第53話 死神のお散歩

 俺とテトはラキシエール伯爵家に戻ってくると、門の前にはサバスさんがいた。


「お帰りなさい。結構お時間がかかったようですね」

「あー、じじぃが来るのが遅かったからね」

「じじぃ?」

「うん。名前は知らないけど。金髪で顔がいかつめで髭を生やしたじじぃ」

「……エルドレート公爵家の当主であるクロード・エルドレート様ですね」


 クロードという名前なのか。無駄にカッコいい名前してんじゃねーよ。

 あんなやつゴミでいい。

 

「なにか問題でもありましたか?」

「大丈夫。問題ないよ」

「さようですか。フィリア様たちはフィリア様の部屋にいらっしゃいます」

「ありがと」


 屋敷へと入り、フィリアの部屋に歩いていく。


「あっ。ソラ。テトちゃん。おかえりー」


 フィリアの部屋をノックし、扉を開けると、絵を書いていたのだろうティナが抱き着いてくる。

 モコシロチロも俺たちに近づいてくる。

 やっぱりここは天国だよ。

 エルドレート公爵家で穢れた心が天使の抱擁で浄化されていく。

 このまま抱き着いていれば、天にも昇る気持ちが味わえるだろう。


「もう、いつまで目の前で抱き着いているつもりなのよ。ソラ離れなさい」


 フィリアが何か言っているような気がするが。天界に人の声など届かないのだよ。

 神様で実証済みだ。

 どれだけ言ってもカメラをくれないからね。

 ここの天国は居心地がいい。天使の抱擁付きだぞ?一時間何円ですか?


「もう、ティナちゃんも離れるの」

「ソラ。あったかくてきもちいい」


 ほらな。うちの天使もそう申しております。

 フィリアのお守はもういらないよー。


「ティナちゃんまでも侵されてしまった」

「人聞きが悪いことを言うな。相思相愛と言ってくれ」

「何よ。今まで無視していたくせに。急に話し出さないでよ」

「俺らの関係を穢された気がした」

「はいはい、もういいわよ。ティアちゃんを返しなさい」


 そういって、ティナを抱こうとしているが。

 お前もただ抱き着きたいだけだろ。

 俺の目はごまかせないぞ


「で、どうだったの?」

「ティナはあったかくていい匂いがしたよ」

「ティナちゃんのことを今聞くわけがないでしょう?バカなの?エルドレート公爵家のことよ」

「あー。天使との抱擁のことかと思った。そっちは大丈夫だ」

「何が大丈夫なのよ。ソラがその顔をしている時はロクでもない時しかないのよ」


 一体俺はどんな表情をしているのだろう。

 

 数か月一緒にいるとそういう表情の違いもわかるのか。

 確かに、フィリアのことは結構わかってきた気がする。

 狂気になる瞬間も見極められることができるようになった。

 もちろん。その時はティナを抱っこして、フィリアから離すのだが。


「まあーいいわ。気になるけど聞かないわ。どーせロクでもない」

「信じてくれてありがと」

「ほら、ロクでもないことじゃない」


 フィリアは俺を見てため息をついている。

 まあ、ロクでもないことだが、想像はできないだろうな……。


「そういえば、家族の絵とか貴族は書いてもらうことある?」

「いきなり話が飛びすぎよ。絵を書いてもらうことはあるわ。この屋敷にもお父様の部屋に飾ってあるわよ」

「その画家さんに俺たちのことを書いてもらえるかな?」

「お金を払えば書いてもらえるけど、絵が欲しいの?」

「欲しいだろ。うちの子たちはこの一瞬の間にも成長しているんだぞ?今の姿を保存しないでどうするんだ」

「ソラ。あなた病気よ」

「うるさい」

 

 肖像画としてうちの子を保存することができるみたいだ。

 フィリアの視線が痛いがそんなものは気にしないことにする。

 神様がカメラをくれないのが悪いんだ。


 昼食の時間になったのでみんなで食事をし、昼も何をすることもなくただただまったりと過ごした。

 たまにはこういう時間は必要だ。


 


