第72話 あなたならレイドボスにどう挑みますか?

「それではAグループの試合を始めちゃいますよ。よーい。始め」


 メロディーさんの声で予選開始の宣言がされる。

 甘い可愛い声を合図に、闘技場のステージでは武装した出場者が動きだす。


 一言でいえば乱戦。ステージ上を恰幅の良い男性が武器を振りまわし、そこら中で戦闘が起こっている。

 

 まあ、予想通りの戦闘風景だ。

 とりあえず、隣にいるやつと戦い、後は勝ち残り同士でやりあう。

 ただそれを繰り返し、残り三人になるまでステージ上で立っていればいい。


 効率が悪いと感じるが、乱戦ではこれがベストなのだろう。

 見ていると、魔法を発動した人は周りのヘイトをかい、袋叩きにあっていた。乱戦では物理攻撃は対処しやすいが、遠距離魔法は対処しづらい。範囲魔法ならなおさらだ。

 だから、出場者は魔法を使う人を警戒し、早急に対処するのだろう。

 強力な魔法を放たれる前に対処するのがセオリーか。


 ただ、一対一の戦闘が続き、派手さに欠けているように見えるが、観客は盛り上がっている。 

 戦闘を生業にしていない人にとってみれば、近接での戦闘の方が評判はいいのだろうか。

 武器が鳴らす金属音と出場者の声が大きくなるほど、観客の声援も大きくなっている気がする。


「すごいねー。みんな戦っているよ」

「にゃにゃ」

「わふわふ」

「きゅうきゅう」


 うちの子たちは、初めて見る人間同士の乱戦に少し興奮気味だ。

 心配した血みどろの戦闘もティナにとっては苦でないらしく、目を輝かせて声を上げている。

 テトモコシロは自分だったらどう戦うかをティナに教えているが、テトモコシロが戦うなら、レイドボス攻略みたいになりそうだな。

 それはそれで面白そうだが、出場者の悲惨な姿しか想像できない。

 

 勝ち上がるには三人に残らなければいけない。だからテトモコシロのうち一匹は討伐しないといけないというね。

 うちの子のなかでもまだマシなシロでさえ、結界があるから攻撃は通らないだろうな。

 んー。誰から討伐すればいいのだろうな。

 ゲーム脳で考えてみるが、結構無理ゲーな気がする。そもそもほとんどの出場者はテトモコのスピードについて来れないだろうし、よく考えるとシロの結界を三匹に常時発動していたら、無理だな。

 まあ、先にシロをどうにかするのがいいのだろうが、テトモコが弟分であるシロに危害を加えるやつを見逃すはずがない。

 近づくだけで消されるだろうな……

 

「無理ゲーだ」

「ん?Aグループの人だとジルドに勝てそうにないっすね。他の出場者はジルドとの戦闘を避けて、三人に残ることにシフトしたみたいっすね」


 脳内レイドボス戦をしていて、うっかり声が出てしまったが、ヒロはジルドさんのことだと勘違いしてくれたようだ。

 無理ゲーが通じる世界線が少し怖いが。

 

 ジルドさんを見ると、周りには人はいないみたいだ。

 一応戦闘態勢を解いていないようだが、見ている感じ、誰も攻撃しなさそうだな。

 

 楽そうだと思うけど、他の出場者はそれでいいのかな……

 俺なら、本戦の一対一で勝てそうにない相手は乱戦の中で排除したいけどな。

 まあ、排除できないと判断したんだろうが、それだと本戦では負けるつもりなのだろうか。

 まあ、本戦でるのが目標ならいいのかもな。

 

 ステージ上の人数は順調に減り、場外に出された出場者の方が多くなってきた。

 外の出場者は情報通り、ケガをしている様子もなく、各々ステージで繰り広げられている戦闘を見ている。

 

 それにしても、ケガをなくす守護結界。実際見てみると興味深いな。

 毒とか麻痺の継続ダメージはどうなんだろうか?

 精神的ダメージや幻術などの症状はどうなるのだろうか。

 なんか色々研究してみたくなってくる。

 もしかしたら、あくどい国ならそういう研究はしているかも。


「もう終わりそうだよっ?」

「そうだね。ジルドさんは残りそうだ。あとはオレンジ髪の女性と斧を振り回しているおっさんかな?」

「そうっすね。たぶんその三人で決まりっす」



 俺たちの予想通り、Aグループの本戦出場者はその三人に決まった。

 ジルドさんは後半なにもしていなかったが、他の二人が残りの出場者を全員退場させていた。


「終了です。Aグループの本戦出場は銀髪イケメンのジルド、マリンデ親子に決定しました。皆さん健闘に拍手を!」


 メロディーさんの終了宣言で会場中が拍手の音に包まれる。


「あの二人は親子なのか?」

「そうらしいっすね。斧を振り回していたドン・マリンデのことは知っていたっすけど、娘さんは知らなかったすね」

「父親の方は冒険者?」

「いや、専業は大工のはずっす。冒険者として仕事している時もあるみたいっすけど」


 大工……だからあれだけ力任せの戦闘をしていたのか。

 脳筋というか、ひたすら近い奴に切りかかってたからな。

 娘さんはレイピアと呼ばれる、先が細い剣を巧みに使って戦闘をしていたな。

 性別の差もあるだろうが、親子でこうも戦い方がちがうと、言われないと親子だと思えないな。

 ゴリラと美女だし……


 その後、予選は進んでいき、結局、Aグループの後もうちの子たちが見たいと言ったのでそのまま観戦した。

 戦闘にそこまで大きな違いはないが、俺の目でも強いと感じる人はほとんど本戦へと出場を決めた。

 

 その中でも気になる人は二人だな。

 一人は女性でネネという名前らしい。氷魔法を使用し、唯一予選を魔法で勝ち上がったと呼べる者だ。

 他の参加者も魔法を使っていたが、その女性は長杖と魔法のみで戦い、ほとんど近接を行っていなかった。

 近寄ってくる人に氷を飛ばし、ダメージ与える。常に距離を保つ戦闘スタイルなのか、戦場での立ち回りが上手だった。


 もう一人は金髪の男性なのだが、この人に関しては戦闘を見ることができなかった。

 見逃したのではなく、ただ戦闘をしていないだけ。

 仲間か従者なのか知らないが、近くにいた二人の男性が、その金髪に近寄る者を倒していたのだ。

 試合が終盤になり残り人数が五人になると、お付きの二人は自らステージを降りた。


 ここまでの内容なら貴族や冒険者の権力のあるやつがズルをしただけだと、俺も興味を抱かない。

 ただ、メロディーさんが試合終了時に告げた、ヴァロン帝国第三皇子という言葉が俺に金髪男性レオン・デ・ヴァロンの興味をもたせた。


 はたして、王族が建国記念祭の一大イベントである武闘大会でズルをするだろうか?

 弱い王族をズルして勝たせて本戦に出場させる?

 普通の思考をしているのならそんなことはしないだろう。


 それに、俺の思考が正しいと言っているかのように、第三皇子への非難は観客から聞こえることはなく、声援や本戦での戦闘を楽しみにしている声が闘技場に響き渡ったっていた、


 観客の声を聴く限り、おそらく、その皇子は強い。

 そして、予選をズルのような勝ち方をしてもいいぐらい、観客に人気もある。

 人間はわからない物、知らないことに興味を抱くが。

 レオン殿下の戦闘を見ていないからこそ、どんな戦い方をするのかと興味を抱いてしまった。


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