ドヴォルザーク帝国の船

 俺は、グランツについてみんなに話した。

 彼がドヴォルザーク帝国の者であること。

 元老院議長の息子であること。

 彼の持つ妖刀には、テレジアという元老院の一人が宿っていること。


 などなど説明を済ませた。



「やはり、気配はグランツでしたか」



 ルドミラは、グランツをやや冷やかな眼差しで見つめる。さすがに顔見知りか。



「チッ、ルドミラかよ」

「元老院の息子がなぜラルゴにいるのです」

「悪いのかよ」


「別に。ですが、ここは帝国とは違う。皇帝の座を競う聖戦もなければ、平和そのもの。余生を静かに過ごすのなら良し。ですが、荒事を望むのなら、私は容赦しません」


 微かに闘気を感じる。

 どうやら、ルドミラとグランツは引き合わせてはならない火薬庫らしい。


 ……いかんな。城が吹き飛びかねん。


 ここで俺は手を叩いた。



「紅茶を飲んで落ち着け、ルドミラ」

「ラ、ラスティくん……はい」



 椅子に腰かけ、けれどグランツを警戒するルドミラ。でも、気持ちは分かる。俺もグランツと会った時は戦闘になったし……。

 完全に信用したわけじゃない。

 いつ牙を剥くか分からないし。


 だが、次に矛を交えることになるのなら、俺は容赦しない。


 追放も辞さない覚悟だ。


 そんな妙な空気の中、俺はふとエドゥが隣にいることに気づいた。


「……ど、どうした」

「ラスティ様、ご報告が」

「ふむ、話してみろ」


「聖戦がいよいよ始まります。明日です」


「明日か」


「はい。ですが、すでにライバルを蹴落とそうと流血沙汰に発展しているようです。そのように世界ギルドから情報をいただきました」


「マジかよ」



 エドゥの情報により、みんな騒然となった。

 聖戦が開始される前から、暴行事件多発か……。そりゃ、ドヴォルザーク帝国の『皇帝』になれるんだ。一人でも多く減らしたいよな。


 だからって殺しはダメだろ。


 ルールでは殺人は禁止されているはず。

 そんな者が皇帝に相応しいはずがない。



 どうしたものかと思考を巡らせていると――。



「大変です、ラスティ様!」



 アルフレッドが慌てた様子で叫んだ。



「今度はなんだ!」

「今日はタマゴのセール開催日! 今から行かねば間に合いませんぞ!!」


「タマゴのセールかよ! まぎらわしいな!」


「我が家の一大事ですぞ、ラスティ様」

「なんでだよ。民たちから献上があるだろう」

「そういう問題ではありません。セールというイベントに参加することが大事なんです!」


 こうなったら、アルフレッドは止められないな。


「では、わたくしも同伴します」

「ストレルカ、いいのか」

「はい、わたくしもいろいろ買いたいものがあるので」

「分かったよ。気をつけてな」

「お気遣い感謝します」



 アルフレッドとストレルカは、買い物へ出掛けた。

 ……さて、問題の聖戦の件へ戻るか。


 けれど、広間に慌しく入ってくる人物が現れた。またか……?



「す、すみません! ラスティ様はおられますか!」

「ん……その声はトレニアさんか」

「ラスティ様!」



 お城に来るなんて珍しいな。

 今は冒険者ギルドの運営をしている時間のはずだけど……。



「どうした?」

「大変なんです」


「タマゴのセールじゃないだろうね」


「な、なんのことです?」

「違うならいいけど」


「じ、実は……港に複数の船が現れたんです。あれはドヴォルザーク帝国の船です!」


「な、なんだって……!」



 帝国の船が島国ラルゴに……なぜ?

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