。


アリジゴク「イギィィィィィ...」

フラット「うん、いい感じ!」

ナックル「フラット...?」

フラット「えっ、あれ、ナックルさん⁉︎」

(やばっ、ナックルさんそういえばマジモンのファイターだった!)

ナックル「お前、ファイターだったのか?」

フラット「まっ、まぁ一応」

ナックル「どこのだ?」


 その瞬間フラットの端末にー


[えっ、どゆこと?]

[フラットってデ・ロワーの二期生グループなんじゃ

なかったのか?何でナックラーが知らないの?]


 ナックルの言葉で、フラットのついていた嘘がリスナーにバレかけてしまった。


フラット「げっ...皆、今日はこの辺で!バイバイ!」

ナックル「...!お前、隠れかよ!」

 

 隠れとは、非公認ファイターの名称である。


フラット「ヴァイスじゃないだけ許してよ。それに今は一緒に戦って!隠れだけど...何とか合わして!」

ナックル「いいが、後で謝罪しろよ。嘘ついたこと」

フラット「分かってる!それじゃ...構えて!第二波、来るよ!」

ナックル「おう!」

アリジゴク「ギャオォォォォォ!」

ナックル「なっ、特級だと⁉︎」

フラット「特の字...!いける!」


 ナックルの持つファイターキットの一つ、脅威レベル探知機には特の字が刻まれていた。それは上から2番目に強いと言われている脅威レベル。戦闘素人では対等に戦うことなど、まず不可能である。


ナックル「お、おい!無謀すぎるぞ!」

フラット「使える必殺技は使い切っちゃったけど...神業で対応すれば!神業・断罪!」


 だが、無闇に突っ込んだフラットには自信に溢れた瞳があった。強く握られた神器は鋭く尖った神力の刃を纏い、アリジゴクを切り裂いた。


アリジゴク「ギュピッ⁉︎」

フラット「そして神業・与罰!」


 更に、神力が火の玉となり、アリジゴクを燃やし始めた。


アリジゴク「ギャフっ!」

フラット「トドメ!神業・審判!」


 槍が更に強い青色の輝きを放つと、その光に浴びたアリジゴクは段々と浄化されていった。


アリジゴク「ギャァァァァ...」

フラット「よし!討伐完了!」

ナックル「スッゲェ...特級を1人で、しかも神業だけで倒しやがった」


 特級は、普通ならば1人の神力だけで勝てるような相手ではない。数名のファイターが支援力を使いつつ、協力しながらようやく勝てるくらいの相手なのだ。その特級を、最も容易くフラットは倒してしまった。


フラット「それじゃ謝らないと」

ナックル「なぁフラット。お前、デ・ロワー入れよ。

ファイターライセンスは持ってるだろ?隠れなんだし」

フラット「も、持ってるけど?冗談だよね?僕がデ・ロワーなんて」

ナックル「そんな冗談言ってどうするんだよ。本気に決まってんだろ」

フラット「へ...」


 一瞬我を忘れたフラット。デ・ロワーは地球一を名乗る

大手ファイター企業、アカデミーの中でもトップである

企業だったからである。


フラット「無理だよ僕なんかに!第一、勝手に名前まで

使ってたんだよ⁉︎」

ナックル「あぁ、あれは俺も知ってたぜ。ただこの目で見るまでは信じてなかったが。でも、お前のような実力者を認める存在が必要ってわけだ。その役を俺が演じてやるよ!」


 その言葉を聞き、フラットは一旦呼吸を置いた。


フラット「ナックルさん...分かった。でもちょっと待ってくれる?こればかりは」

ナックル「まぁ、自分で決めることだしな。でも、お前は来るべきだと思うがな」

フラット「まぁ、今日は考えとくよ」


 ――ピロロン!ピロロン!(着信音)


ナックル「ん?何だ?ペーターからか」

 

