第113話 暗闇が支配する世界
作者より。
どうやらカクヨムに問題が発生しているらしく、予約投稿ができない状況になっています。
いつも投稿している一九時は仕事中のため投稿できない可能性が高いので、この時間に投稿させていただきます。
では、うちの天使をお楽しみください。
「にゃにゃにゃーん」
「ご機嫌だな」
「にゃー」
暗闇が支配する世界、そこを優雅に歩く黒猫。
さながらこの世界の支配者は私だと言わんばかりの風貌。
透き通るような水色の目で世界を見通し、影を支配する。
もし他の人が今のテトを見るとこのような評価をするだろう。
だが、実際は俺の少し前でご機嫌にしっぽを振りながら歩き、俺との夜の散歩を喜んでいるだけ。
もしかしたら俺と二人きりの散歩を喜んでいるのかもしれない。
いつもはちゃんとおねえちゃんをしているテト。だが、俺とテトモコだけだった時は甘えん坊のわがまま妹ちゃんだったんだ。
今はティナシロ、そしてモコさえいない。
あまりないテトとの二人だけの空間。それを目いっぱい楽しんでいるのかもしれない。
今日は言わずもがな、ギラン組を潰しに行く。そして最大目標はあのバカ金髪の処刑。
ダンゲスから聞き出した情報では、おそらくギラン組の屋敷へと金髪は来る。
俺なら絶対現場に行かないが、そこはやはりバカなのだろうな。どれだけ無残なやられ方をしようと、力量差を認めようとはしないのだろう。
バカ金髪はギラン組を頼り、数を揃えることができた。三大マフィアの力を借りることであたかも自分が強くなったと錯覚している。
正直、数という物はそのまま力の差につながる。だがそれはある一定の強さまでだ。
ドラゴンにどれだけ人を集めようとかなわないのと同じで、有象無象が増えただけでは戦場は何も変化しない。
もちろん今回は三大マフィアの一つギラン組がでてくるからには、マシなやつはいるだろう。
少し高揚しているのは、俺もこの世界に慣れてきた証拠かな?
血に飢えているとは言わないが、強者との戦闘、雑魚の殲滅。そういうものに惹かれているのは否定のしようがない。
今回もあっちから仕掛けてきたものだ。俺は何も悪くない。
この世界には間違いなくない概念だが、俺は正当防衛を主張するよ。
ん?やりすぎは正当防衛ではないだと?やりすぎの定義は?
こちらは命を狙われたんだが、同じ土俵だと命を刈り取るのはいいのだろう?
ほら、やりすぎではない。ただ、少し血が流れすぎるだけ……
「にゃっ?」
「あー、ごめん。自分の世界に浸っていたよ」
「にゃにゃっ」
テトと一緒なんだからテトもまぜてと猛抗議。
ほんとうちの子は甘えん坊なんだから。
どうどう、落ち着いてくれ。
撫でてあげるからなー。ここが気持ちいいか?
ごろごろと音を鳴らし、俺にすり寄るテト。
これから戦場に行くとは思えないほどの雰囲気だ。
「なぁー、テト」
「にゃ?」
「すごい意気込んでギラン組をつぶすとか言ったけど、どうやってしよっか」
「……にゃにゃにゃ?」
「そー、ノープラン」
「んにゃー」
やる気十分。睡眠十分なのだが、正直やり方が思いついていない。
考えてみると、大人数の相手が待ち構えている場所に正面突破はあほでしょ?
