銀河系最大のスポーツの祭典「ハイパーボール2049」開幕!

SKeLeton

第1話 ハイパーボウル2049開幕!

「さあ、今年もこのときがやってまいりました。GFLギャラクシーフットボールリーグのチャンピオンを決める『ハイパーボウル2049』がここムーンベースの静かの海スタジアムで開催されます。


 このスタジアムは、みなさんもお馴染み、20世紀に人間がはじめて月に降り立った際に使用されたアポロ月着陸船を模したモニュメントの近くにあります。


 そして、解説にはローンスターズの元エースQBクォーターバック、強肩ダン・エイクマンさんにおしいただいています。


 エイクマンさん、よろしくお願いいたします」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


「さて、『ハイパーボウル』は太陽系としてもビッグイベント。


 1年に1回のお祭りフェスティバルともいうべきゲームですので、もしかしたらいつもはGFLをご覧になっていない方もいらっしゃるかもしれません。


 どうして、ギャラフトが“宇宙一過激で宇宙一安全なスポーツ”といわれているのか、というところを……実際にプレイされていたエイクマンさんにうかがってみたいと思います。


 エイクマンさんいかがでしょうか?」


「そうですね。まずギャラフトは、20世紀のアメリカンフットボールがルーツのスポーツです。


 そのアメフトのなかでも、米国のNFLナショナルフットボールリーグが最高峰で、プレイの質も選手の契約金ギャランティも非常に高いものがありました」


「なるほど、NFLは大変人気があったんですよね?」


「そうです。プレイするスポーツとしても、観戦するスポーツとしても人気がありましたし、NFLでプロフェッショナルとしてプレイする選手だけでなく、大学カレッジでの競技人口もあり、プレイヤーをこころざす人も多かったんです」


「それだけ人気だったアメフトがいまは影もなく、いわばそのスピリッツが受けがれたギャラフトだけになったのはなぜなんでしょうか?」


「アメフトはバスケットボールやサッカー、ベースボールに比べてコンタクトが前提の当たりの激しいスポーツですので、当時はほかのスポーツに比べて選手生命が短かったり、怪我けが……身体からだに問題がなくても脳に障害を受けて……ということも多かったとききますが……そういったことが問題としてあったので、はなやかな世界に見えて選手たちにとっては過酷かこくな面もあったんですね。


 それに対して、現在のGFL、ギャラフトの場合は実際のフィールドに立つのはプレイヤーの分身であるロボットなんですね。


 だから、いくら激しい当たりをしても人間、プレイヤーの身体や脳にダメージがある……ということにはならないんです」


「それが“宇宙一過激”と“宇宙一安全”という矛盾むじゅんが両立する理由なんですね。


 ただ、そうなると、みなさんいちどはプレイしたことがあると思うのですが……VReスポーツゲームとどう違うのか、と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません」


「未経験の方がよく勘違いされていることがあるんですが……ギャラフトはプレイヤーが操るロボットが実際のフィールドで闘って、VReスポーツはプレイヤーが操るキャラクターが電子的な仮想空間で闘う、というところが、いちばんの違いではないんです」


「ほう、そうなると見た目ではわからないところに根本的な違いがあると?」


「そうです。例えば、バスケットボールのVReスポーツゲームがあります。仮想空間でプレイヤーが操るキャラクターは、プロの選手顔負けで正確にドリブルし、ダンクシュートを決めることができます。


 このとき、仮想空間のキャラクターはプレイヤーの持たない能力でプレイヤー以上のパフォーマンスを発揮していることになります。


 でも、ギャラフトのシステムはプレイヤーの能力を正確にシミュレートして、ロボットを動かすようになっているんです。


 ですから、VReスポーツのように指さばきだけではギャラフトでパフォーマンスを上げることはできません。通常のスポーツと同じで、トレーニングによって肉体を鍛える必要があるんです。


