第128話 拗ねています

「きゅうきゅう、きゅいきゅい」


 ラキシエール伯爵家で朝食を食べ終え、自室に戻り今日やることを考えていると、いきなりシロが膝の上にのってきて、必死に抗議してきている。

 朝から元気なのはいつも通りなのだが、こんなに元気なのは久々だ。

 内容は、僕とふたりでの外出は?テトねぇと、モコにぃだけずるいっ。

 

 どうやら、最近のテトモコとの二人外出を遊びだと思っているらしく。それがずるいと抗議が続いている。

 テトに関してはただ、ゴミムシどもを殲滅しただけなんだけどね。

 そう伝えてみても、俺との外出は特別みたいで、しだいにすねはじめてしまった。


 いつもティナと一緒にいるし、ティナと離れたくないと思ったのだが、俺にも甘えたかったのだろうか。

 こんなに拗ねているのも初めてのことなので、俺も少し動揺してしまう。


「ティナは?」

「へ?」

「ティナはソラとふたりで遊んでないよ?」

「にゃ?」

「わふ?」

「きゅ?」


 突然のティナの乱入にうちの子たちも驚きの様子。

 それもそうだ。出会ってから数か月、いまだうちの子たちが誰もティナについていない状況などなかった。

 それが当たり前のことだし、別に離れる必要もないから気にしてなかったが……


 ティナと二人だけの外出。

 この文章を辞書に乗せることにしよう。意味は高尚で趣深いもの。楽園。


 俺がニヤニヤとした妄想を繰り広げていると、ダメだよ?独占禁止と訴えかけてくるテトモコシロ。

 俺の足をペシペシと攻撃してくるが、それもご褒美だ。


 でも天使様がお望みなんだぞ?


 そう、目で伝えてみるも、そんなことは無視だとダメだの一点張り。

 

 んー。どうしたもんかね。

 

 冷静になって考えると、テトモコがいないティナとの外出は少しだけ不安がある。

 ティナシロでの外出がありえないように、俺ティナもあまりすべきではない。

 やはりテトモコの信頼度が高く、どちらかが俺とティナにつくことで、心の安定が生まれているのだと思う。


 それに一応テトモコには神様からの使命という俺の護衛もあるので、これを考えるとテトモコのどちらかは近くにいたほうがいいのだろう。


「モコ、どうしよっか」

「……わふわふ?」

「まぁー、そうなるよね、俺シロの時はどうする?」

「わふわふ、わふ」

「にゃー」

「テトが影世界からついてくるのね。了解」


 こういう時は一番頼りになるモコに相談だ。

 モコの案では影世界での尾行。それが妥協点だとのこと。

 やはり、神様の使命である俺の護衛をしないわけにはいかないらしい


「俺ティナの時は?」

「わふ」

「にゃ」

「きゅ」


 何を言っているみたいな感じで、全員が影世界からの尾行に決定。

 ゆっくりしたらいいのに、と思わなくもないけど、テトモコシロだけの休日なんてものの想像がつかない。


 なにをするんだろうか。みんなでお昼寝?遊び?ダンジョン踏破?

 この三匹なら何でもできそうな気がする。

 もしかしたら屋台で自分たちで金を払い、屋台飯巡りをするかもしれないな。

 

 無限大の可能性があるが、どれも想像するだけで幸せだ。

 モフモフたちの楽園がそこにはある。

 まあ、ダンジョンの場合それが死神に近いもふもふになるだろうけど。


「じゃー、今日はシロとお出かけしようかな?ティナモコはどうしようか。フィリア今日暇かな?」

「わふわふ」

「あー、制服着てたか。じゃー、学校だな」

「ルイさんと遊ぶっ」

「ルイ?別にいいけど、あいつ帝都でどこに泊っているんだ?騎士の宿舎かな?」

「?クロエ先生のところだよっ?」


 さらっとティナは情報を伝えてくる。

 クロエさんの家にね。ふむふむ。世の男性の言葉を代弁させてもらう。

 リア充爆発しろ。


 そんなことはおいといて、ルイなら仕事をさぼってもいいんだろうし、断らないだろう。

 たとえ仕事があろうと、ルイなら大丈夫。零番隊の急用だとか言って仕事もなしにしてもらおう。

 天使の護衛。これは重要任務なのだよ。


 ティナの相手はルイにまかせるとして、クロエさんの家……どこだろうか。


「サバスさーん。いますか?」

「はいはい。なんでしょうか」


 いつもサバスさんが消えていく部屋の扉をノックし、サバスさんに声をかけると。

 部屋から出てはいないみたいで、部屋の中から返事が返ってくる。

 