 着信許可を押した瞬間に、大声が響き渡った。


ナックル「おう、どうした?」

ペーター「さっき一緒に戦ってた子、誰だ⁉︎凄い良い!是非紹介してほしい!」

ナックル「あ、あぁ~...アイツね。今もいるぜ。フラット、ちょっと来い」


 通話をビデオ通話に切り替え、ナックルはフラットを引っ張り、ペーターに見えるようにした。


フラット「ワァッ!」

ナックル「コイツ、隠れだからよ! スカウトするぜ! ヴァイスじゃねぇし、いい戦力だぜ」

ペーター「隠れ...いい!こっちも条件にピッタシだ!ぜひ来て欲しい!」

フラット「お、お話だけお伺いする形でもいいですか? まだ何をどうすればいいかも分からないので」

ペーター「とにかく来てくれさえば! 今、人手不足でね。来てくれると嬉しい!」


 人手不足…つまりは困っているというわけか。なら、悩む意味もない、答えは決まった。


フラット「...困ってるんですね!それなら話もいらないです!僕は...やります!」

ナックル「即決かよ!だったら何で考えてたんだよ!」

フラット「いや、入っていいって言われたから気持ちが楽になってさ」

ナックル「あぁ、まぁ分かるがよ」

フラット「で、どうすればいいの?次の講義は午後からだけど」

ナックル「あぁ~...うーん...手続きとかの時間考えると講義全部受け終わってからの方がいいな」

フラット「分かった」

ナックル「にしても助かったぜ。今マジで人手不足だからな。今じゃファイターは俺ともう1人だけ。つまりは2人しかいなくてな」

フラット「あれ?地球1にしては少なくない?」

ナックル「募集とかかけてもその地球一ってハードルがあってどうしても入るやつが来なくてよ。もう1人ってのが唯一の入社希望者でな」

フラット「凄い!筋がいいとか?」

ナックル「お前ほどではないがな。だが、磨けば光る。まだ未熟だが」

フラット「未熟...どういうこと?」

ナックル「願望ウィッシュが全然ないんだ。そのせいでファイターとしての力を活かしきれていない」


 願望とはいわゆる欲望である。


フラット「あぁ...願望がないと神力って引き出されないもんね」

ナックル「お前の願望は何だろうな。案外欲が浅そうなお前に、あれだけの神力を引き出す願望があるとは驚きだぜ」

フラット「一言余計だよ!僕にだってよく深いところはあるよ!あまり言わないけど」

ナックル「ほーう...どんな欲だ?愛情か?幸福か?それとも怠惰か?」

フラット「全部って言ったら?」

ナックル「お前を7大罪と呼ぶ」

フラット「なんだそれ。まぁ、昼まで自由だし...そうだ!デ・ロワーの見学させてよ!どこにファイター課があるとか知っときたいし!」

ナックル「ま、まぁいいとは思うが騒ぐなよ?他の課は一般業務中だからな」

フラット「分かってるよ、子供じゃないんだし」

ナックル「それじゃ来いよ。案内してやる。って言ってもすぐだがな。寮から大学の道中にあるし」

フラット「えっ?」


 

 フラットはナックルに連れられ、通学路としているいつもの道にいた。


ナックル「ここだ」


 そして立ち止まったのは、見上げてもてっぺんまで見えないほどの高さがあるビルの前だった。


フラット「デッカ⁉︎こんな巨大なビルなの⁉︎」

ナックル「あぁ、地下に駐車スペース、中庭付きに140階建て!食堂付きだからいちいち外に出る必要もなし!とは言ってもこれはファイターに関係ねぇか」

フラット「出張とかも多いもんね。でも、僕がファイターかぁ...」

ナックル「隠れだったんだしファイターみたいなもんだろ。それに特級をあんな軽々しく倒せるやつがいるなんて想像してなかったから、デ・ロワーが更に地球1になっちまうな!」

フラット「別に特級っていってもその上がいるでしょ?あれに勝ったことないけど」

ナックル「流石にエリート級脅威には専門武器がねぇと倒せないしな。まぁ、見学だろ?そんならこっちだ」

フラット「あ、ちょっと待ってよ!」


 中に入ると、これまた綺麗な作りだった。だが、なぜか子供がたくさんいた。


ナックル「とりあえず一階から40階までは無視でいいな。学校だし」

フラット「学校⁉︎」

ナックル「あれ、知らんかったか?私立小中高一貫性のデ・ロワー支援浅草学園」

フラット「知らなかった。ていうか40階まで学校ってどんな作りしてるの⁉︎」

ナックル「このビル、縦にはでかいが狭い。だから教室が1階につき3部屋しか設置できなくてな。それにだんだん生徒の数が増えてきて増設の繰り返し。それが原因で今じゃビルがこの高さだ」

