第99話 燃やしたい衝動
「ソラこっちだ」
「りょーかい」
草原をかけり、足早に帝都に戻ってきた俺たち。
ルイは長蛇の列の横をすり抜け、門に近づき、騎士の出入りで使用するのだろう小さな扉を開け、帝都の中へと誘導する。
騎士ではない俺たちも今回はジェイドさん、ルイと行動を共にしているため、身分確認などもなく、そのまま素通りできた。
これだったら、別に依頼を受ける必要なかったな。
「ソラ達は、まだカトレアさんのところにいるのか?」
「うん。その予定だよ」
「それなら助かる。明日の朝には面会の予定を作れると思うから、明日の朝は絶対ラキシエール伯爵家にいてくれ。いいな?ふらふらでかけるなよ?」
「わかってるって。ルイが迎えに来てよ。王宮の門で待たされるのはめんどくさいんだ」
「端からそのつもりだよ。お前みたいな問題児、他のやつに押し付けられるか。それに逃げられたらオレが困る」
誰が問題児だよ。最近問題起こしてないだろ。
もし、今回のドラゴンのことを言っているのなら俺は悪くないぞ?
ドーラとフールの登場の仕方が派手すぎるのが悪い。
あいつらには身を隠すという概念がないのだろうな。
圧倒的な強者。今まで命の危険を感じたことがない存在は、他者の視線など何も気にしない。
他者からどう思われようが、我を通す力がある。
今回はそれのせいで俺に被害がでたけど、俺はうちの天使がドーラとの再会で嬉しそうにしていたので満足している。
ドラゴンの件で文句を言ってくるなら俺はこういってやろう
天使がご所望だった。
それだけで世界の全人類は納得してくれるだろう。
ん?納得しない人類がいるはず?
そんなわけないだろ。そんな人類は必要ないんだ。
影から死神と黒の眷族が存在を消しに行く。
だから全人類納得してくれるんだ。存在が一にもみたない小数点以下の人類は俺たちが有効数字以下を切り捨ててあげる。もちろん有効数字は一の位までだ。簡単なことだろ?
「問題児じゃないもんね。そんなこと言っていると俺たちは冒険にでかけちゃうぞ?」
「ほんとにやめろよ?ソラを逃がしたらオレが隊長にどれだけ絞られるか……それにソラはまったく冒険者活動していないだろ。こんなときにこぞって活動すんな」
こいつ。俺が最近気にしていることを……。
今までは金目当てに自由な冒険者として活動し、自由を謳歌していたが。
最近になって俺って冒険してなくね?って思ったんだからな?
Aランクの推薦ももらって、おそらくだが、もうすぐAランクになる。
そんな上位数パーセントの冒険者が今までちゃんとした依頼件数が一桁なんて恥ずかしくて言えない。
しかもほぼ、ラキシエール伯爵家の使命依頼だ。
圧倒的に身内贔屓だし、他の依頼への習熟度がなさすぎる。
今回のテフテフの実の採取もほんとだとBランク冒険者がうけるような依頼じゃないからね。それを知らないからと副ギルマスに教えを乞う姿。自分で恥ずかしかったわ。
それにしても、ルイがここまでジェイドさんを恐れるとは。
ルイの戦闘姿をいまだ見たことがないが、俺の感覚だと強いと思っている。
それに以前聞いた話だと前の上司である四番隊の隊長、副隊長をボコボコにしたらしいしな。間違いなく騎士の中でも強者の地位にいるはずなのだ。
そんなルイが恐れる存在、零番隊隊長ジェイドさん。
んー。非常に強さや戦い方が気になる。
これも武闘大会で様々な人の戦闘見て感化されているのかもしれないな。
ゼンさんではないが、強者と戦ってみたい気持ちがわかってきた気がする。
「ルイうるさいぞ。冒険者は自由だ。金があって依頼をする必要がない。だから自由を謳歌していた。うらやましかったらルイも冒険者になるんだな」
「ほんとクソガキにもほどがあるぞ。あんまり外でそんなこと言うなよ。武闘大会最年少優勝者の実態がぐうたらな自由な戦士とか外聞が悪すぎる」
「自由の戦士はいいだろう。前のぐうたらはやめて。俺も結構いそがしいんだぞ?」
「例えば?最近の武闘大会以外のエピソードは?」
「……ティナと買い物。テトモコシロの屋台巡り。ブラッシング。モフモフタイム。読書……」
「ソラ。教えてやろう。それを世界は暇人という」
「なぁっ。うちの子たちとの戯れは俺にとって最優先事項だ。仕事でできなくなるなら、そんな仕事辞めてやる」
「わかったから、詰め寄ってくんな。まあ、明日の朝迎えにくるから絶対にラキシエール伯爵家にいろよ?それだけさえ守ってくれればいい」
「ドラゴンのことを話さなくてもいいのか?」
「それは、皇帝に面会してそうソラが判断したならしかたがないだろ。皇帝の力不足だ。別にソラが悪いわけではない。皇帝が下手にドラゴンの尾を踏まないように祈るばかりだよ」
ふーん。てっきりルイは絶対にドラゴンの事を話して欲しいのかと思っていたよ。
仕事のことになると途端に頭が柔らくなるのはなんでだ?