 誤解しないでいただきたいのは、私はどちらが上とか下ということをいっているのではなく、別のものだということなんですね。


 VReスポーツには体力的にスポーツが難しい方も含めて、誰でも楽しめるというよさがあると思っていますし、私も実際に息子と楽しむことがあります」


「それを実現しているギャラフトのシステムには……実は私も見学したことがあるのですが……最先端の技術が使われていますよね?」


「ヒューマノイドタイプロボットの遠隔操縦に関しては、軍用のものがかなり長い間、研究されていたんです。


 ギャラフトに使われているシステムは、軍向けに研究されていたシステムをベースにプレイヤーの能力を超えないためのリミッター機能を加えたもので、いまでも日々改良が加えられています。


 ヒューマノイドタイプロボットの遠隔操縦は、軍用だけではなくて、医療の分野、建築の分野など応用範囲が非常に広いので関係メーカーも研究費を惜しみません。


 そんなメーカーの最先端技術を磨く場所としても、ギャラフトは魅力があるということなんです。


 ちょうど、20世紀のモータースポーツを自動車メーカーやタイヤメーカーがスポンサードし、資金やヒューマンリソースを割いていたのと同じことなんですね」


「ありがとうございます。よくわかりました。


 選手たちが〈ケージ〉と呼んでいる、遠隔操縦リモートコントロールシステムに関しても教えていただけますか?」


「〈ケージ〉というのは、ギャラフトをプレイする際に選手たちが入ってロボットを遠隔操縦するためのコントローラです。


 本当は長くて覚えにくい正式名称があるんですが、選手の間では自虐的じぎゃくてきな俗称〈ケージ〉と呼ぶことが多いですね。


 自虐的じぎゃくてきというのは、このコントローラの形状がおりに見えるので、自分たちを檻の中の猛獣に見立ているからです」


「VReスポーツゲームセンターにも似たようなシステムを導入しているところがありますが、ギャラフトのシステムもそれに近いものなんでしょうか?」


「基本的には同じです。移動を足下あしもとの全方位トレッドミルで検知して、身体からだの動きを装着したスーツとレーザーセンサによって検知、それをフィードバックしてフィールドのロボットに伝えます。


 ただ違うのは、ギャラフトの〈ケージ〉には高度なセンサーとより繊細なフィードバック機能、そして高視野高解像度の立体映像ディスプレイシステムが使われているところです。


 それによって、選手たちは人間のプレイヤーと遜色そんしょくのないパフォーマンスをみなさんに披露ひろうできるんです」


「日々よくなっているということですが、センサ等が改良されているということなんでしょうか?」


「センサもそうですし、ディスプレイもそうですし、それはもうあらゆるものがですね。


 もちろん、〈ケージ〉だけでなくロボットも日々改良されています。


 レギュレーションがあるので、あくまでもレギュレーションに違反しない範囲で、ですが。


 それから、試合でもトレーニングでも〈ケージ〉に入って遠隔操縦していると大量の汗をかきます。


 防具やグラブを使うほかのスポーツでもそうだと思うんですが、ほうっておくと臭いますし、カビてしまいます。


 そうならないように、チームのメカニックが清掃クリーニングしてくれるんですが、メカスタッフはこれがけっこう大変だというんですね。


 精密機器の間に入ってしまったりして、なかなかとれないと」


「ユニフォームのように洗濯するわけにはいかないですよね?」


「さすがに高価なマシンを洗濯はできないですね(笑)。


 それが最近、自動洗浄オートクリーニング機能のついた〈ケージ〉がでてきたそうで、選手たちにもいたところ、クリーンな環境でプレイできると好評で……私が現役の頃はなかったのでうらやましい限りですが……ずいぶんチームスタッフの負担が減ったということです」


「エイクマンさん、プレイヤー視点の解説ありがとうございます。


 さて、それではここで、両チームの攻撃オフェンスかなめ、スターティングQBクォーターバックを紹介しましょう。


 まずは地球圏の名門、BEボールドイーグルスから。


 ドラフトこそ3巡指名での入団でしたが、見事にスターティングQBクォーターバックの座を勝ち取りました。


 今シーズン、名実ともにエースQBクォーターバック名に恥じない活躍でチームを『ハイパーボウル』へみちびいた、ラッセル・ライアンです。


 エイクマンさん、ライアン、今年は絶好調ですね」


「今年というか、今年でしょうね(笑)。


 ライアンは、若手QBクォーターバックのなかでも1、2を争う成長いちじるしい有望株です。


 身長180cmぐらいなんですが……GFLのQBクォーターバックとしてはちょっと低いということで、ドラフト3巡でしたが、身長があと10cm高ければ、間違いなくその年のドラフト1位だったといわれています。


