第8話 ティナの能力


「これなに?」

「それは「わぁ、きんぴかの糸だあー」」

「えーっと、あのティ「この緑色の石、宝石みたいだよ」ナ話をき……」

「すごいすごい、これなに?」


 ティナの質問攻めである。


 俺たちが日々魔物を狩っていると聞いたティナは、魔物をみてみたいと言い出した。

 見たいと言われても、いきなりは危ない。

 ということで、影収納にある魔物の死骸を見せているのだが、このありさまだ。


「ティナ、ちょっと落ち着いて」

「うー、ごめんなさい」

「金色の糸はデカいクモの魔物が吐いてきた糸だよ。クモってわかるかな?」

「足がうじゃうじゃのやつ?」

「何をイメージしているのかわからんが、たぶんそう。残念ながらクモの死骸はないんだ。俺が苦手でな。」

 

「んー、みたかった」

「死の森から出るときに見れると思うぞ」


 初め、ティナは物静かでおとなしい子というイメージだったが、どうやら違うらしい。

 好奇心旺盛で、気になることがあったらすぐ聞くようになった。

 家にいるときは、一人の時間が多かったから本を読んでいて、実物を想像して一日をすごしていたとか。


「ねえねえ」

「ん?どうした?」

「ティナね。あのね……ケーキ?食べたいの」

「ケーキか。いいぞ。素人の俺がつくるだけだから期待しないでね」

「テトちゃんとモコちゃんが教えてくれたの。誕生日にいつもソラが作ってくれるって」

「そうかそうか。今日の夜に準備するよ」


 

 ん?

 テトモコが教えてくれた?


「えーと、ティナ、テトモコが教えてくれたの?」

「うんっ。夜、寝る前にいっぱいおしゃべりするの」


 ティナは眠くなるのが早いから、いつもテトモコにお守をさせていた。

 おしゃべりをする?

 俺でさえ、その時の雰囲気や、テトモコのジェスチャーでなんとなく、言いたいことがわかる程度だぞ?


「テトモコ集合」

「にゃー」

「わふー」


 了解っと元気に鳴き、俺の前でお座りするテトモコ。


「いつも、ティナとおしゃべりしていると」

「にゃー」

「OK、ジャスチャーをつかってお話?」

「わふふふ」


 違うと、まあ、これは念のために聞いただけだ。


「ティナ」

「うん。なに?」

「ティナはテトモコが言っていることがわかるの?」

「ん?わかるよ。ソラもおしゃべりしてるよね?」

「それはそうなんだけど、ティナはテトモコの言葉がわかるの?」

「わかるよ?……。なになに?おなじことだよ?」

「ごめん、わかりずらかったな。俺やドーラと話しているときとテトモコと話しているときは同じ?」

「……同じだよ?どうしたのソラ?」


 同じだと?

 ティナは不思議そうに首をかしげているが、首をかしげたいのは俺の方だ。

 ティナの言い分が正しければ、テトモコのにゃんわん言っている鳴き声が、言葉として聞こえているということになる。

 ありえるのか?


「ほぉー、ティナは魔物語がわかるのか。珍しいの」

 

 思考にふけっていると横からドーラの声が聞こえた。


「みんなわからないの?……ドーラとソラよく話ししてるよ?」

「それはわしが人語をはなしているからだ」

「……テトモコはちがう?」

「そうじゃ、テトモコは魔物語じゃの」

「ティナへん?」

「変じゃないぞ。昔に魔物語がわかるエルフや魔族に会ったことがある。人間では初めてじゃがのー」


 ティナはそわそわしながら、考えごとをしている。


「まあ、魔物語がわかるってことはテトモコと楽しくおしゃべりできるからいいんじゃないか?深く考えなくていいよ」

「うんっ」


 ティナは機嫌をよくしたのか、テトモコを引き連れ、魔物の死骸がおいてあるところ向かった。


「ドーラ。魔物語っていうのは、俺が狩っている魔物も使っているのか?」

「知能ある魔物はつかっておるの、どの種族でも使えるやつは使える。死の森の中心付近におる魔物は使っておるのがおったぞ」

「それは困ったな」


 俺はこれから冒険者となり、世界を回っていこうとしている。

 その中で多くの魔物と戦っていくだろう。

 命のやり取りをする相手の言葉がわかるのはティナにとってつらくないのか?


「何を考えているかはしらんが。どうせ、魔物との戦闘でティナが悲しむとか思っておるのじゃろ?」

「そうだよ、心配になるだろ」

「知能ある魔物は多くはない。群れで数匹程度だの。あとは鳴き声だけの動物とそんな変わらんわ。それに知能ある魔物は人里にあまり近寄らん。」

「なるほど」

「それにそんな心配するなら、ダンジョンにでもいけばよい。あそこの魔物は知能どころか意思がない。神の恵であるからの」

「この世界にはダンジョンが存在するのか。それが神の恵みか……俺の知っている限り、ダンジョンは魔物を生み出し、人間を糧に成長するものなんだがな」

「それはあっておるの。神からしたら尽きない資源を人間に与えているだけの感覚だろうがの、我らドラゴンにはそう告げられた。だから我らのように神の使命がある者はダンジョンを壊そうとせん」

「ダンジョンって壊せるものなのか?ダンジョンコアがあるみたいな?」

「よく知っておるではないか、コアを壊せばダンジョンは壊れる。壊れたダンジョンは復活はせぬ。バカな人間が壊したことがあったが、新しいダンジョンが見つかることもあるのでの、神が管理しておるのであろう」

「優しい神様なんだな」


 ダンジョン専門の冒険者でなんとか生活できそうだな。

 あちこち旅しながら、観光し、金に困ったらダンジョンへ行く。

 こんな生活で十分だな。

 旅する中で、ティナに知識を教えていき、将来のことを考えていってもらうか。

 今後の俺の方針も決まった。


「ソラー、これね、テトちゃんとモコちゃんがくれるって、いい?」

「いいぞ。何につかうんだ?」


 ティナが魔物の毛皮や、爪、牙、羽などをもってきた。


「使わないよ?」

「使わないのか?」

「うんっ、たからものー」


 あー、天使。


 俺の元々ない語彙力がさらになくなっていく。


「その毛玉は、テトモコのやつか?」

「そうなのっ、いいでしょうー。前に言ったら集めててくれたの」


 胸を張り、どや顔でティナは言う。


 カメラ……

 いや、もうあきらめたんだ。

 この目に焼き付けるしかない。

 子供の成長は早いのだ。今やらなくていつやる、今でしょう。


「……ソラ、怒った?」


 目を開いてがん見していた俺が怖かったのか、恐る恐る聞くティナ。


「怒ってないよ。よかったな。テトモコにはお礼をいったか?」

「うんっ」


 撫でながら、伝えると、途端に機嫌がよくなる。


「にゃー」

「わふ」

「お前たちもだな」


 テトモコにもねだられたので、撫でる。

 もう撫でまくる。

 もふもふと天使に囲まれるとか幸せか。

 異世界転移ありがとうございます。

 教会があるかどうか知らんが、あったらいきます。


 俺はそんなことを思いながら、ケーキと晩御飯を作りにキッチンに向かうのであった。


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