「ルイがどこにいるか知ってます?」

「今現在どこを歩いているかなどの質問であれば難しいですが、たしか宿泊先はクロエさんのお家だと伺っています。まだ、朝食を食べている時間帯ではないでしょうか」

「おおー、クロエさんの家わかる?」

「はい。ナイトレイ家の屋敷ですので、そんなに遠くないですよ」


 てか、クロエさんの家って帝都にあるナイトレイ家の屋敷なのか。てっきり、一人暮らしの家を想像して、二人の付き合いたての甘々な世界が広がっていると思っていた。

 クロエ先生の親がいるかは知らないが、ルイはメンタル強いな。何日も彼女の実家にお邪魔するとか俺なら考えるだけでもお腹が痛くなってくるよ。


 でも、そもそもが同級生というか幼馴染というか。そんな関係だし、親同士も仲がいいのかもしれない。小さい頃からお邪魔していて、彼氏。婚約者みたいなものに関係性が変わっても、変わらず居心地がいい場所。ルイにとってはナイトレイ家は居心地がいいのかもしれない。

 ふーん。なんだ。結局は幸せな話だな。


 少しだけ、ほんの少しだけだが、精神年齢20代の心の闇を見せてしまいそうになる。


「きゅいきゅい」

「そうだな。ごめんごめん」


 ルイへの嫉妬を感じていると、シロから声がかかる。

 今日の主役は僕だよーと。

 しっぽをフリフリしながら、俺の膝にのり、なにするなにする?と質問攻め。


 んー。シロとのお出かけか。何しようかな。

 セオリーだと買い物アンド屋台めぐり。帝都の外にでて駆け回るかな?


「シロは何かしたいことある?」

「きゅー……きゅいきゅい」


 シロは俺に近寄り、耳元で小さく鳴く。

 いや、耳元で内緒話のように話されてもわからんのよ。俺は雰囲気を読み取り、会話しているだけ。ティナのように魔物言葉がわかるということはないんだ。


「ティナに聞かせてもいいか?」

「……きゅ」

「ティナ―。シロが何言っているか教えて欲しい。シロ、さっき言ったことティナにもう一回いって」

「きゅいきゅい」

「あー、ソラ―」


 シロはティナにまた内緒話のように耳元でささやいている。

 それを聞き、俺の名前を呼びながらティナは近寄ってきて、俺の耳元に口を近づける。


「あのね、シロちゃんね。テトちゃん、モコちゃんにサプライズプレゼントあげたいんだって。だからナイショにしてって」


 ティナの優しい癒しのささやきが俺の脳内を支配する。

 右耳が幸せだ。まさに天使のささやき。

 ニヤニヤしてしまっているが、今はシロの事だな。

 シロの希望はプレゼント購入ね。俺との外出で自分の希望ではなく、お世話になっているテトモコにプレゼントを買いに行くという、なんとも可愛いらしい考えだ。

 

 おそらく、シロはテトが影世界からついてくるという話を忘れているのだろうな。

 そんなドジで少しだけ天然なところもまた可愛い。


 てか、そもそもテトモコに内緒話なら、絶対に同じ空間にいる時にするべきではないぞ?

 狭い部屋での内緒話がテトモコに聞こえていないわけがないんだから。

 

 ほら、気を使って部屋の隅でテトモコだけで遊んでいるだろ?

 普段、部屋の隅であのふたりだけで遊んでいるのを見たことあるか?ないだろ?

 いつも俺かティナシロのどちらかの傍にいて、みんなで遊んでいる。

 

 それに、テトモコのニヤニヤとした顔を見ろ。

 嬉しさが体中で表現されている。あんなに嬉しそうなのも珍しいんだからな。

 

 そりゃー、可愛い弟が自分たちのためにプレゼント買いにいくと聞けばうれしだろうさ。あんなにしっぽもふるし。顔もにぱーっと輝くわな。

 

「きゅうきゅう」


 耳元でささやく可愛いシロの鳴き声。

 今回はその言葉の意味を理解することができた。


「あー、内緒だよ」

 




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