島へ帰ろう

「それでは、ディメンションポータルを開くのだ!」


 下がるように言われたので、少し距離を取った。すると、地面に大きな紋様が現れ、光の柱が現れた。ワープポータルよりも大きいぞ。


 檻に閉じ込められているアンナプルナのヤツ等の足元にも及んだ。なるほど、これで一括転移できるわけだ。


 次第に目の前の風景が変化して、いつの間にかグラズノフ共和国の港にいた。


「…………!」


 これは驚いた。

 数秒もしない内にこんな人数を移動できるとは。



「移動完了なのだ!」

「助かったよ、ハヴァマール。しかし、檻が突然現れたせいで共和国の住人たちが何事かと集まってるぞ」


「あ……すまんのだ。ここが覚えていた座標だったものだから」



 まあ、仕方ないか。事情はブレアか将軍に話すしかない。

 そう思っていると群衆の中からマーカス将軍が顔を出していた。


「なにごとだ!! ……む、これはラスティ殿。これはいったい……」


 混乱するマーカス将軍に対し、俺は事情を説明した。

 殺人ギルドが幻影ダンジョンにいたこと。俺たちは狙われ、戦ったこと。グラズノフ共和国の転覆を狙っているという重要な情報を明かした。


「――というわけなので」


「な、なんだと……! 噂には聞いていたが、アンナプルナという殺人ギルドが本当に実在したのか……」


「ヤツ等の処理をお願いしたい」

「分かった。共和国の敵を野放しにはできないからな」


 あとのことはマーカス将軍にお願いした。

 俺たちは島国ラルゴへ帰還することに。


「では、俺たちは帰るよ。ブレアによろしく」

「また寄ってくれると娘が喜ぶ」


 将軍と挨拶を交わし、俺たちはストレルカの船へ乗り込んだ。


「出港いたしますね、ラスティ様」

「ああ、頼むよ」


 ストレルカに船の方を任せ、俺は船内にある自分の部屋へ。

 スコルとハヴァマールもついてきた。

 って、ルドミラも。


「みんな、俺の部屋に集まってどうした?」


 首をかしげていると、スコルは「わたしは常にラスティさんのおそばですっ」と張り切って言った。

 ハヴァマールは「古代の魔法石エンシェントストーンを返すためなのだ」ともっともらしい理由をつけていた。

 ルドミラは……?


「……そ、その、私は謝りたいことがありまして」

「謝りたいこと? なにを謝る必要がある?」


「今回の戦闘で、私は修行不足を痛感いたしました。幻影ダンジョンであれほど苦戦を強いられてしまうとは……しかも、イリュージョンの存在に気づけなかった。だから……」

「気にするな。ルドミラはよくやってくれた」


 そもそも、殺人ギルドがいたことも想定外だった。今回は予想もつかなかったことが多かった。だから仕方なかったんだ。


「そうですよ、ラスティさんの言う通りです。ルドミラさんはがんばってくれました」

「スコル様……ありがとうございます」


 続いてハヴァマールもルドミラに激励の言葉を掛けていた。


「ルドミラ、お主がいなければ我々は壊滅していた」

「そう言っていただけて嬉しいです、ハヴァマール様」

「余は思うに、魔王の残党はまだまだ世界の至るところにいると見た。これからもルドミラの力が必要になるのだ」


「な、なんですって!?」


 俺もハヴァマールの予見に驚いた。

 イリュージョン以外にもいるっていうのかよ。


「ハヴァマール、それは本当か?」

「うむ。確かに、魔王ドヴォルザークは兄上が倒して消滅した。しかし、今回のイリュージョンと戦って分かったのだ。この世にはまだ生き残りがおるとな」


 魔王復活を企む連中がいるってことか。

 くそ、せっかく世界が平和になりつつあるっていうのにな。


「なあ、もしかして『魔界』と関係あるのか?」

「良い質問なのだ、兄上。そう、この世界のどこかには魔界が存在する。そこはかつて魔王が君臨していた世界。だから、可能性は十分にあるのだ」


 そうか、魔界そのものを叩き潰さないと根本的解決にはならないのかもしれない。まあいい、なにが現れようとも俺がなんとかしてやる。


 今はとにかく、苦労してゲットした古代の魔法石エンシェントストーンをトレニアさんに届けよう。


 船は島国ラルゴを目指して進んでいく。

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