第二十四話 崩れゆく世界なのです

「なんなのなんなのなんなのですぅー!」


「知らん!じゃが塔が崩れ始めたのは事実じゃ!」


「とにかく、急いで塔からにげる」


 男にこの世界の人々を任され、一行が塔の中間まで下った頃、一つ大きな音と共に大きく揺れ急速に崩れ始めた塔の中、あと少しという所まで三人は急いで降りていた。


「でも、こんなに揺れてると、なかなか!」


「走りにくいし降ってくる物が厄介なのでーっす!」


「じゃがもう外じゃ!一気に駆け抜けるぞ!」


 出口を塞ぐよう降ってきた大きな瓦礫をノルンが手榴弾を投げて破壊し、開いた塔の出口へとヘグレーナの掛け声と共に三人は塔の外へと転がり出る。


「皆!無事で良かった!」


「みーちゃん?!どうしてここに!」


「というか、なんでトラックが?」


「こっちの世界で自衛隊の人に組み立てて貰ってね!同じようにこの世界で組み立たヘリでこの島まで運んで貰ったの!」


「な、なんという無茶苦茶な……いや、それでこそ水無月か」


「どういう事なのよヘグレーナちゃん。っとそんな事はどうでもよくて!島が崩れ始めたんだけど、上で何があったの!?」


「妾達が奴を弱らせ、お主達が説得した。ただそれだけじゃ!」


「もしかして、弱らせたから?」


「「あっ」」


「あっじゃないよ!とりあえず村人の人達も乗せたし、離脱しなきゃだから三人とも乗って!こちら待機車両、救助者全員の確保を確認した、至急回収を頼む」


 塔から転がり出てきた三人と情報共有をしつつ、上空で待機していたヘリへ回収する様水無月は無線を飛ばす。

 しかし────


『こちらモルフォ、地上の揺れと塔の崩壊により回収が出来ない。安全が確保出来次第回収に移る、一旦その場からの離脱を測ってくれ』


「……ちっ!根性無し共め!」


「えっと……みーちゃん?」


「今すぐ出発します!皆しっかり捕まってて!ノルンちゃんは助手席に、ロクラエルちゃんとヘグレーナちゃんは荷台で万が一村人が落ちた時にカバーを」


「む?それはどういう事じゃ────」


 珍しく悪態をつきながら運転席へと勢いよく乗り込みつつ指示を飛ばす水無月に、ヘグレーナがどうしたのかと荷台から訪ねようとした所で水無月はアクセルを全力で踏みつけ、トラックが急発進する。


「み、みーちゃん!この先は崖っ」


「そんなん飛び越せば関係ない!」


「「「「「「「「「「ぎゃあああ!」」」」」」」」」」


 グルルル!


「ま、魔物が────」


「邪魔だぁ!」


 ギャッ


 来る途中彼女達を困らせた地形や魔物、数多の天然由来のトラップを、ある時は飛び越え、ある時は轢き殺し、またある時は有り得ない角度で方向転換したりと、水無月の無茶苦茶な運転によりあっという間に乗り越えてゆく。


「ど、どうやったらこんな場所をこんなスピードでっ!」


「ま、前にあやつの言っていた水無月の二つ名は、こういうことじゃったのかっ!」


 トラックの荷台にて結界を貼ったり、魔法ででっかい枝を撃ち落としたりしながら水無月の運転に対してそんな事を二人が思っている間にも、大陸の端へと向かうトラックの前には様々な困難が襲いきており。

 大木を右のサイドミラースレスレで避け、その先に崩落で突如広がった空への穴へ落ちないよう片輪走行しつつ、目の前に立ち塞がる植物型の魔物を踏みつけ、それで車体をジャンプさせ更に広い目の前の穴を飛び越え足りと、曲芸なんて目じゃない程の異常な運転技術でそれらに何とか対応していた。

 しかし大陸の端に行けば行く程揺れは強くなり、どう足掻いても絶対に安全な回収が出来ない状態へと追い込まれる。


「扉の島が見えた!」


「み、みーちゃん!もう無理なのです!陸地が崩れて前よりもあの島までの距離が広がってるのに、車でこの距離を越せるはずが無いのです!」


「無理でもやるんだよっ!」


 そう言って水無月は大きくハンドルを切り、扉のある島へと飛び移るべくジャンプ台の様に坂道になっている場所からメーターが振り切れる程のスピードで飛び出す。

 そして空中に浮かぶ石や岩を飛び移りながらあと半分という距離まで近づき、皆が行けるのではと思っていたその時────


 ガコンっ!


「岩が!」


「ちぃっ!二人共!」


「「任せて」!」


 バギン!


「ぬおっ!」


「持ち手が!」


 足場にした岩が砕け、車が空へと落ちかけた所で念の為荷台に待機させていた空を飛べる二人によって車を支えて貰おうとするが、村人数十人の重さと車本体の重さに二人の掴んだ場所自体が耐えきれず車は空へと落ちてしまう。


「もうダメなのですぅぅぅ!」


 ジャラララララララ!


「うぐっ!……こ、これは?」


「鎖……なのです?」


「水無月!これはあの神の道具じゃ!消える前に走り切れ!」


「勿論!」


 もうダメだとノルンが絶叫する横で水無月が何とか助かる道を考えていた所で、どこからともなく現れた車幅よりも広い鎖の上に着地する。

 そしてその鎖があの神の物だと分かったヘグレーナにそう言われ、水無月はアクセルをこれ以上ない程強く踏みつけ、扉のある島までの最後の一直線を何とか走り抜けたのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


「ふ……ふふふ……俺の世界の住人を俺の世界で殺す気か……お前達にはそいつらを守って貰わないと困るから……な」


 夜の暗闇が消え去り、夕暮れの照らす塔の頂きで、男は無事自分の張った鎖を車が渡りきったのを見てそう呟く。


「今思えば、どうしてあの住人達に、そしてこの世界に固執していたのか……いや、分かりきっていた事だな。あぁ、夕暮れが眩しい。世界の最後の時だというのに、こんなにも────」


 男はコートの下の燕尾服、その懐に仕舞った懐中時計を握りしめながら、夕日の空に沈む崩れ行く島々を、世界が消えるその時まで眺めていたのだった。

 こうして、崩れ行く世界は、一人の男に見守られながら終わりを迎えたのであった。

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