第93話 お久しぶりと初めまして。私たちは無関係です。

 

 月明かりだけの迷いの森で静かなる瞑想を行った俺。

 あたりが薄明るくなるころには周りのウルフたちも目を覚ましだし、朝の活動を始めていた。

 テトモコはウルフが動き始めるとテントから出てきて、何やらリーダーウルフとお話ししていた。 

 

「わふわふわん」

「そうなのか?一時間ぐらいで中層につくのか?」

「にゃー」


 なるほどね。どれぐらいでつくかという質問に、ウルフたちは少し走ればつくと言っていたらしい。

 ウルフの少し走るの距離感はさすがに人間には図り切れないな。

 モコの感覚を信じることにしよう。

 テフテフの実のことを聞いてくれたのはありがたいが、今日はとりに行くつもりはないんだけどね。

 

「ウルフたちにもう巣に帰っていいと伝えてくれ。肉が欲しければ、昨日焼きまくった残りと生の肉をあげるとも」

「にゃ?にゃにゃにゃん」

「大丈夫、みんなの分はまだあるから。なくなったらまた死の森に戻ればいいだろ?」

「わふわふ?」

「今日はドーラを呼ぶ予定なんだよ。ウルフたちがいたら精神的にやられちゃうかもしれないだろ?ドーラの事も伝えていいから、怖かったらあまり近づかないように言ってあげて欲しい」

「わふっ」


 今日はドーラをもともと呼ぶ予定だった。

 いつ呼んでもいいと言っていたが呼んですぐバイバイだとドーラに悪いし、ティナが寂しがるだろうからな。

 さすがに二日間ぐらいは一緒にいさせてあげたい。


「ソーラー。おなかすいた」

「きゅうー」


 目を擦りながらティナは空腹を訴えかけてくる。

 まだ、起きていないような顔をしているのにちゃんとご飯の催促をしてくるあたり天使です。

 

 ウルフたちにも悪いのでそのまま朝ごはんを一緒に食べて行ってもらう。

 そこからは怒涛の肉焼きマシーンだ。


「わふわんわん」

「みんなありがとな。また迷いの森に来たら会いに来るよ」

「「「ぐるう」」」


 食事を食べ終え、買えり準備ができたウルフたちは綺麗に整列し俺たちへとあいさつする。

 さきほど何頭かは死の森産牛肉が入った袋を巣に持ち帰っていたようだが。

 今も九頭が咥えられるだけの肉が横に置かれている。

 何回も九頭はお礼を言い、終わりが見えそうになかったのでモコに頼み、帰らせることにした。

 野生のウルフたちよ、強く生きろよ。


「人間だからって近づいちゃだめだからな」

「ばいばいっ」


 食事を終えたあとから、小さなウルフと戯れていたティナは別れを惜しんでいるようだが。

 ちゃんと別れの挨拶を言えているのはえらいぞ。

 悲しそうな顔をしているティナを撫でてあげる。


「ソラ、今日は木の実?」

「今日は違うぞ。ドーラを呼ぶんだ」

「ドーラっ。呼んでいいの?」

「うん。いいんだけど、結局笛を吹けばくるんだっけ?なんかどんな感じでドーラが登場するのかわかる?」

「んー。あの時は怖かったから覚えてない」


 あー、そうか。呼んだのは一回だけで命を狙われている時だったな。

 それは覚えているわけないか。

 ちゃんとドーラに聞いておくべきだったな。


「じゃー、ティナの思うようにドーラを呼んでみてくれるか?」

「うんっ」


 テトの影収納からティナのカバンを取り出し呼び笛を手に取るティナ。

 ティナは少しの間笛を見つめて、気持ちの整理がついたのか、笛に口をつける。

 

 キーンとするような高音の音色。モスキート音と言われても不思議ではないほどだ。


 笛を吹き終わると、上空からまばゆい光と風が勢いよく流れる音が鳴りだす。

 慌てて、上空を見ると、そこには綺麗にすっぽりと雲が円形に消え去り、その中心には背景の青色によって際立っている純白の鱗を輝かせたドーラの姿が……


 んー。隣にいるのは誰かな??