 そのことは昨シーズン、『ハイパーボウル』を制したことで十二分に証明されたんではないでしょうか。


 身長の低さをおぎなってあまりある、敏捷性アジリティが魅力で視野も広い選手です」


「対するは外惑星圏の新興しんこうチーム、STサターンタイタンズのスターティングQBクォーターバックはご存じ、ジョー・ブレイザーです。


 タイタンは土星の衛星ですが……外惑星合同の警備隊タイタン基地に駐屯する航宙部隊フライングタイタンズ所属の特殊宙挺部隊、SASTスペシャルアストロサービスオブタイタン隊員が中核となって発足ほっそくしたチームがSTサターンタイタンズです。


 外惑星圏でも地球から遠い土星ということで、歴史の若いチームですが、今シーズン、『ハイパーボウル』優勝経験もあるベテランQBクォーターバック、ジョー・ブレイザーが移籍したことで大躍進をげました。


 ブレイザー、昨年はいろいろありましたが、ここまでベテランの意地を見せてくれています。


 元QBクォーターバックのエイクマンさんとしては、どう見ますか?」


「ブレイザーは、前々年にロボットの握力を故意に強く設定したという疑惑で、昨シーズンの序盤、調査対象となり、その間、出場停止になりました。


 その間、代理を務めたスターティングQBクォーターバックの調子がよく、プレイスタイルが監督ヘッドコーチの目指すものにマッチしたため、出番がなくなってしまったという経緯があります。


 高い実績によって、報酬ギャランティ高騰こうとうしていたこと、若いとはいえない年齢のため、チームが若返りを狙ったことなども影響があったようですが、とにかく、ブレイザーの調子が落ちたため移籍になったということではないんですね。


 移籍……それも、経緯が経緯ですし、場所も場所、地球圏のチームから土星サターンがホームのチームでしょう。


 もし私だったら、ナーバスになりかねない状況だと思います。


 ただ、そこは強メンタルの大ベテラン……ブレイザー、さすがといったところですね」


「それが今シーズンのSTタイタンズの大躍進にもつながっています。


 MVPプレイヤーだとはいえ、しゅんが過ぎたブレイザーの獲得は博打ばくちだという意見こえもありましたが……」


「ブレイザー本人のQBとしての能力ももちろんMVPにあたいしますが、注目すべきはそのリーダーシップなんですね。


 ブレイザーは、どんな状況でも強力なリーダーシップを発揮してチームメイトを鼓舞こぶし、冷静にゲームを進めることができます。


 それに練習のときからチームをまとめ上げて、周囲の能力ちからを引き出すところも高く評価されているんです。


 ただ、まあ、監督とそりが合わないなんてことになると、その強力なリーダーシップがあだとなって放出なんてことになりもするのですが(笑)」


「今シーズンの成績を見る限り、この移籍に関しては、STタイタンズはお買い得だったといえるかもしれません」


「ええ、タイタンズファンタイタニアも喜んでるんじゃないですか。


 あとは、ライアンを筆頭に若い選手を抜擢ばってきして若返ったことで、老舗チームであるBEイーグルスのほうがチームとしてはフレッシュといえます。


 STタイタンズがQBブレイザーの加入を筆頭に今シーズン、ベテランの移籍によって強化したポジションがあることで、新興チームとは思えない、まるで歴史あるチームのような陣容になっているところが、おもしろいところだと思いますね」


BEイーグルスSTタイタンズ、対象的なところがあるチームということなんですね。


 おっと、ここでコイントスがあって……月面の低重力下でいまゆっくりとコインが落下してゆきます。


 コイントスに勝ったBEイーグルス後攻レシーブを選んで、 『ハイパーボウル2049』ついに開幕します!!」

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