第131話 あの初々しい雰囲気

「ただいま」

「おかえりー」

「わふっ」

「にゃー」

「おかえり」

「遅かったな。そんなに買い物したのか」


 ナイトレイ家に到着するとみんなからお出迎えを受ける。しれっとテトはクロエさんにつかまっている。

 モコの上でティナとテトを抱っこしているクロエさん。通常運転だが、いつのまにテトを捕まえたのかは定かではない。


「迷いの森までいってきた」

「……ソラ。意外と行動力あるんだな。ただのめんどくさがり屋かと思ってたわ」

「否定はしないよ。けど、うちの子のためなら俺はなんだってするぞ?」

「あー、そうだったな。お前は残念な子だったわ」

「おい、今良い感じの話しだっただろ。もっと俺をほめろよ」

「はいはい、そうだな。偉い偉い」


 そういいながら頭をポンポンしてくるルイ。

 こいつどこまでも俺をバカにしてきやがる。

 ナイトレイ家の敷地でなかったら、ぶん殴っているところだ。


 その間にも、シロはクロエさんにつかまっており、みんなに今日の報告をしている。

 ティナが通訳しているみたいなんだけど、基本的に楽しかったーと言っているだけ。

 シロの説明では全貌はまったくつかめていないだろう。

 それに急にウルフたちがでてきて、一緒に探索したと言われても疑問でしかないだろうな。


「きゅうきゅう」

「んー、芝生が汚れそうだよな」

「ん?どうしたの?」

「いや、みせたいものがあるんだけど、ここだとナイトレイ家の庭を汚してしまいそうで」

「なら、解体所に案内するわ。ついてきて」


 クロエさんは話の内容を理解し、速攻で最適な場所に誘導してくれる。

 庭を歩き、小さな小屋のようなものに入る。


「ここは汚れても良いところだから、ここにだして」


 クロエさんからの許可を貰い、影収納から迷いの森での戦利品を出していく。

 

「きゅいきゅい」

「わふ」

「にゃ?」

「きゅー。きゅうきゅう」

「わふわふ」

「にゃにゃん」


 出していく傍からシロは必死に説明している。おそらくリーダーウルフが言っていたことをそのまま伝えているんだろう。

 嬉しそうにテトモコに戦利品見せているシロ。

 テトモコも頑張ってきた弟をほめちぎっているみたいだ。

 

「シロ。大事なことを言ってないぞ」

「きゅ?」

「プレゼントなんだろ?」

「きゅっ」


 シロに近寄り、耳打ちすると忘れていたみたいで、しっぽがピンとたつ。

 戦利品をほめられて嬉しいのはわかるけど、これだとただの探索報告になってしまう。

 シロの口からプレゼントですとつたえなくてはな。

 もちろん、俺の言葉はテトモコに聞こえているので、テトモコは静かにシロが話し出すのを待っている。

 しっぽをぶんぶん。顔はへにゃへにゃしているけど。

 あれでも抑えているつもりなんだろう。


「……きゅ」


 シロは珍しくもじもじしながら、テトモコの前に立ち、言葉に詰まっている。

 

 なんだ。この空間は。


 今さっきまでの発表会のような雰囲気ではなく、好きな人に告白するような雰囲気。

 いきなり会話がとぎれ、次の言葉にためらいがあるあの空気感。

 わかるだろうか。初々しい二人が、普段とは違う空気を纏い、同じ気持ちなのに両方がお互いのことを様子見している状況を。


 かぁー。なんか俺も恥ずかしくなってきたぞ。

 テトモコもしっぽをふりふりして緊張しているようだ。

 ティナもなぜか俺の手を握り、静かにシロの話だしを待っている。


「きゅきゅうきゅう」

「にゃ?」

「わふ?」

「きゅきゅいー」


 静かに話し出したシロ。

 テトモコは優しく、僕たちの?全部?と聞き返しているようだ。

 シロが全部―と恥ずかしがりながら少しだけ元気に返事をしている姿が、もう可愛くて可愛くて涙が出そうなんだが。

 

 テトモコはシロに近寄り、体を寄せ、シロを舐めまくっている。

 すこしだけくすぐったそうだが、きゅうきゅう鳴きながら喜んでいるシロ。

 ダメだ。混ざりたい気持ちを抑えなければ。兄弟の仲睦まじい光景を目に焼き付けるという仕事が俺にはある。

 これは俺にしかできない。


 それにこの光景を忘れないように脳内保存しなくては、俺は何のために生きているんだ。

 

 必死に見つめていると、ティナがその輪の中に入り、また幸せ度があがる。


 くそ、脳内記憶がはちきれそうだ。頼む神様。現物でのカメラはすでに諦めた。

 やはり大きな変化。オーバーテクノロジーは世界に与える影響は強いのだろう。

 ならば、俺にカメラというスキルを授けるのはどうだろうか?

