第130話 へい、タクシー

「帝都の外に出たけど、プレゼントは結局どうするの?」

「きゅいきゅいっ」


 シロの要望により、帝都の外に出た俺たち。

 もちろん、帝都の門の長蛇の列に並びたくない俺は冒険者ギルドに行き、常設依頼の街道に出てくる魔物の排除という依頼を受け、帝都を出てきた。

 この依頼は受注しなくてもいいものなのだが、冒険者はよく特訓と称して帝都をでるため、その時の帝都の入場に使用できるように作られた依頼だとか。

 これは俺が受付で軽く外にでるから、簡単な依頼をというと受付嬢が教えてくれた情報だ。

 まあ、ただ体を動かすだけで二、三時間並ばされてはたまったもんじゃない。

 一応、冒険者ギルド内にも体を動かせそうな闘技場みたいなものはあるが、人数が多いし、魔法の練習などは控えた方がいいだろうしね。新人がギルド内、それ以外は外の草原で特訓しているらしい。


 シロは俺の質問に元気よく、迷いの森の方向を指し示す。

 あそこまでの道中、街道も途中でなくなり草原が続いている。別に大して珍しい物もなくプレゼントにするようなものもないんだけどな。


「結局なにをあげるつもりなんだ?」

「きゅいきゅい、きゅー」


 俺の腕から飛び降り、ジェスチャーで必死に俺に教えてくれるシロ。

 んー。たぶん魔物を倒し、その素材をテトモコにあげるとかかな?

 ティナがいれば詳しく話がわかるんだろうけど、俺には限界だな。


 いつもティナが解説してくれているから話はわかるが、シロは話が突飛なことも多く、非常にわかりづらい。基本的に元気いっぱいだし。


「テトモコには魔物の素材ってこと?」

「きゅう。きゅきゅきゅい」

「んー。兄弟の下の子は魔物を討伐した成果を上の子にあげるってことかな?」

「きゅっ。きゅうきゅう」


 どうやら正解らしい。

 器用に土魔法でテトモコを模した土人形をつくり、その前でシロが魔物との戦闘、その後、それを渡すようなしぐさをする。

 あまり気にしてもいないし、どうでもいいことだから忘れかけているが、シロは生粋の野生児。テトモコシロの中で唯一の野生児なのだ。

 おそらくだが、シロが言っていることは魔物の習性、エンペラーフォックスの群れの習性なのだろう。

 そもそも街での買い物事態が従魔にならないとできないことだしね。シロにとってプレゼントと言えば魔物の素材、自然の恵みが一番に思いつくのだろう。


 ということはだ。


「シロ?もしかして今から行くところは迷いの森なのかな?」

「きゅいっ」


 そうだよっと元気に鳴くシロ。

 

 おっつ、モコのスピードで一時間かかる道をこれから行くのか。

 まぁー、ティナを乗せての移動だったからスピードが遅かったが、それでもなかなかの距離あるぞ?

 はやくはやくと、俺の腕の中でしっぽを振っているシロお坊ちゃま。

 君は俺の腕の中なのね。すなわち移動は俺がするということ。

 

 少しだけめんどくささを感じるが、こんなに楽しそうなシロに愚痴など吐けるわけがなく、俺はしぶしぶ風魔法を発動し駆けていく。


 今、影世界ではテトが並走しているのだろうな。テトはいつもモコに乗っているがああ見えて走るのも好きだし、短距離ならうちの子たちの中で一番はやい。 

 ただ、走るより、モコの頭の上の方が好きなだけ。

 今は勝手に競争だと楽しんでいる黒猫の姿が頭に浮かぶよ。


 風魔法使用の超高速移動を三十分つづけ、ノンストップで迷いの森に到着することができた。

 中盤からは加速補助の魔法だけではなく、前方の風除去のための魔法を併用し、効率よく進めたきがする。

 クロエさんからすれば簡単なイメージですごいことをしているとなるのだろうが、俺には日本でバイクに乗っていた経験があるからね。

 長時間の風圧の恐ろしさを知っている。長時間の風圧は気づかないうちに体にダメージを与えているのだよ。

 高速のパーキングエリアで何回足がガクガクになったことか。

 バイクに乗る人ならわかるのではないだろうか。乗らない人も車から窓の外の風を感じたことがあるだろう?あれが体全体に常に当たり続けるのを想像してほしい。地味だがなかなかハードなものなのだよ。

 