魔法やスキル、そんな摩訶不思議なものがある世界だ。正面から行ってあっさり死んでしまう可能性があるし、マフィア相手だ。その可能性が高すぎる。
どれだけ高揚していようが冷静になることは大切だ。
俺とテトは強い。自分で言って恥ずかしくなるが、武闘大会優勝で証明はできたはず。
でも、俺にはまだ経験値が足りなさすぎるんだ。それに、よりにもよって、この世界の裏であるマフィアとの戦闘。裏のやり方なんてこれっぽっちも知らない。
ということで、テトに相談しているのだが。
「にゃにゃ、にゃにゃにゃん」
「んー。水魔法で殲滅は楽なんだけど……たぶんというか、絶対に周りへの被害がすごいことになる」
「んにゃー」
結局大人数を一人一人ヤルのはありえない。そうするとテトが言うように広範囲の殲滅魔法でつぶすのが一番なんだけどな。
周りの影響の不安とあのバカ金髪と組長と呼ばれる奴は対面してやりたい気持ちがある。
さて、どうするかね。
広範囲の魔法ブッパは基本的には賛成。だがここだと周りの被害がな。
うまくやればなんとかなるかもしれないが、スラム街に普通に生活している人にとっては迷惑以外なにものでもない。
ちまちま魔法を打つのもめんどくさいしな。
影世界に送るのもめんどくさ……くないのかもしれない。
「なぁ、テト。広範囲の影入りできるかな?自然の魔力を使えばできなくもないと思うんだが」
「んにゃー。にゃにゃ」
試してみるしかないか。やっぱり迷いの森で広範囲の魔法を使用しておくんだったな。
あの時はしんどいとかいって後回しにしていたが、実際街に戻ると、どれほど威力があがるのかわからなくて試してさえいない。
大鎌に影の魔力を纏い、その纏った部分を影入りさせることができる。以前は大鎌の刃の少しだけ大きいサイズしかできなかったが。
自然の魔力を使えばいけるような気がする。なんせほぼ無尽蔵な自然の魔力だ。
俺の魔力だけで足りなかったものができるかもしれない。
「にゃにゃ」
「お、もうついたか?」
「やっと来てくれたか」
「待ったか?」
「四時間ほどだな」
帝都の小道に入り、ダンゲスと合流する。
結構待たしてしまったな。夜という曖昧な表現はダメだったか。
「俺が行くことは伝えてくれているんだろ?」
「あー。そう言われたからな。全員が屋敷に集まっているはずだ。組長の部屋には公爵家次男もいるぞ」
「その情報が聞けただけでもありがたい。仲間は逃がしたか?」
「もちろん逃がした。だれが好んでドラゴンの尾を踏むような真似はするかよ」
んー、俺たちってそんなに怖いのかな?
ドラゴン……ドーラとフールか。比喩表現だが、ほんとあいつらと俺を比べないで欲しい。あいつらとはレベルが、存在が違いすぎるんだ。
本当のドラゴンの恐ろしさを知りたいなら、ぜひ連れて行ってやろう。
おそらく数秒で精神が崩壊する。慣れていなければそれほどの圧、存在感を感じるからな。
どれだけ自分が塵のような存在かあたらめて確認できるぞ。
「それで、俺は屋敷の場所がわかるところまででいいんだよな?」
「それでいい。そこからは近寄らないでくれ。どこまで抑えられるか俺もわからない」
「……逆方向に走れば大丈夫か?」
「たぶん」
「……わかった。全力で走る。だから俺の姿が見えなくなるまでは魔法を放たないでくれ」
「了解」
まあ、大丈夫だと思うがな。さすがに自然の魔力を使うからといって、魔力を込めるのは俺だ。今更そんなミスはしないよ。
「あそこが俺たちの屋敷だ。周りをとり囲んでいる家も組の物だ」
「おお、それは助かるな。やりやすいよ」
「もういいか?俺は一刻もはやく逃げたい」
「おう、助かったぞ。達者で暮らせよ」
ダンゲスは頭を下げ、すぐさま来た道を戻り始めた。
そんなに早くにげなくても、俺たちの周りが魔法の範囲に入ることはないだろうに。
一応、背中が見えなくなるまで見送り、屋敷へと振り返る。
「さて、あれが屋敷みたいだし始めますか」
「にゃっ」
俺はひとつ深呼吸をし、呼吸を整える。
そして影収納から大鎌を取り出し、その漆黒の大鎌に影の魔力を注いでいく。
月明かりで漆黒の大鎌が黒光りし、禍々しさが増しているようだ。
魔力を注げば注ぐほど、大鎌に纏う霧は大きくなっていく。
よし、こんなもんかな。
「おーい、死神が迎えにきたよっ」
屋敷へと聞こえる声で叫び、にやりと笑みを浮かべ、大鎌を振りぬく。
振りぬかれた大鎌に纏っている霧はその範囲を広げ、前方に見える屋敷……
だけでなくその周囲の家も飲み込み、影世界へと誘う。
「……にゃー」
「うん。ごめん。すこしやりすぎた」
暗闇を照らす月明かりが、笑うように揺らいだ気がしたのは気のせいだろうか。
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