覚醒聖槍・グングニル

 光は右手に集束していく。

 ごうごうと、あるいはバチバチと。かつて雷神の王が身に宿していた最強の槍。

 雷鳴と共に具現化し、ここに顕現した。



「――や、槍だと!! そんなものォォ!!」



 俺の召喚した武器に驚くトルクァート。

 恐れおののくと同時に闇属性攻撃を広げてきた。だが、もう俺の槍を止めることは叶わない。


 魔力を全開まで上昇させ、俺は最大の力を込めていく。


 鼓動が早くなる。

 うるさいくらいに反復を続ける。


 この瞬間、俺は迫りくる闇が遅く見えた。なんだろう、この世界は。今まで見てきたものと圧倒的に違う。


 その闇の中に別の深淵を見た気がする。


 そして、深淵もまた俺を覗いたような。



 ここだ!!



 その先こそがヤツの“弱点”であると俺は理解できた。




「くらええええええええ、聖槍・グングニル!!!!!」




 希望を、勝利を、あるいは正義を、あるいは大切な人を守るために……命を削る思いでこの一撃を捧げた。


 俺の思いに応えるように聖槍・グングニルは形を変えていく。


 大いなる変化を遂げていく槍は“翼”を持ち、加速を強めた。


 それが思考フギンであり、記憶ムニンの助力であると理解できた。なるほど、俺に問いに応えてくれるか――聖槍よ!



「な、なんだこの槍はああああああああああああ、うあああああああああああああああああああああ……!!!」



 トルクァートの闇を貫通し、グングニルは彼の腕さえも貫こうとする。やがて灰色に染まり、塵と化していく右腕。



「お前の負けだ……!」

「わ、私の腕が……がぁッ!!」


 ヤツはギリギリのところで腕を自ら切断し、後退していく。……マジかよ。正気じゃねぇぞ、あれは!


 ともかく俺は、今のうちにスコルを救出した。



「スコル!!」

「…………? ラスティさん……?」



 ようやく意識を取り戻すスコル。そうか、ヤツにダメージを与えられたおかげで、術が解けたらしい。



「助けにきたぞ。無事でよかった」

「ラスティさん!! わたし……わたし……うぅ」



 泣いて抱きついてくるスコルを俺は抱きしめた。怖い思いをさせてしまった。

 大切な人は取り戻した。


 ……あとはトルクァートに断罪を。


 む?



「……クハ。クハハハハハハ……!」

「おい、トルクァート! お前の負けだぞ」

「負けだとォ!? この私が負け? ありえん、ありえんぞ……」



 痛みで頭がおかしくなっているのか、トルクァートは敗北を認めず、ただ狂気に身を委ねて笑っていた。



「観念しろ」


「ふざけるな。純粋なエルフは皆殺しだ。ダークエルフこそが上位存在! そして、人間は奴隷だ! いいか、ダークエルフ以外は下等種族だ! 私を崇め、敬い、平伏せよ! それがこの世界の希望となるのだ」


「魔王そのものの考え方だ。やはり、ダークエルフとは相容れないというわけか」


「お前になにが分かる、ラスティ! ダークエルフというだけで、虐げられ……住処を奪われ、尊厳すらも奪われた!! 私たちが何をした!? なにもしていない!! なのに、世界は残酷にも牙を剥いた!! 我々を拒絶したのだ!! だから……だから、我々は魔王になるしかなかった!! 我々の憎悪を、怒りを、悲しみを『魔王ドヴォルザーク』として君臨させ、そしてついに逆襲がはじまった。人間やエルフがそうしたように、ダークエルフもお前たちに反撃を開始した。当然の権利だろう……!?」



 だから、支配するのか。

 だから、なんの罪もない人を傷つけるのか。

 だから、世界を闇で覆い尽くすのか。


 違うだろ。

 それは間違っている。


 俺は大切な人を守り、大切な人を幸せにやりたい。だから、がんばれる。

 人々の笑顔を絶やさないために。



 少なくとも、俺は今の自由な時代を生きているのだからな。



 過去のことなんて知ったこっちゃねぇとは言わないが、俺は目の前で困っている人を放っておけない。


 そうだ、大事なのは今なんだよ。


 今の世界は、昔に比べればマシになってきた。それを否定させはしない――!

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