フラット「地震とか来たら怖...」

ナックル「そっちの方面の心配はいらんぜ。神業と結界で耐震強化は万全だ!」

フラット「凄い...でも...」


 グゥ~という音が、フラットの胃から鳴った。


ナックル「腹減ったならそう言えよ。まぁ戦闘であれだけの神業使ったんだ、腹が減るのは当たり前か」

フラット「へへへ、ごめん」

ナックル「それじゃまずは食堂か。じゃ、52階か」

フラット「細かいね、区切りのいい数字の階にすれば分かりやすいのに」

ナックル「いや、食堂にちょうどいい作りが52階の作りなんだ。だからー」

「ん?あれ、ナックラーさんっすか?今日は大学じゃなかったっすか?」

 

 エレベーターの方から、入口の方へと誰かが歩いてきた。


ナックル「おうエド!紹介するぜ。コイツはエド・リック・ティガ。お前の先輩になるやつだ」

フラット「先輩...よろしくお願いします!」

エド「...でナックラーさん、大学はどうしたんすか?」

フラット「...あれ?」


 しかし、エドと呼ばれた豹獣人はフラットの挨拶を返すことなく、ナックルに話を戻した。


ナックル「エド、先輩なんだぞ。ちゃんと挨拶されたら返せ。それが礼儀だろ」

エド「...よろしくっす。それでー」

フラット「あ、ナックルさん。連絡来てますよ」


 だが、今度は今度でフラットがエドの挨拶を無視した。


エド「無視っすか⁉︎本当に失礼なやつっす」

ナックル「ま、まぁフラットはこういうやつだ、気にすんな。それで...?バジー?」


 バジーに何かした覚えがなく、変だなと思いつつ、ナックルは通話を許可した。


バジー「ナックル様ですか?ってオフィス⁉︎大学の講義、まだ残っていますよ⁈」


 立体映像に映し出されたバジーは、同じく映像越しに見えたナックルの背景がデ・ロワーのビルだと気づき、驚いた顔を見せた。


ナックル「あ、いや、フラットにオフィス見学をさせてんだ。明日から俺の後輩だしな」

バジー「えっ⁉︎フラット様、ファイターだったんですか⁉︎」

フラット「一応...そうですよ」

ナックル「一応とかじゃないぜ!特級を神業のみで倒しちまうほどの実力者だ!」

エド「ふぇ⁉︎神業だけっすか⁉︎」

バジー「無謀すぎですわ、特級相手に...でも、ナックル様がお助けして勝ったんですよね?」

ナックル「いや?コイツ1人だ」

エド「1人っすか⁉︎何すかその実力!」

フラット「い、いやそんなこと言われても知らないよ。昔からだもん」


 特級を1人で、なおかつ神業だけで倒した事実を聞いた瞬間に、辺りが静まり返った。


バジー「昔からって...フラット様の神力の正体を

知りたいですわ」

ナックル「あぁ、それなら分かってるぜ。法の力だ。昔からの幼馴染だからな、力の正体は知ってるぜ。ただ...ファイターだったのは知らなかったな」

フラット「隠れだったんだししょうがないよ」

バジー「あ、それでナックル様。河合教授がお呼びでしたわ。何だか支離滅裂なことを口走っていましたが」


 河合教授が支離滅裂なことを口走るときは、怒っている時だけだ。つまり、今ナックルに対して怒っているというわけになる。


ナックル「...?何で俺に怒って...あ!」

フラット「な、何?」

ナックル「ヤッベ...やらかした」


 サーっと青ざめていくナックルの顔色。明らかに冷たいであろう汗が頬を伝う。


ナックル「なぁフラット。レポートって何ページ分を書けばいいんだっけか?」

フラット「たしか...10ページ」

ナックル「それ未満は?」

フラット「たしか...覚悟しとけとかいってたような...」

ナックル「だ、だよな~、アハハハ...ハァ~」

フラット「まさかページ不足⁉︎成績ヤバいよ⁉︎」

ナックル「な、何とかコンピュータがバグったとかで言い訳が通れるようにー」

バジー「...まだ通信終わってませんけど」


 残念ながらその声は教授であるバジーには丸聞こえだった。


ナックル「げっ⁉︎」

バジー「今言ったことはお伝えしませんが、嘘や誤魔化しは許しませんよ!素直にお伝えすること!」

ナックル「は...はい」

エド「...そうっす!あの手があるっす!」

ナックル「それでは...失礼」


 そこで通話は終わった。


エド「いい手があるっすよ!ちょっとこっち来てくださいっす!」


 その瞬間に、エドはナックルの腕を力一杯引いた。


