第41話 冷戦


 屋敷を出て、そのままギルドへと向かう。

 受付には珍しくギルマスのおじいさんはおらず、受付嬢の人で埋まってる。

 エレナさんに怒られてしまったのかな?

 なむなむ。


「天使の楽園様どうぞ」


 受付に並んでいると順番が回ってきた。


「解体をグスタさんに頼みたいんだけど、倉庫に向かってもいいですか?」

「わかりました。一人職員がついていきますので、お待ちください」


 一人の案内人がついてくるそうだ。

 誰が来るのかな?

 その時、ギルドの喧騒がなくなり、わずかに気温の低下を感じた。

 少し肌寒く、鳥肌が立っている。

 テトモコも周囲を見渡し警戒の色を見せている。


 受付の後ろで女性たちが立ち上がり、集まっている姿が見える。

 美しい女性も可愛いらしい女性もみな顔が能面のようで表情がない。


 周りの冒険者も何事かと小声で仲間と話し合っている。

 そこにこだまする一人の女性の言葉。

 

「案内は一人だけです。今回の時間はあちら側が設定されているものなので、文句や罵倒は許しません。運に任せ、くじで幸運なる者を決めます」

「「「はい」」」


 受付嬢が戦場に投入される兵士のような面持ちになっている。

 

 あれは……俺らのせいなのか?

 テトモコを見ているが首を縦に振っている。

 会話の流れと、うちの子の魔物の感がそうだと告げている。

 テトモコは警戒をやめ、ティナと遊び始めるようだ。

 あれほどの闘気を受付嬢がだせるものなのか?

 死の森でも感じたことのない。闘気、すこしの殺気。



 静穏に包まれるギルド。

 周りの冒険者はみな、受付嬢のくじ引きを見つめている。

 

 なんか大事になっている気がするんだけど。

 四日後には帝都に向かうんだよね。

 いつ言おうか。

 いや、このまま言わずに逃げる方が安全なのか?

 俺は頭をフル回転させ、自分の身を守るために思考を続ける。


 うん、エレナさんに相談しよう。

 何をしても自分だけでは危険な気がする。

 こういうのはわかる人が解決すればいい。

 思考を放棄し、エレナさんに丸投げをすることにした。


 くじ引きが終了したのか、ギルドの雰囲気が緩む。

 肩を落としている人がほとんどだが、何人も来られても困るからね。

 あたりを引き当てたであろう幸運の女性が笑顔でこちらに歩いてくる。


「天使の楽園様、こちらでございます」


 すこぶる機嫌がいいのか、背景に花びらが舞っているように見える。

 俺はテトに目で合図を行い、テトを案内人の女性の肩へと向かわせる。

 俺からのご褒美だ。

 テトは了解と魔物を狩る時みたいにスムーズな受けごたえで俺の指示に従う。


「にゃーん」

 

 女性の肩へとスルリと飛び上がり、ほほに頬刷りしながら鳴き声を上げる。


「あっ」


 少し動揺を見せた女性だったが、耐性持ちなのか毅然とした態度でテトを撫でていく。

 テトを肩に乗せたまま進む女性の後を追う。


 後ろからの視線はシャットダウンしているので平気だ。

 広報大使としてやりとげた俺には視線シャットダウンというスキルが身についた。

 もちろん、嘘だが。ついていると思っている。


「おう、坊主か。久しぶりだな」

「お久しぶりです。グスタさん。死の森の魔物をまた解体してもらおうと思ってきました」

「いいぞ。この前ぐらい出してくれ」


 影収納から次々と魔物の死骸を出していく。


「今回肉はいるか?」

「いや、今回はいいや。結構余っているんだよね」

「そりゃー、あれだけ持っていけばな」


 どこかへ行くときは、結局屋台とかで大量購入するし、街の中でほとんど消費しないから、ストックしててもあまり必要がないことに気づいた。

 俺とグスタさんが解体の仕方や、魔物の素材について話している間、幸運な女性はうちの子たちと戯れてた。


「ねえねえ、静かに聞いてね?」


 俺はグスタさんに近づき小声で話す。


「俺たち四日後に帝都に行くつもりなんだ。だから三日後の夜にでも金を受け取れないかな?」

「それは……がんばるわ。でも、冒険者ギルドの女性が発狂するぞ?お前たちの人気がすごくてギルマスのおっさんがエレナさんに詰められてたぞ?」

「ありがと。そうなんだ。だから、エレナさんに相談しようと思って。だから、今はナイショにしてて」

「おう、坊主も大変だな」


 グスタさんは優しく了承してくれた。

 今回は幸運な女性のために、いろいろ魔物の素材のことも聞いたが、さすがにもう時間はつかえない。

 尾を引かれている女性をつれ、グスタさんの解体倉庫をでる。


「エレナさんに用事があるんだけど、今会えるかな?」

「会えると思いますので、いつもの部屋で待っていてください」


 そういうと、幸運な女性はスタスタとギルドの二階へと上がっていく。

 

 とりあえずソファーにでも座っておこう。

 待つこと数分。エレナさんをつれた幸運な女性が部屋に入ってくる。


「あなたは仕事に戻りなさい」

「ですが、お茶やお菓子などを用意しなくては」

「いいから、これ以上ここにいたらどうなるかを考えてみなさい」

「はっ、すみません。すぐ戻ります。エレナさんありがとうございます」


 ギルドの受付の後ろは、俺には想像ができないほどの戦場なのかもしれない。

 俺はとりあえずそのことについて考えるのをやめ。

 身を守るためにエレナさんに相談する。


「エレナさん。今度帝都に行くことになりました」

「はい?」


 えっと、もう一度。


「エレナさん。今度帝都に行くことになりました」

「それは……依頼ではないですね。現在受注している物はありませんでしたし、何をしにいくのですか?」

「帝都観光と、ティナの回復魔法の先生に会いに行くのと、テトモコシロパーカの宣伝です」

「そうですか、先生ということは長期になるってことですよね?」

「そうなります。今のところ戻ってくるめどは立ってないですね」

「困りましたね。テトモコシロちゃんと触れ合えていない職員が発狂しそうです」

「そのためにエレナさんに相談しました」

「ソラ様、ありがとうございます。出発はいつですか?」

「四日後ですね」

「では、一日三時間ほど、この部屋で生活していただけませんか?」


 三時間……

 精神はもつのか?

 

「もちろん皆様に不快な思いを抱かせることはさせません。この前は歯止めがきかず暴走した者もおりましたが。今後はさせませんのでどうでしょか?」

「普通に生活していたらいいの?」

「そうです。ソラ様は苦手なようなので、あまり積極的にいかないよう注意します」


 それは助かる。

 綺麗な女性の膝の上は落ち着かないからな。


「この部屋で料理してもいい」

「換気の魔道具を導入しましょう。明日には料理しても大丈夫なようにしておきます」

「このコンロ使ってもいいんだよね?」

「はい。それでお願いします」


 エレナさんとの密会も終わり、契約を結ぶ。

 なんと三時間で大銀貨三枚。一時間一万円の収入だ。

 冒険者ギルドの女性たちで出し合うらしい。

 

 まあ、普通に生活してたらいいだけだし、準備も進めつつ過ごそう。

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