第24話 死神と呼ばれた少年
翌朝、俺たちは、ドアのノックの音で目を覚ます。
「すみません。ルイさんがお見えですが、どうされますか?」
「ルイ?」
「知り合いらしいので、名前を言えばわかるって言ってまして」
「わかりました。部屋で話してもいいですか?まだうちの子が起きてないんで」
「わかりました。上がってもらいますね」
そういって、宿の人は扉を閉める。
「よお、ソラ」
「……おはようルイ」
いつもの恰好ではなく、ラフな姿で現れたルイに少し戸惑う。
「あー、嬢ちゃんはまだ寝てたのか。悪かったな」
「大丈夫だよ。もうすぐ起きると思うけど、てか何の用事?」
「あー、昨日お前何したんだ?」
「何って、決闘と商業ギルドに登録」
「いや、決闘の内容だ。昨日、騎士の宿舎に帰ったら、同僚にソラのことを聞かれたんだよ」
「普通に戦っただけだけど。何聞かれたの?」
「どんな子なのかとか、戦い方とか。色々だ。騎士のやつらはお前らが詰所に遊びにくるほど俺を慕っていると思っているらしくてな。俺に聞けばわかると思ったらしくて聞いてきたんだ。だが、俺はほとんど知らんからな。対応に困ったぞ」
「んー、どんまい。なんで同僚の人は聞いてきたの?」
「それが、冒険者の間で、お前が風の申し子や死神なんて呼ばれてるらしくてな」
「……」
だれだ。そんな恥ずかしい呼び方をしているやつは。
恥ずか死させる気か。
しかも風魔法って風玉飛ばしたのと、纏ったぐらいで、あとは移動補助だけだぞ。
広範囲殲滅魔法は使ってないし、威力もめちゃくちゃ抑えたつもりだ。
なぜか隣で、テトモコはすごーいと尊敬のまなざしを向けている。
はいはい。可愛いと。ちょっと待っててね。
俺はルイとお話しないといけないんだ。
「高ランクの冒険者は死神推しらしく、二つ名は死神になりそうだ」
「……理由を聞いてもいいか?」
「オレも詳しく知らないからここに来たんだがな。聞いた話だと、声をも出させぬスピードで相手に襲い掛かり、大鎌をあてる。大鎌で四肢を切り裂き切断する。降参をしないことを喜び、戦意喪失した相手に喜々として死の絶望を味わわせる。かな」
んー、客観的にも主観的にも間違ってはいないな。
「間違ったことは言ってないかな」
「……本当にそんなことしたのか?相手はエルドレート公爵家のやつと聞いたが」
「ああ。バカ金髪はうちの子たちを殺すと言いやがったからな。殺してないだけマシだと思ってほしい」
「お前は……ほんとにバカだな。もっと波風立てず生活できないのか?」
「うちの子たちのためにバカにならなきゃ、いつなるんだ。俺だって何もしてこない相手には手を出してないだろ。波風立てているんじゃなく、波風が寄ってくるんだ」
「まあ、やりすぎたってことはわかったよ。でも、お前に対する評価は悪いものばかりではなかったぞ?家族を守る優しいお兄ちゃんって女性冒険者の中では大好評だぞ」
「それならよかったよ。ギルマスのおじいさんも周りの冒険者に言ってくれたから、バカ以外俺たちに絡んでこないだろ」
「そうあって欲しいよ。もう冒険者が行方不明になってほしくはないからな」
「冒険者なんて、気づいたらどっかで死んでるもんだろ?」
「お前が消した冒険者の話だよ」
こいつ。スレイロンに来た初日の二人のことを言っているのか?
どこまで知っている。
何を見た。
影魔法を知られてしまったのか?
テトモコも雰囲気が変わり、警戒を見せている。
「やめてくれ。オレはお前たちが何をしたのか見ていないし、知りもしない。ただ、お前がギルドから無事に出てきたところを確認しようとしたら、変な二人組が後をつけているのを目にしてな。大通りまであとを追ったが、小道に入ってからは見ていない。そのあとその冒険者を見たやつがいないってだけだ」
「テトモコ」
「にゃにゃなー」
「わふ」
「小道に入ってからの視線はなかったか、ルイどうするんだ?俺を捕まえるのか?」
「だから、オレは何も知らないって。状況証拠でお前が消したって判断しただけだ。なにもするつもりはない。しかもその二人は新人冒険者に恐喝や強奪まがいなことをしていたやつらだったからな。いなくなっても誰も困らん。新人にしてみれば幸運な出来事だろうよ」
「そうか。それはいいことをしたな」
「否定はしないんだな」
「まあな、ルイがそのことを報告し、俺たちを捕まえるってんならルイを消さなければいけなかったがな。それに、短い間だけど、ルイはそんなことをするような奴には見えなかった」
「オレは仕事をちゃんとこなすぞ?」
「この街を守ることだろ?エドさんに聞いたよ。だからこそ、罪に問われないような小悪党を消してくれた俺たちを捕まえるはずがない」
「まあ、そうなんだが。善良な市民や冒険者には手をだすなよ」
「当たり前だ。なにもしてこないなら手を出すつもりなんてさらさらない」
「お前は一つのことさえ目をつぶれば、優秀な人間なんだがな」
「なんだそれ」
「お前が嬢ちゃんと従魔たちを溺愛しすぎてるってことだよ。頼むから国と敵対だけはしないでくれ」
「そんなことか。うちの子を見てくれ。可愛いだろ?可愛いってだけじゃ足りないくらいに愛おしいよ。敵対の件は、国がなにもしてこなかったらね」
テトモコは俺に寄り添い、甘えてくる。
もふもふさらさらだ。
ここが気持ちいいのか?よーしよしよし、次はここかな?
一段と甘えてくるテトモコに、一層の愛情をそそぐ。
「はたから見たら、幼い少年が愛くるしい従魔と戯れているほほえましい状況なんだがな……」
「それであってるだろっ」
「どっちも化け物だから、なにがあろうとオレにはそう見えん」
ルイなんて無視だ。
うちの子を化け物なんて呼ぶんじゃないよ。
こんなに甘え上手の化け物なんてこの世にいてたまるか。
俺にとってはテトモコシロも天使なんだぞ。
「ソラ、おはよ……」」
眠たい目をこすりながら、ティナが目を覚ます。
「おはよう。ティナ」
「あっ、ルイさんだ。おはよっ」
「嬢ちゃんおはよ。朝早くきて悪いな」
「あーーーーー、ティナを起こさないで、二人でお話してたんでしょ。ずるいずるい。ソラ、起こしてよ」
ポカポカと俺に小さな拳でうったえかけてくる。
あー、今日もうちの子が天使すぎる件について誰かと語り合いたい。
ネットのチャンネルに書き込んで、うちの子親衛隊と共有したい。
シロも起きてきたのか、ティナのマネをして、俺に飛び込んでくる。
もふもふの贈り物だ。
「ティナは寝てたからさ。起こしちゃ悪いだろ?」
「んーー、それでもするいよ。ティナもお話したいことがあったのに」
「何を話したかったんだ?」
「……ないしょだよ」
「オレに嬢ちゃんから話があるのか?」
「うんっ、あのね……あっちいこ」
ティナがルイの手を握り、部屋の外へと出ていってしまった。
テトモコシロもその後を追う。
「どうゆう状況だ?」
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