もっと私生活でもその頭を活かしてほしい。
「じゃー、俺は王宮に行ってくるわ。絶対明日いろよ」
「うん。何回も言わなくてもわかったから。また明日」
「また明日っ」
「にゃっ」
「わふっ」
「きゅっ」
うちの子たちも全員でルイを見送る。
さてラキシエール伯爵家に帰りますかね。
「ソラ君、ティナちゃん。それにみんなお帰りなさい。早いお帰りですが何かありましたか?」
「いや、特に問題はなかったよ。朝起きてすぐ帰ってきただけ」
「……」
サバスさんに迎えられたが、なぜか疑いの目を向けられている気がする。
「ソラ君のその顔は何かあった時の顔です。以前翌日に騎士の方がきましたからね。今度は何をしたのですか?」
うっ。エルドレート公爵家の件か。あの時は確かに翌日騎士に事情聴取されたな。
俺ってそんなに顔に出やすいのか。これはルイにポーカーフェイスを教えてもらう必要があるな。
「俺は何もしていないけど、明日ルイが朝迎えに来て王宮にいってくるよ」
「……ちなみに何をされにいくのですか?」
「皇帝に面会」
「……わかりました。ルイさんに事情を聴きに行きます。あ、ソラ君の部屋に手紙が届けてあるので確認をよろしくお願いします」
「手紙?」
「はい。ヴァロン帝国の貴族から大量に。カトレア様のお茶会に参加される方の名簿を渡しておきますので、その方の手紙には最低でも目を通しておいてください」
うげー、帰ってきた途端手紙の整理だと?
またあの知りたくもない日常の生活を読み、綺麗に取り繕われた文章を読むのか?
普通に嫌なんですけど。
「カトレア様はお茶会楽しみにされてましたね。そのときに粗相が何もなければいいのですが」
ぼそっとサバスさんは独り言のように言ってくる。
わかりましたよ。読めばいいんですよね?
カトレアさんにはお世話になっているし、そのお返しとしてお茶会にでるんだ。
粗相があってはならんな。名簿の人だけ読もう。
「では、私はルイさんのところに行ってきます。ソラ君たちはゆっくりしててください」
「はーい。手紙でも読んでおきます」
もう、ルイのところに行くのは確定しているみたいなので、俺からは何も言わない。
ほんと問題児としてのレッテルを張られすぎな気がするんだが。
確かに前科があるからね。これはしかたがないので静かに見送る。
フィリアとカトレアさんはいないみたいなのでそのまま自室へ。
自室の扉を開けると、目に入るのは机に重ねられた手紙の山。
いや、これにすべて目を通すのは不可能だろ。
用件だけ書いてくれている手紙なら余裕だが、貴族のだらだらとした慣例の文章こみだろ?勘弁してほしいぜ。
さて、名簿は……これか。
ん?三十名ぐらいの名前が見えるのだが?お茶会ってこんなに参加するのかな?
俺はてっきりカトレアさんの友達って言ってたから十名未満だと。
ということは……手紙の山からこの人数の手紙を発掘し目を通せと。
うちの子たちは我関せずとティナにブラッシングされながらまったりとくつろいでいる。
できるならば俺もそれに参加したい。
そしてこの手紙たちをモコに燃やしていただきたい。
証拠隠滅。こんなものは最初からなかったと。
まあ、そんなこと考えていても何も進まないので手紙読み始めるか。
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