第36話 君に決めた


 俺たちは毎日、朝と夕方に従魔屋へと通い続けた。

 今日で六日目だ。


 朝に一時間、昼に二時間。

 従魔屋で限界まで時間を使いフィリアの従魔探しをした。


 だいたい、一週間以上かかると言われているが、従魔探しも大変だな。

 確かに考えてみると当たり前なのかもしれない。

 人間だって、仲良くなるのにそれ以上の時間がかかる。

 一日で友達を作れる。それは幻想だ。

 新しく友達になったトークグループはいつか人数が減り、最後には気が合う友達だけになるのだ。

 あとは友達という知り合いの出来上がりだ。


 従魔になると魔物は言葉がわからない人についていかなければならない。

 魔物に人間ほどの知能があるかはわからないが、難しいものなのだろう。

 

 従魔屋には俺たち以外にも、結構な数の人が訪れ、従魔を探していた。

 中には、一緒に時間を過ごすだけの人もいたが、多くは従魔購入希望者だった。


「もう六日たったが、フィリアの中でめどはついているのか?」

「うんっ。あのイタンチがいいかな」

「ティナもいいとおもうー」

「きゅいー」


 ティナとシロもフィリアの案を肯定する。

 フィリアがイタンチと呼んでいる魔物は俺がイタチと呼んでいる魔物だ。

 見た目は茶色の毛で覆われており、少しだけ顔の部分が黒い毛になっている。

 通い始めて三日だっただろうか。

 その時から、フィリアが来ると、草原の入り口にやって来るようになっていた。

 もちろん、フィリアは大歓喜である。


 その子はうちの従魔たちとも仲が良く、きゅうきゅうとシロに似た声をだしてお話ししている。


 従魔屋のお兄さんの説明では、雑食らしく、好みは木の実らしい。

 人間の食べ物も食べるが、薄味の物を好むとか。


 フィリアはその時には決めていたのか、思いつく限りの質問をしていた。

 寝るところはどんな場所か。

 どのようにお世話するのか。

 一人の時間も寂しくないのか。

 人間に警戒心はないのか。

 ほんと、お兄さんが困るぐらい質問していたよ。



 お兄さんは狂気じみたフィリアに少し戸惑っていたが、優しく教えてあげていた。


「フィリアおねえちゃん、お名前はどうするの?」

「そうねー、まだ決めてないわ。わたしの愛くるしい従魔だもの、そんな簡単には決められないわ」

「?」


 熱くなっているみたいだが、ティナが困っているからやめてくれ。

 メイドのサナさんも少しは落ち着かせてほしい。

 笑っているだけだと、あなたの大切なお嬢様がヒートアップしちゃうでしょ。

 それに、まだイタンチに了承を得てないからね。


 従魔屋に金を払い、草原へと足を向ける。

 草原を少し歩くと、匂いをかきつけたのか、うわさのイタンチが現れた。

 いつものように、うちの子たちに挨拶をし、ティナに体を寄せる。

 その次にフィリアのところに行き、肩に乗って顔にスリスリ。


 うちの子が一番なのはしかたがないとあきらめているのか、フィリアに動揺は見えない。

 そのまま、イタンチとじゃれはじめる。

 

 宿でテトモコシロに聞いた話だと、イタンチはフィリアについて行ってもいいと言っているらしい。

 フィリアはいい匂いがするし、触り方が気持ちいいとのこと。

 でも、まだこれはフィリアには伝えていない。

 興奮するだろうけど、なんか俺が嫌だったからな。

 ちゃんと自分の言葉で伝えて、従魔にする方がお互いにいいだろう。

 フィリアは今日言うつもりらしいが、出来レースだ。


「イタンチちゃん、聞いて?」


 フィリアの声が聞こえる。すこし緊張が声に現れているようだ。


「きゅい?」

「……わたしについてこない?」


 意を決して、思いを言葉にするフィリア。


 俺たちと従魔屋のお兄さんは固唾をのんで見守っている。

 

「きゅいーー、きゅうきゅう」


 イタンチは勢いよく、フィリアへと飛び込み、体を寄せる。


「いいの?ほんとに?」


 興奮して、すこし、目に涙をためて答えるフィリア。


「きゅうきゅう」


 イタンチはいいよーんと聞こえてきそうな鳴き声でうれしさを体全体で表している。

 

「おめでとうございます。従魔の承認をいたしましょう」

「ありがとう」


 イタンチを抱っこしたままフィリアは答える。


「おめでとう」

「おめでとっ」

「にゃー」

「わふ」

「きゅい」


 俺たち全員で祝福の言葉を贈る。

 幸せの瞬間だ。

 フィリアなら、イタンチを悲しませることは絶対にしないだろう。

 まだ、短い間しか一緒にいないが、それだけは信用できる。

 もふもふのためならなんでもする女だ。

 同族嫌悪は少しあるが、もふもふ愛好家として認めてやる。

 幸せな家庭を築いてくれ。

  

「冒険者カードはお持ちですか?」

「持っているわ」


 そういって。カードを手渡す。

 従魔は冒険者カードに記入されるので、持っていないと作らないといけないみたいだ。

 フィリアは住民カードを持っており、街へ入る時に使っていた。

 ただ、それだけではだめなので、ヘンネルの冒険者ギルドでカードをあらかじめ発行してあった。

 住民カードに記入すればいいだろうと思っていたのだが、魔物関連のことはすべて冒険者ギルドもちになるらしい。

 一括して情報をまとめるようだ。

 

 唯一、従魔屋で優遇されていることは、従魔試験なしに従魔の証が刻まれることだ。

 従魔屋で生活している魔物は基本的に人間を攻撃しないことを証明されているし。

 主人の命令を聞かない子が懐くわけがないので、従魔屋で従魔にできることが試験みたいなものらしい。


「従魔の証を記載しましたので、これであなたの従魔となりました」

「ありがとう」

「きゅい」


 一人と一匹は嬉しそうに抱き合い、カードを受け取る。


 

 よかったよかった。

 出来レースで結果がわかっていたが、実際目にすると嬉しいものだな。


 俺たちは、ホクホク顔のフィリアの後を追い、従魔屋を後にする。


「これからどうする?一応最大の目的は達成したが」

「この子も従魔にできたし、すぐにスレイロンに帰るわよ。戻ったら学校に行かなくちゃいけないしね」

「了解、俺たちも帝都に向かおうかな」

「あら、そうなの?」

「旅行?旅行?」


 ティナが帝都と聞き、反応してくる。


「そうだね、ちょっと調べたいこともあるし、帝都も見たかったからね」

「やったぁー」

「それなら一緒に行く?」

「んー、それはどうしようかな」

「決めたらまた教えて。一緒に行ければ楽しい移動になるわ」

「わかった」    

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