第23話 副業は禁止ですか?


 ギルドを出た俺とテトはティナたちがいる孤児院へと歩みを進める。

 教会の入り口につくと、子供たちの元気な騒ぎ声がきこえてくる。

 何もなかったみたいだな。

 孤児院の門をくぐりティナを探す。

 見つけてみると、どうやら木の影に隠れているようだ。


「ティナただいま」

「ソラっ。おかえり。あ、ダメだよ。今ティナ隠れてるの」

「ティナちゃん見っけ」


 ティナと同じくらいの女の子から声がかかる。


「もう、ソラがくるからみつかっちゃったじゃん」


 ティナは俺に抱き着き、文句をいう。

 モコシロも俺に近づき、体を寄せる。

 天国か。


「モコシロもありがとな。助かったよ」

「わふ」

「きゅー」

「ソラ。やっぱりなんもなかったぞ。オレいらなかったんじゃないか」

  

 モコシロの後に続き、ルイがやってきた。


「念のためだって。安心できたからティナと離れたんだぞ」

「ソラがいいならいいんだが、今度はあらかじめ言ってほしい。オレだって暇じゃないんだぞ?巡回もあるし」

「ごめんな。できたらそうするよ」

「じゃー、もうオレは仕事に戻るわ」

「ありがとな」

「ルイ、またねっ」


 持つべきものは、強くて優しい友達だな。

 それと融通が利く……

 俺の心の内がばれることはなく、ルイは仕事に戻っていった。


「ティナは楽しかったか?」

「うんっ、絵をかいたり、かくれんぼしたりしたの」

「絵を描いたのか?みせてよ」

「これっ」


 ティナに渡された紙には、俺とテトモコシロ、ティナが描かれており、背景にログハウスが描かれている。

 子供らしい可愛いらしいタッチがティナの優しさを表しているようだ。


「みんなと家の絵だよ。うまくかけたの」


 えっへんと胸をはるティナ。


 うちの子が天使すぎる。

 天才じゃないのか。この絵は売れるぞ。

 いや、絶対に売らないが。

 とりあえず、額縁を買おう。

 絶対に風化させてはならない。これは緊急クエストだ。

 そして、今現在、白い手袋をもっていない俺が憎い。

 

「にゃー」

「そうだな、戻ってごはんでも食べようか」


 バカなことを考えているのがばれたのか、テトからご飯の催促がくる。

 孤児院をでて、宿の横にある食事処へと向かうとしよう。

 大通りを歩き、食事処を目指す。


「ソラ、ちょっといい?」


 大通りにでて、歩いていると、ベクトル商店の前で声をかけられた

 声のする方を見ると、ミランダさんが手を振っていた。


「どうしたの?糸ならあまりないんだけど」

「糸のことじゃないわ。ワコツ商会でローブを注文しているでしょ?」

「うん。ティナのやつね」

「作っている職人が知り合いだから、試作品見せてもらったんだけど、あれ、うちで商品化してもいいかな?」

「別にいいけど、ベクトル商会は防具とかも売っているのか?」

「いや、私のところでは、私服に耳フードとしっぽをつけようと思うの。絶対売れるわ。貴族向けとしてもいけるかもしれない」

「まぁ、可愛いだろうな」

「でしょ?最初はテトモコシロちゃんタイプを作ろうと思うんだけどどうかな?」

「にゃっ」

「わんっ」

「きゅっ」

「うちの子たちは大賛成のようです」


 テトモコシロは俺に集まり、お願いっと懇願している。

 

「では、商業ギルドにいきましょうか」

「え、なんで俺たちも?」

「アイデア料をちゃんと決めないといけないでしょ?」

「アイデア料?なんだそれ」

「商品をつくって売る場合、その商品を発明した人と、売る人が違うことがほとんどなの。そのため、開発をした人にお金が入るシステムができたの。それがアイデア料ね。魔道具や料理のレシピなどでよく利用されるわ」


 特許みたいものか。

 確かに、そんなものがないと、この世界でこれだけ魔道具が普及していないか。

 開発しても、売る手段がなければ無駄になるか、技術が盗まれて勝手に売られる。

 そんな無法地帯であれば、新しい技術は生まれないだろう。


「じゃー、ついていくよ。ちょっと屋台でなにかつまんでいい?みんなお腹すいてるんだ」

「いいわよ」


 ミランダさんの後をついて歩く。

 屋台通りがみえたので、適当に買って、公園で食べる。

 またあとでおやつでも買うつもりだ。


「ここが商業ギルドよ。中に入りましょう」


 商業ギルドは冒険者ギルドとはまったく違い、役所的な雰囲気をかもしだしている。

 こちらの受付も三つほどあるが、その前で順番待ちしている人はみられない。


「この木札を持って、椅子に座っていれば、番号順に呼んでくれるわ」


 おお、日本でよくみられるシステムだな。

 

