第40話 ラキシエール伯爵家が遠い

 

 騎士の詰所を出てから、フィリアの家、ラキシエール伯爵家へと向かう。


「お前たち、止まれ」


 貴族街の入り口にある門で騎士に止められる。


「領主様の屋敷に行きたいんだけど、どうすればいい?」

「身分証を見せろ」

「ほい」


 俺とティナは冒険者カードを提出する。


「Bランクと、Gランクか。何の用で領主様の屋敷にいくのだ」

「フィリアと話しに行くだけ」


 なんか、鼻に触る話し方をするな。

 ジロジロと俺たちを見ながら、高圧的に質問してくる。


「伯爵令嬢を呼び捨てとは不敬だぞ」

「んー、本人にそう呼べって言われたんだよ。俺たちのこと知らない?自分でいうのもなんだけど結構この街では有名になっていると思うけど」

「知っているが、それがなんだ。ちょっと目立つガキと従魔がいるだけだろ。調子にのるなよ」


 んー、こいつなんなんだ?

 はやく通してほしいんだけど。

 子供嫌いか?それともなんかむかつくことがあって、俺に八つ当たりしているのか?


「えっと、どうしたら通してくれるの?」

「今から、他の者が領主様に確認しに行く。そこで待っておれ」


 えー。

 ここから屋敷まで馬車で十分ぐらいかかったと思うんだけど……。

 行きかえり合わせて二十分以上待たないといけないの?

 しかも、こんな高圧的な騎士がいるところで。

 フィリアにも予定をいれてもらってないし、別に今日行かなくてもいいか。

 

「ねえ、今日はもういいや、明日、天使の楽園が屋敷を訪ねるって伝えておいてよ。それといつ行けばいいか聞いてもらっていい?」


 フィリアに手紙で教えてもらおう。

 こんなところで待っていられない。

 俺は騎士にそう告げ、門を離れようとする。


「おい、待て」

「おっ、なにかあったのか?」


 巡回中の騎士だろうか。

 貴族街から三名の騎士がこちらにやってきて、門番の騎士に声をかける。


「いえ、この子供たちがフィリア様に話があるとやって来たので、領主様に確認しにいくと伝えると、伝言を残して立ち去ろうとしたから止めていただけです」

「あ?あー、死神と従魔のお嬢ちゃんか。その子たちなら領主様の屋敷への通行を許可されているぞ」

「えっ。なぜですか?」

「そんなことは知らん。領主様がいいと言っているんだ。通してあげろ」


 お、いい人たちじゃないか。

 こら、門番聞いたか。

 ちゃんとそこらへんの情報ぐらい頭にいれとけ。

 下っ端の小僧がいきるな。


「じゃ、そうゆうことで。騎士さんたちありがとう」

「ありがとっ」


 うちの子たちも感謝の声を上げている。


「おう、うちのもんが迷惑かけたな。気を付けていけよ」


 優しい騎士たちにお礼をいい、門を離れる。


「べーだ」

「べー」


 むかつく騎士に見えない角度で舌を出してやる。

 ティナが俺のマネをする。


「ティナ、こんなことマネしちゃだめだぞ」

「あの騎士嫌い」


 よし、殺すか。

 うちの天使が嫌いなものは視界に入れない方がいい。

 この世からの永久BANを食らわせてやろう


「うわぁ、冷たい」

 

 後方で高圧的だった騎士の声が聞こえる。

 テトモコシロは上機嫌に、俺の横を歩いている。


「にゃんにゃんにゃーにゃー」


 テトがなにかしたのかな?

 鼻歌を歌いながら、モコの上でくつろいでいる。


「水?」

「にゃー」


 ただ、水をかけただけのようだ。

 槍でも降らせてやればよかったのに。

 そういえば、なんかテトモコは俺に似てきたな。

 ティナを中心に考え方が構成されている気がする。

 

 貴族街を歩いていき、七分ほどで屋敷へと到着した。

 馬車って思ったよりスピードでないんだな。

 もしかしたら街中だとスピードをおさえてるのかもしれない


 

「すいませーん。フィリアに会いに来ました」

「天使の楽園ですね。今、セバスを呼びますのでお待ちください」


 領主の屋敷の門番は対応がいいな。

 それにしてもセバスさんが来るのか、エドさん専属なのにいいのか?


「お待たせしました。ソラ君、ティナちゃん。エド様のところへとお連れします」


 

 セバスさんに連れられ、毎度おなじみ、エドさんの執務室に向かう。

 いつものように声をかけ、入室の許可を得ている。

 俺たちは静かにいつものソファーへと座り、エドさんの仕事の区切りがつくまで待つ。


 この流れも三回目になれば慣れたものだ。

 テトモコシロもソファーに乗ることが許可されているので、ぐでーっとくつろいでいる。

 うちの子たちには権力なんて関係ないのだろう。


「待たせたな。初めにフィリアの従魔の件、感謝するぞ」

「依頼ですので、それに俺はなにもしてないんですよ」

「フィリアも喜んでいてな、毎日チロと遊んでいる。久しぶりにあんな幸せそうな顔が見れたよ」

「それはよかったです。今回フィリアに会いに来たのは、帝都に行くときに俺たちも同行しようと思いまして、日程などを聞きに来ました」

「おおー、そうか。フィリアも喜ぶだろう。セバス、フィリアの部屋へと連れて行ってやれ」

「かしこまりました。」


 セバスさんはそう告げ、フィリアの部屋へと連れて行ってくれる。


「フィリア様、天使の楽園様をお連れしました」

「ソラ?ティナ?」

「ティナだよー」


 扉の前で元気よくティナが声を上げる。


「入ってきていいわよ」


 簡単に入れてくれるけど、伯爵令嬢の部屋に入ってもいいのだろうか。

 あの時は喧嘩していて、フィリアが部屋から出てきそうになかったからいいだろうけど。

 もう一回入っているし、そこらへんは気にしないのか?