「きゅいー」

「?どうした?」


 迷いの森につくといきなり大きな声で叫びだすシロ。

 緊急事態かと思い、周りを警戒するがそのようなものは感じとれない。

 そもそも、まだ迷いの森の外縁。俺たちの命を脅かすようなものはいないだろう。


 ん?右側から魔物がくるな。

 数が多いが、シロの叫びでダンジョン内の魔物が反応したのだろう・


「シロ。こんなところで大声だしちゃだ……。なるほど」

「きゅい?」

「あー、なんでもない。こいつらを呼んだのか」


 近づくにつれ、以前感じたことある雰囲気を感じとる。

 綺麗に統率の取れた動き、そしてウルフ型。グレーの毛をもふもふさせながら、俺たちの前にお座りをする。


「ぐるるー」

「きゅいきゅい」

「今日はモコがいないんだ。悪いな」


 俺とシロの声掛けに反応するウルフたち。

 シロはシロだよっと挨拶しているみたいだが、呼んだ理由を説明しような。

 この子たちも困っちゃうから。


 シロは群れのリーダーだろうウルフに近寄り、必死にきゅうきゅう鳴いている。

 んー。おそらくだが、魔物の情報や木の実の情報を聞いているのだろうな。

 そりゃー、この子たちに聞けば一発でわかるだろうが、権力を盾に好き放題だな。

 シロは何も考えず友達にお願いしにきたのだろうが、ウルフたちからすればテトモコシロ、俺、そして話をきいたであろうドーラという圧倒的強者の脅しに近いだろう。


 シロは楽しそうにプレゼント候補を探しているが、群れ全員で、すぐさま駆け付けたウルフたちは息づかいが荒い。


「ウルフたち楽にしていいよ。シロも落ち着いてから話してあげようか。疲れているみたいだし」

「きゅっ」


 そっかーとシロは座り込み、何やら考えごとをしている。

 シロの頭の中はいろいろな魔物が浮かんでいるのだろう。

 ウルフたちはリーダーの一鳴きで伏せ、休憩している。

 リーダーは俺の傍にきてお座り。


 むむむ。これは撫でていいという合図……だと思う。

 遠慮なくもふもふの毛を撫でるが。よし、もふもふは維持できているな。

 さすがに俺だけで全員をブラッシングはしんどすぎるからしないが、ちゃんとお手入れをしているみたいでこの子たちも偉い。


 俺がもふもふを堪能しているとシロは考えることに飽きたのか、休憩中のウルフたちに近寄りお話しをしだしている。

 

 どうやら、目星の獲物が決まったみたいで、シロはリーダーと二匹のウルフを連れ、俺の元へと戻ってきた。


「きゅきゅう」

「了解。じゃー、いこうか。他の子は巣に戻っていていいからね。ここは人に会う可能性が高いから」

「ぐるっ」


 ウルフたちはリーダーの一鳴きで立ち上がり、来た道を戻っていく。

 くっ、これは攻撃か?

 数頭のもふもふのしっぽふりふり攻撃。俺にはなかなかクリーンヒットなんだが。

 それもそろって、楽しそうにお尻を振って。

 今すぐ、ブラシを持って特攻したい衝動に駆られる。


「きゅう?」

「あー。ごめん。なかなか強敵だった」

「きゅう?」


 俺の心を読めていないシロはなにがなんだか、首をこてんと傾けている。

 灯台下暗し。

 やはり、うちの子たちが世界で一番だな。

 ?マークを浮かべているシロをとりあえず撫でておく。

 よくわかっていないようだが、撫でられたシロは嬉しそうに体を俺に寄せてくる。

 甘えん坊のお坊ちゃまなことで。


「いかん。時間が無限にかかる。シロ。もう行くぞ」

「きゅうー」


 リーダーを先頭に立たせ、シロ指揮のもと俺たちは進んでいく。


「ぐるっ」

「きゅいー」

「ぐるー」

「きゅうきゅう」

「ぐるる」

「きゅっ」


 迷いの森で繰り広げられる魔物たちの探索。

 アフレコするとこうだろうか。

 あの木の実はおいしい。とる―。

 あいつは骨がいい。シロが倒すっ。

 あの草はまずい。いらないっ。


 迷いの森をわがまま顔でとおるシロとリーダーたち。

 俺は買い物についてきた人みたいになっており、ただの荷物持ちだ。

 別に興味がまったくないわけではないのだが、話している内容がわからないため、暇つぶしでアフレコをして楽しんでいるのが現状。


 危険もなく、俺からすればただの森林浴。心地がよく眠くなりそうだよ。


「きゅうきゅう」


 先ほどテフテフの実を採取していたので、ここはすでに中層なのだろう。

 中層でイノシシやクマ型の魔物を討伐しており、すでに結構な量が俺の影収納に詰められている。


「もう終わりでいいのか?」

「きゅい」

 

 シロも満足したみたいで、迷いの森の外縁に向け歩き始める。


「きゅいきゅい」

「今日はありがとうな。これ前あげた死の森産の牛肉。持ち帰れるだけあげるね」

「ワォーーン」


 俺がそういうと、リーダーは遠吠えをあげる。

 すぐさま巣に帰っていたウルフたちがリーダーの元へ集合し、お座りする。

 全員で持ち帰れるだけ欲しいってことだよね。ほんと賢いんだな。

 ウルフたちにお礼を言い、解散させてあげる。

 たぶん、当分来ないから安心して暮らして欲しい。

 

「きゅうきゅう」

「もう満足か?じゃー、ティナテトモコが待つ家に帰るか」

「きゅいー」


 シロは嬉しそうに鳴きながら俺の腕の中に。

 よし、タクシーがんばります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る