第7話

 トレッキングを終えた帰路で、僕たちは行きと同じように赤い橋の途中で休憩を取った。僕は水を飲みつつ、しおりを確認していた。本当のところは、しおりを確認するふりをして、会話を避けていた。確認することなど何もないのだ。しおりに書いてあることが遠い過去の知らない国の言葉のように思えた。視界の端では彼女のことをしっかり捉えていた。彼女はハンカチで顔から首元にかけて汗をぬぐった。たぶん汗をぬぐうふりをして涙を拭いていた。

 ハンカチを仕舞いながら彼女は言った。

 「それ貸して。あと、たばこも」

 僕は言われるとおりにした。どうして? とも、自分のしおりは? とも尋ねなかった。尋ねるのはひどくいけないことのような気がした。しおりはくすんだ黄みを帯び、くしゃくしゃというよりは、もはやぼろぼろになっていた。

 彼女はおもむろにライターを取り出して、たばこに火をつけてくわえた。彼女が長い一息を吸うのに合わせて、巻物の先がじりじりと音を立てた。

 「たばこは吸わないんじゃ」

 「うそだよ」

 「うそ?」

 「そう」

 「どうして?」

 しまった、間違えた、と僕は思った。彼女はそれには答えなかった。代わりにしおりを目線よりも高く掲げ、たばこの先端をその端にそっと押し当てた。

 彼女はそのままの姿勢で静止していた。僕も何も言わず、身動きもしなかった。まわりの世界がまるごと一時停止のボタンを押されたように感じられた。しおりとたばこが交差するところだけ、赤い輝きがゆっくりと移ろい、細い煙が天に昇り、燃え尽きた炭が地に落ちた。

 僕たちはしばらく歴史的瞬間を目の当たりにするようにそれをじっと見つめていた。樽も、封も、石も、布も、樽の中にあるものたちも、何もかも燃えてしまった。もしかすると石は燃えないで残るかもしれない。でも石だけが残っても何の意味があるというのだろう。家が燃えなくてよかった、と僕はどこかほっとしていた。

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