 時が経ち、世界は暗闇に包まれている。


 俺の隣ではティナとシロが抱き合って眠っている。


「テト。ティナシロを頼むぞ」

「にゃっ」

「じゃー、モコ行こう」


 部屋の窓から飛び降り、地面に降りると同時に影入りをする。

 そのまま影世界の中で屋敷の塀に近づき、風魔法で浮上して飛び越える。


 静穏に包まれている貴族街を一人と一匹は歩いていく。


 ちらほらと巡回の騎士が歩いているのを目にするが、それ以外の人は見当たらない。

 灰色の街灯を頼りに黙々とエルドレート公爵家に向けて歩みを進めていく。


「なあ、モコやっぱり燃やすのはダメか?」

「わふ」


 んー。どうやって侵入しようか。


 俺たちはエルドレート公爵家の門の前で侵入経路を模索している。

 モコの火魔法で全焼させようと提案したのだが、テトモコに止められてしまった。

 関係がないメイドさんや従者を殺すのはテトモコ的にはダメらしい。

 魔物なのに、俺より常識があるのはなんでなんだろう。


 門には門番がおり、庭には数名の騎士の姿が見える。


 影世界の中を進み、扉までは行けるが鍵が開いているかはわからない。

 伯爵家の扉は施錠されていたから、ここもそうだろうな。


 窓から入るのが手っ取り早いかな

 影世界の中で庭進んで、窓を確認していく。

 どこにあのじじぃはいるかな。

 おそらく一番広い部屋で上の階にいると思うんだけど……


 風を生み出し、二階の窓から中を覗いていく。

 あっ、じじぃ発見。

 一番広い窓がある部屋を覗くと一発で発見することができた。

 ほんと、バカの行動はわかりやすくて助かるよ。

 これでも公爵家当主なんだぞ?笑えるだろ。


 窓の縁に立ち、表世界へと出て、窓を開ける。


 うっ。くさい。

 部屋中に加齢臭とアルコールの匂いが充満している。

 机の上には酒瓶が数個転がっているのが見える。


 日中の俺との会話がそんなに堪えたのか?

 アルコールに逃げるのはよくない。早死にするぞ。

 まあ、今日が命日なんだけど……


 表世界の部屋を歩きベットまでたどり着く。

 掛け布団をはがし、じじぃに触れ、影世界へといざなう。


 俺が触れているにも関わらず、じじぃは起きる気配がない。

 それにしても、見ているだけでも拒否感がでるな。


「わふ」

「あー。そうだな。じゃー。おやすみ」


 モコもじじぃから発せられるイビキの音、アルコ―ル臭に耐えられないのか俺を急かしてきた。

 急かされるがままに大鎌であっさりとじじぃの首を刈り取る。

 なんの抵抗もなく、じじぃの首と体が切り離され、動かないまま死んでしまった。

 

 あー、あっけなく終わってしまった。

 

 これは少し考えものだな。

 復讐をしたのに何も感じない。

 達成感というものがなにもない。

 別に復讐にやりがいを求めているわけではないが、これだと味気なさすぎる。


 やはり、派手に魔法で殺すべきだったのではないか?

 うちの子に手を出せばこうなるぞと示せばよかったのではないか?

 頭の中で様々な死を想像するが、どれもやはり周りの者の死がついてくる。

 テトモコが気にしているので、あまり関係ない人を巻き込みたくはない。

 その気持ちは変わらないが、俺の絶望を味合わせたいと思う気持ちはどうすればいい?

 

 あっ。普通に影世界で起こせばよかったのか。

 

 そう思ってじじぃを見るが、すでに息をしていない。

 くそ。やらかした。

 臭いしうるさいしでその事を失念していた。

 まあ、まだ標的はいる。それで試そう。俺の気持ちを満たしてくれる殺し方を。


 エルドレート公爵家にはまだ殺さないといけない人間が残っているがどこにいるかがわからない。

 どこか情報屋みたいなところはないかな?


 そんなことを考えながら、エルドレート公爵家の屋敷から出て、ラキシエール伯爵家へと向かう。


「にゃーん」

「ただいま、終わったよ」


 俺たちが帰ってくるのを待っていたテトが俺に寄り添ってくる。

 

「お留守番ありがとね」


 ゴロゴロと甘えてくるテトを撫でまわす。

 モコも子犬サイズで俺の膝の上に頭を乗せている。

 そんなウルウルした目で見ないでくれ。

 じゃれあいすぎて、ティナが起きてしまいそうになるだろ。


 そんなことを思いながらも、撫でる手を止めない。


 そのままエルドレート公爵家のことなど微塵も気にすることはなく、眠りについた。

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