ナックル「ちょ、エド⁉︎」

フラット「あ!ダメだよ!」


 だがそこに、フラットがナックルの手を引こうとするエドの腕を止めた。


エド「な、何すか?これは俺が解決する問題っす。アンタは引っ込んでればいいっすよ」

フラット「解決しちゃいけないでしょ、この問題。ナックルさんが自分で解決しなきゃ」

エド「ナックラーさんが解決したら成績に響くんすよね。だったらそれは避けるべきー」

フラット「この場合、現実を受け入れるべきだと思う。もし細工がバレた場合、より大きく響く」


 たしかな意見だった。細工がバレてしまえば、もっと最悪な事態になりかねない。


ナックル「そうだな。こういう判断はフラットが冴えてるのはたしかだ」

エド「何言ってるっすか⁉︎細工に至っては俺が1番っす!」

フラット「河合教授、情報科学部の顧問だからコンピュータに詳しいんだよ?だから無理、絶対バレるのがオチ」

エド「じゃあそれを先に言ってくださいっす!俺は浅大の教授、知らないっすもん!」

フラット「それはごめん。でも、ファイター活動時、敵のことは全く知らない。その時に必要なのは冷静な判断と現実と向き合うこと、だよ」

エド「ふん、新入りが何偉そうなこと言ってるんすか。俺は俺なりにやらせてもらうっす。じゃ」


 新入りのフラットが偉そうなことを言ったからなのか、エドは外へと出ていってしまった。


フラット「あ...言いすぎたかな?」

ナックル「お前、よく言えたな、あんなこと」

フラット「ていうか...お腹空いた」

ナックル「?あ!あぁ、そうだったな!食堂だった!忘れてたぜ。俺のおすすめ食わせてやるよ!」



♦︎歴史&世界詳細

異世界線と繋がることのできる“ゲート”がある世界線の物語。神と魔が衝突した第5次神魔戦争を期限とし、3016年の世界で繰り広げられる。神と魔は封印されたものの、その中間の存在である、天使と魔者は残っている。


天使は“神力”を用いて世界を発展させ、時には人を魔者から守ることもしてきた。人間は我が身を守ってくれる天使のために武器と防具を作った。この2つは神器と呼ばれた。


やがて第五次神魔戦争から2500年が経つと、ゲートが突然現れた。はじめはただ、神力を放っていた空間の穴と思われ、さらに世界は発展していった。そのおかげで神の力を持つ人間も生まれ、天使に近い存在になった。しかしその存在は神力を扱うことはできず、人を守ることも発展させることもできなかった。その問題を解決するために、神力と人々の願いとを繋げる装置を作った。この装置が後に重要になる。


ゲートは神力のほかに、他の異世界線同士の狭間に生じる磁力のような力の結晶、“パラレルストーン”を持ち込んだ。これのおかげで神力がなくとも一気に発展することができた。


物語中に、ファイターと出てくるが、これは元々神兵と呼ばれていた。先程書いてあった通り、神力を操れる天使と操れない天使とが存在している。神力を操れるファイターを“ソルジャー”、操れないファイターを“ヒーロー”と呼ぶ。


ある日を堺にゲートから獣人や死んだはずの人間が急に

現れるようになった。これらの人々は異世界線から来たと話を聞いてるうちに理解され、“流れ者”と呼ばれるようになった。ただし、死んだはずの人間はまだしも、獣人は世界のバランスを崩すと思われ、村八分や実験マウスにされることもあった。その他にも、異世界線と異世界線との

狭間の空間、“パラレルスペース”に彷徨い続けて死んでいった魂のなりの果てである“アリジゴク”が現れるようになった。


魔者の巣窟である闇世界は、世界で心霊スポットと呼ばれる場所を門として繋がれている。ここに神と魔が封印されている。


作中でフラットが言っていた通り、人々を襲う脅威はアリジゴクと異世界モンスター、ヴァイスの3種類である。異世界モンスターはアリジゴク同様、パラレルスペース内で死んだか、パラレルストーンに取り込まれた存在。ヴァイスは神力を持つも、悪用したり、中には悪用ではないが正規雇用ファイターでもなく戦闘をしてしまった場合もある。この場合のヴァイスはファイターからは隠れと呼ばれている。


異世界線の中には脅威によって滅ぼされた世界もある。時折、他の世界線に接近し、脅威を大量発生させる。この世界をシークレットワールドと呼ぶ。


以上!

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