「おじゃましますっ」

「きゅいーー」


 俺たちが入ると、チロがものすごいスピードでティナに飛び込んでくる。


「あ、コラ、いきなり抱き着いたらダメだって教えたでしょ?」

「きゅーー」


 小さな体をさらに小さくし、反省の意を示しているチロ。

 ちゃんと教育しているみたいだ。

 甘々なフィリアが見れると思っていたのだが、案外ちゃんとしているのかもしれない。


「もう、そんな姿も可愛いんだから、ちゅっ」


 フィリアは床にいるチロを優しく抱え上げ、小さな頭へとキスをおとす。

 前言撤回だ。厳しいみたいだが、甘々なピンクのオーラが出ている。

 部屋がピンクなこともあって、より、甘いスイーツのような雰囲気を醸し出している。

 

「あー、ティナも」


 そういうと、ティナもなぜかシロを抱っこしキスをする。


「きゅいー」

「きゅい」

 

 二匹の似たような声で、うれしさを表現している。

 両方ともしっぽのふりふりが止まらない。

 

 テトモコなぜ俺を見ている?

 ここではしないからな。

 宿に帰って、ティナが寝た後だ。

 にゃんわん泣いてもダメなもんはダメ。

 今はお兄ちゃんなんだからな。

 その思いを目にこめ、テトモコを見ていると、どうやらあきらめたみたいでティナの周りをうろうろしだす。

 

「テトちゃんも?モコちゃんも?」

「にゃー」

「わん」

「ちゅー」


 この部屋の中が甘い空気で満たされていく。

 天使の楽園。やはりこのパーティー名は俺たちにふさわしいものだ。

 名は体を表すというが俺たちにピッタリな言葉だ。

 見てくれよ。天使が幸せそうに黒と白のもふもふに埋もれているんだ。

 これを見て、癒されないものはいないだろう。

 ほら、フィリアから鼻血が流れているだろう。

 ん?鼻血?


「おい、フィリア大丈夫か?」

「あ、あれ?鼻から血が勝手に」


 鼻血はそういうもんだろ。

 出そうとして出すもんじゃないしな。

 極度の可愛いの摂取で脳に損傷を受けたか?

 ポーションや回復魔法でも脳の損傷は治りにくいと聞いたが。


 そんなくだらないことを考えているとサナさんから声がかかる。


「フィリアお嬢様、もう何回目ですか。チロちゃんには慣れたと思ったのに、ティナちゃんたちではダメダメではないですか」

「サナ、あれは卑怯よ。物語の冒頭でドラゴンが出てくるみたいなものよ」

「もう、言葉だけは達者なのですから。それに三週間ほど一緒にいたではありませんか」

「毒、魔法などの耐性もそうだけど、一日やそこらで耐性をつけることができるものではないのよ」

「はいはい。わかりましたよ。天使の楽園様は可愛いがあふれ出ていますもんね」

「わかればよろしい」


 どうやら、チロと屋敷に帰ってから鼻血を何度も出しているのだろう。

 こいつは本当に重症だ。

 いつかうちの子に殺されないか心配になる。

 そして、貴族令嬢として、弁がたつのがめんどくさいことこの上ない。


「それでなにしに来たの?」

「あのね。ティナたちもいっしょにいくの」

「帝都に?」

「うんっ」

「それは楽しくなるわね。チロも喜ぶわ」

 

 うちの子たちとチロはソファーの上でお話をしている。

 

「ソラ達は何しに行くんだっけ?」

「帝都観光と、ティナの回復魔法の先生に会いに行くのと……宣伝」

「ん?先生?宣伝?」

「先生はルイに紹介してもらえるんだ。宣伝はそこにかけられているテトモコシロパーカーだ」

「あー、大通りでやっていたやつね。ソラのパーカー姿見たかったわ」

「見ないでいい」


 フィリアには絶対見せないと誓う。

 何を言われるかわかったもんじゃない。


「先生はどういう人なの?」

「クロエ・ナイトレイという人で宮廷魔法士の三席だって」

「あなた……その人帝国でトップレベルの回復魔法士よ?知っているの?」

「うん。そう聞いたよ。詳しくは知らないけど、めんどくさい人みたい」

「杖術使いの回復魔法士。数々の魔物をその杖で屠ってきた逸話を聞いたことがあるわ」

「人にも攻撃してくるって言ってたな」

「そうなの?人間には優しいお姉さんって聞いてるけど。『人間には』という部分が強調されてね」


 ルイの情報によると攻撃されたみたいだけど。やはり会ってみないとわからないか。


「なるほど。先生になってもらうかどうか会って考えてみるよ」

「そうしなさい。最高峰の人であることは変わりないけどね」

「うん」

「私は四日後に出発するつもりよ」

「じゃー、それまでに準備するよ」


 俺たちはそのまま、屋敷を後にする。   

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