 光の加減ですこし色の判別は難しいが、緑色の鱗をしたドラゴンさんの姿があるように思えるんだけど。


「ティナか。我も会いたかったぞー。今そちらにいこう」


 上空からでも聞こえるほど大きな声で話すドーラ。

 いくらここがダンジョンの上空だからと言ってあんまり大声は出さないで欲しい。

 絶対迷いの森にいる冒険者には聞こえるし見えるはずだ。

  

 それに、大声でティナの名前を呼ぶな。

 関係者だと知られるだろうが。バカ。


 そんな気持ちなど知らないであろうドーラは緑色のドラゴンと共に、上空から降りてくるが。その姿を器用にも小さくしていっているようだ。

 まあ、明らかに、ドーラ一体分のスペースもないし、もう一体なんて不可能だからね。

 緑色のドラゴンさんが小さくなれるのはもう、ドラゴンはみんなそんなもんだと思うことにした。


「ドーラ―。会いたかったー」


 地面まで降りてきたテトサイズのドーラをそのまま抱きしめるティナ。

 小さい翼をパタパタさせつつ、抱きしめられているドーラ。

 

 ほんと神秘的な光景だ。

 毎回思うが、物語だと絶対に重要イベントであるだろうが、俺たちにとってはただ会いたかったというだけだからな。

 ドラゴンの無駄遣いと言われるかもしれないが、天子様がそれを望んでいるんだ。

 他に理由が必要か?

 文句がある人にはただこれだけを伝えよう。


「あのー。ドーラ?ティナ?そろそろ抱擁はやめような。今回は知らないドラゴンさんもいるみたいだしさ」

「そうだったの。忘れておったわ。我の友。暴風竜じゃ。ヴァロン帝国におるならこやつの話をきいておるじゃろ?」

「あー。うん。やっぱり建国のドラゴンさんですよね?」


 はぁ……。ドーラはいつも何かを持ってこないと気が済まないドラゴンなのか?

 記念祭で公園のおっさんから聞いた限りでは何代目かの皇帝の時にいきなりいなくなってから行方知らずのはずなんだけどな。

 重要人物をさらっとヴァロン帝国の領土内に連れてこないで欲しい。

 俺らも関係者だと思われちゃうでしょ。まあ、ドーラに関してはいいんだけど、そちらの緑改め、エメラルドのドラゴンさんは関係ないからね。


「始めまして、ソラ、ティナ。それに従魔たちよ。活躍は楽しく見させてもらっていますよ」

「え?」

「お主それは内緒じゃと言っておっただろうに」

「ドーラ?」

「人間にはできない芸当だ。知ったことで何も変わらん」


 いや、別にやってみようとか考えているんじゃなくて。

 わけがわからないから説明を求めただけなんだけど。

 見させてもらっていたってことは、どこかで俺たちを観察していたのは間違いないのか。

 でも視線などは……感じなかったよな。


 俺と同じ意見だとテトモコは首を縦に振っている。

 ドラゴンのスキルかまたは魔道具か。魔道具ならぜひティナ観賞用に欲しいんだけど。

 ドーラが触れてほしくなさそうだからな。ここは諦め一択です。

 

「まあー、よくわからんがいいや。見ていたならわかると思うけど、先に紹介だけさせてくれ、死の森から出る時に一緒に行くことになったティナの従魔のシロだ」

「きゅうきゅう」


 シロはいつもどおり、よろしくーとしっぽをフリフリさせながら挨拶する。

 こいつは大物なのかもしれないな。

 テトモコも少し驚いているみたいだが、最初のテトモコの警戒様はすごかったからな。

 ドーラも暴風竜さんもシロの挨拶に優しく答え、握手のような物をしている。


「ティナねー。話したいこといっぱいあるの」

「そうだのー。ではテントというやつの中で話すか?あれは我が人間に扮していたときはなかったからの。気になっておったわ」


 何から何まで知っていそうなのだが、ティナが話したいって言っているので、そのまま行かせてあげよう。

 久しぶりのドーラとの再会。つもる話もあるだろうし。

 テトモコシロパーカーを見せたいだろうしな。

 

「暴風竜さんはどうされますか?できれば俺と建国の話や、なぜいなくなったのかとか聞いてみたいんですけど」

「そうね。建国の話は長くなるから夜にしましょ。それにこの国はいなくなったっていうけど私は巣に寝に戻っただけなのよ」

「え?」

「だから私も眠たかったから巣に帰ったの」

「はぁ…どれほど眠られたのですか?」

「ざっと八百年ぐらいかしら?戻ろうとして、情報収集してみればいなくなったみたいな扱いされているし。たまったもんじゃないわよね」

「はぁ……」


 これは誰も悪くない、きっとそうだ。時間という概念。それはこの世界で少し難しい物なのかもしれない。

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