 もう、現物写真として残さなくてもいい。

 俺の脳内だけで処理、保管をする。絶対にそのスキルでこの世界に変化をもたらさないと誓う。

 このただ、もふもふを。天使を愛でたい少年のわずかな願いをかなえてはくださらんだろうか。


「おい、なにしてんだ?」


 膝をつき、天を仰ぎながら、祈っていると横からルイに話しかけられる。


「今話しかけないでくれ。俺は今、神様に話しかけているんだ」

「うぇ、すまん。そんな力があるなら先に言えよ」


 ほんと、大事な願いの最中に話しかけてくるんじゃねーよ。

 これで神様から返事がなかったら許さないからな。


 数分待てど暮らせど、神様からの返事が返ってこない。


「くそ、ルイのせいだ」

「すまん。神様がらみとか知らなかったんだ。やばいかな?神様怒ってないか?」


 ただのやつあたりにすぎないのだが、思ったより動揺しているルイが面白い。このままやつあたりを続けてもいいのだが、さすがに、神様を使っていじるのもよろしくないな。


「冗談だよ」

「へ?」

「だから冗談。神様に祈っていたことは本当だけど、神様から返事がきたことなんてないよ」

「じゃー、あれか?今のはただの祈りで、ソラ特有のスキルとか異世界転移者の特権とかではないと?」

「うん。そんなものはない。そんなものがあれば俺は、もっとこの子達を愛でれるのに、いてっ。なにすんだルイ」


 俺の頭を強めにはたいてきたルイ。


「これはお前が悪い。ソラが言うと冗談ぽく聞こえないんだよ。もしかしたら本当にそんな能力があるのかと思うじゃねーか。こっちは神様の邪魔をしてどんな天罰がおこるか肝を冷やしてたんだからな。ちったー反省しろ」

「この暴力男」

「あのー、これって私が聞いてもいい話なのかしら?」

「あ、やべっ」


 突然会話に割り込んできたクロエさん。

 ルイは慌てて、クロエさんに、祈りというのはなと信者が話す内容のような祈り方のスタイルや礼儀作法を語りだした。

 本当にルイは口が堅いし、友達思いなんだろうな。


 ちょっとバカで、ごまかし方がどっかのセールスマンみたいだが。


「ルイ。別にいいよ。クロエさんは身内でしょ。いつまでも黙っておくのもつらいと思うし、俺の中でももうクロエさんは身内判定だよ」

「いいのか?」


真剣なまなざしで見つめてくるが、もうそれが答えのようなものなんだよ。


「うん。俺は異世界転移者。影山空です。よろしくねっ」


 なるべく軽く、動揺を与えないように自己紹介をする。


「……なるほど。だからこんなにも強いのね。それにテトモコシロちゃんも最かわだもんね」

 

 んー。動揺しておらずクロエさんの中では納得できているみたい?

 テトモコシロの最かわは否定しないが、そこはまた別のお話し。


「んー。ルイあとは任せた」

「おい、ソラが説明しろよ」

「俺にはそんな時間はないんだ。見ろ。この可愛いうちの子たちを。俺はすぐにでも、この子達の輪の中に入り愛でなくてはならない。では、俺たちはここで。今日はありがと」


 めんどくさい説明をルイにたくし、すぐさまうちの子たちを回収。ナイトレイ家からの脱出を試みる。

 モコはすぐに俺の意図を察し、合体型モコ号でナイトレイ家を後にする。

 後ろからルイの声が聞こえるが、ながながと説明するのは面倒なのだ。

 それにうちの子を愛でたいのも事実。こんなに仲良くしているうちの子をほおっておくのが耐えれそうになかったんだ。


 今日はシロ主役の祝杯だ。

 盛大に祝ってやろう。

 

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