第54話 事情聴取
翌朝、サバスさんの扉をノックする音で目が覚めた。
「ソラ君に騎士の方がお話ししたいと屋敷に訪れているのですが、何をしたのですか?」
「??何もしてないけど」
「話を聞きたいみたいですので、客室に通しています。ソラ君もついてきてください」
俺は言われるがまま、サバスさんの後をついていく。
肩にテトをのせたまま。
「朝から申し訳ない。少し話を聞きたいんだが、ソラ君。いいかな?」
真面目そうな顔をした騎士の男性が声をかけてくる。
「いいですけど……」
「ありがとう。私は五番隊に所属しているオリス・へーベルです。よろしく」
「冒険者のソラです。こっちは黒猫のテト。よろしくお願いします」
差し出された手を取り、握手をする。
「さっそくだけど、ソラ君は昨日エルドレート公爵家には行ったよね?」
「はい」
「その時に何かなかったかな?」
「??」
「あー、一応公爵家側からの話も聞いている」
「なるほど。謝罪をしたいとのことでしたので伺ったんですが、一時間以上も待たされ、挙句の果てには謝罪をするのは俺の方だと相手側がいうのでイラついて出てきました」
「ソラ君。問題ないと言っていたではないですか」
横でサバスさんが驚いて声をあげるが。
ごめん。
その日のうちに消すつもりだったから問題がないと思ったんだよ。
「サバスさんごめんなさい。エルドレート公爵家に関わらなければ問題がないと判断しまして……」
「それでも言ってくださると助かるのですが。一応ソラ君たちはラキシエール伯爵家の客人として招いていますので。客人の行動は伯爵家の行動につながります」
「ごめんなさい」
さすがにこれは平謝りだ。
お世話になっている伯爵家に迷惑をかけるのはまずい。
「終わったことですのでもう言いませんが、今度から何かあった時は教えてください」
「はい」
最近怒られてばっかりな気がする。
「話に横入りしてしまいました。オリスさん続けてください」
「では、話を続けます。騒動のことは理解しました。双方の意見に少し違いは見られますが、大体のことはわかりました。ではこれからが本題です。クロード・エルドレート様の行方を知りませんか?昨夜から行方がわからなくなっておりまして……」
ん?誰だ?
サバスさんのことを見ると。
「エルドレート公爵家の当主様です。ソラ君がじじぃと呼んでいる方ですよ」
「あー。そんな名前でしたね。名前覚えるのが苦手で……。その人の行方?」
まあ、エルドレート公爵家の話が出たときから気づいてはいたが、やはり昨日の夜のことね。
日中に騒動を起こしていた俺が怪しくはあるだろう。
しかも、調べれば決闘のこともわかるだろうし。
俺が最重要参考人ってことだ。
行方?人は死んだらどこにいくんだろう。
そんな話をしに来たのではないだろうが、みんな一度は考えたことがある題材だよね。
地球では死ぬと天国、地獄に行くのが主流の考えなのだろうか。
では、この世界ではどこにいくことになっているのだろう。
ティナが買っている本にはあまり人の死について書かれているものはない。
ん-。考えてみてもわからん。
「わかりませんね」
オリスさんは腕についているリングを覗き、光を見ている。
「嘘はついていませんね。ありがとうございます」
嘘はついていないだと?
なぜそんなことがわかる?
もしかしてその腕のリングは魔道具で嘘発見器みたいなものか?
だとしたらやばい。
質問されればされるほど、ボロが浮き出てくる。
「そのリングは魔道具なの?」
「そうなんですよ。黙っていてすみません。これは嘘を見抜く魔道具です。魔石に込められている魔力を使い発動するのですが、その魔力量がとてつもなく多く、使い勝手が悪いんですよ。希少な魔石を使用し、たった一度の質問だけですからね」
そう言いながら、オリスさんは笑っているが。
俺の服の下では冷や汗がだらだらと流れている。
いや、やばすぎるだろ。
質問された内容が行方という曖昧なことだったので助かったが。
ソラ君が殺しましたか?と言われていたら嘘がばれていた。
それに、俺が死の概念みたいなことを考え、結局わからないと判断したから、俺の嘘がばれなかっただけだ。
今は頭の中で、影世界に連れていき、殺したことを意識してしまっている。
再度同じ質問をされれば、じじぃの行方を影世界だと俺が認識してしまっているからこそ、嘘がばれてしまう。
冷や汗が流れているが、気づかれてはいないだろうか。
顔が普通に見えるように意識していく。
ふー。落ち着け俺。
そう思っているとオリスさんは立ち上がる。
「ご協力感謝します。クロード・エルドレート様のことはトップシークレットですので、発表がされるまでは内密にお願いします」
そう言うと、オリスさんは部屋を出ていく。
「ふうー」
「ソラ君大丈夫ですか?疲れているように見えますが」
緊張の糸が切れ、息を吐き出してしまったが、まだ部屋の中にサバスさんがいた。
「大丈夫ですよ。寝起きで騎士から事情聴取みたいなことをされて少し疲れただけです」
「それならいいのですが。まだ早いので眠られますか?」
「そうするよ。サバスさんもありがとう」
俺はそう言い、自室へと戻る。
ティナシロはまだ寝ているようだ。
テトモコは俺が入ってきたのを気づいたようで近寄ってくる。
「わふ?」
「あー。大丈夫だ。少し動揺しすぎた。考えごとをしたいからまったりしといてくれ」
そういうと、テトモコは俺の横で丸まり、眠るようだ
嘘を見抜く魔道具。
考えたこともなかった。
確かに今思えば、小説でもそのようなものはあったな。
でも、実際使われてみると心臓に悪いものだ。
今回、嘘をついてはいないが、これは俺の意識と聞き方の問題があっただけだ。
魔道具と知ると、昨夜の出来事を深く思い起こし、イメージしてしまっていた。
あの時、単純に思考していれば、嘘がばれていた事実に動揺が隠せない。
一つの考え方の違いで嘘を見抜く魔道具を欺けることを知れたのは大きいが……。
精神的疲労がものすごい。
それに、もう一度欺けと言われてできるものではないだろう。
意識をしないようにすると意識しても、その事を意識している事に変わりない。
本当に意識しないということ自体が難しい。
絶対に質問された瞬間に少しは意識してしまうだろう。
あー、頭の中がこんがらってきた。
意識するしないを人間に決められるわけがないだろっ。
それに、あんな魔道具は卑怯すぎる。
犯人もびっくりな魔道具だわ。
あんなものがある世界でよく悪いことができるな。
魔石が希少で何回も質問できないというだけで、ドンピシャの質問がされれば、ばれてしまうんだぞ?
ちょっと尊敬するわ。
俺はもうあの魔道具を使われたくないね。
冷や汗などかきたくない
どれだけ考えても、噓を見抜く魔道具の対処法も見つからない。
再度使われた時に、俺が意識しないことを願うばかりだ。
まあ、ばれたとて、その者を殺せばいいだけなんだけどね。
あまり関係ない人を殺したくはないが、うちの子たちのためだ。
その時がくれば俺はいつでも死神になろう。
考えるのに疲れたので、ベットに入り、ティナの温もりを感じながら二度寝をきめる。
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