 待ち時間の間に、ミランダさんが作ろうとしている服のイメージを話してくれた。

 テトモコは両方黒色の毛をしているので、ワンポイントで瞳の色をいれ、差別化するとのこと。

 もちろん耳や、しっぽなどで違いは出せるのだが、印象的な瞳のカラーを取り入れたいとのことだ。 

 シロのものにも茶色でワンポイントをいれるつもりらしい。


 そこから、オプションで、デフォルメしたテトモコシロの刺繍を入れるかどうか選べるようにする予定だ。


「ティナもほしい」

「もちろん、ティナちゃんには一番にあげますよ」

「やったあー、ミランダさんありがと。テトちゃんにも、モコちゃんにもなれる」


 うちの子たちも上機嫌である。

 ローブだけではもともとシロ色が強いからな。

 テトモコはミランダにも愛想を振りまいている。


「呼ばれたわよ」

 

 俺たちはぞろぞろと受付に向かう。


「はい、商業ギルドカードよ。今日はこの子ソラのアイデア登録をお願いしに来たの」

「ミランダ・ベクトル様ですね。ソラ様は商業ギルドへ登録はされておりますか?」

「していない」

「身分証明書はおもちでしょうか」

「ほい」


 俺らは冒険者ギルドカードを提出する。


「ありがとうございます。ソラ・カゲヤマ様ですね。十歳でBランクですか……少々お待ちください」

 

 受付の女性はそういうと裏に入る。


「ソラってBランクだったの?つい最近登録したって聞いた気がするんだけど……」

「うん。今日いろいろあってBランクに昇格したんだ」

「見た目だけじゃなくて、本当にすごい子だったんだね」

「見た目は普通の少年だろ」

「いやいや、ティナちゃんたちと一緒にいると可愛いがあふれかえってるよ」

「それはうちの子が可愛すぎるだけ。ほんと天使だよね」

「素直じゃないんだから。ソラを含めみんなかわいいわよ」

「もういいよ。てか、受付の人遅くない?」

「確かにおそいわね」


 なにをしてるんだろ。

 まだ、冒険者カードみせただけなんだけどな。

 まだこなさそうなので、うちの子たちとお話ししておく。


「すみません。お待たせしました。確認が取れましたので、こちらで商業ギルドのカードを作らせていただきます」


 女性は息を切らして、受付に戻ってきた。 

 確認が取れたって、もしかして冒険者ギルドまでいったのかな?

 十歳でBランクってそんなに信じれないものなんだな


「ギルド登録代金とアイデア登録代金は私が払うから、口座から引いておいて」

「わかりました。アイデア書はお持ちですか?」

「あるわ、すでに記入済みよ。それを検討しておいて」

「わかりました。ソラ様こちらが商業ギルドカードでございます」

「はいよ」

「ミランダ様とソラ様はどのような契約をされますか?」

「売り上げの一割でいいかな?一応他には、アイデアを一括で売り、それ以降なにも関与しないやつもあるけど」

「それでいいよ。一割ももらっていいのか?」

「いいわ。投資よ。また何か思いついたら契約してね」

「了解」


 受付の女性の反応も変わりないし、騙されているってことはないだろう。

 しかも、服の売り上げ一割って結構もらう感じじゃないか?

 三千円の服で三百円でしょ?売れた枚数だけ儲かるし副業としてはよすぎる。

 しかも、ベクトル商会って、この国で屈指の大商会っておばあちゃん言ってた気がするし。

 ありがたやー。


「そういえば、お金ってどうゆう感じでもらえばいい?」

「商業ギルドに登録すると口座ができますので、そちらに振り込まれます。商業ギルドであればどこでも引き落とせますので、安心してお使いください」

「わかった、ティナの商業ギルドカードも作ってほしい」

「申し訳ありません。商業ギルドでは十歳以上でしか登録を受け付けておりません」

「八歳ぐらいで働いている子をみたことがあるが、どうしてるんだ?」

「店によってちがいますが、手渡しや親の口座に振り込むことが多いですね」

「なるほど。俺の口座からティナが金を下ろすことは可能か?」

「申請をしていただければ、家族口座として開設し、ご家族に入られている方であればおろせるようになります」

「じゃー、申請してくれ。ティナ冒険者カードだして」

「はいっ」


 受付の女性が、カードを受け取り処理をする。

 万が一俺に何かあった時でも、ティナにお金だけは残してやりたい。

 まぁ、そんなことがないように、あがくけどな


「以上になりますが他になにかありますか?」

「ないわ」

「ないよ」


 そして俺たちは商業ギルドを出る。


「絶対もうけさせてあげるからね、見てなさい」

「お、おう。がんばって」

「がんばってっ」

「わふ」


 ミランダさんと別れ、宿へと向かう、

 今日はイベントの多い日だった。

 体的には問題ないが、気疲れしてしまった。

 もう今日はなにもせん。


 金髪バカのせいで少し心がやさぐれたからな。

 テトモコシロのもふもふパワーを充電しなければいけない。

 これは俺にって最重要事項である。


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