無人島開発スキルで脱出

 ガラガラと崩れる地面。

 暗闇の中へと吸い込まれていく……まずい、これは深いぞ。


 自身の武器を『ゲイルチュール』に変え、つるはしを黒い壁に突き立てた。ルドミラの手を掴み、なんとか落下を阻止。



「……ふぅ、危なかった」

「た、助かりました。ラスティくん、さすがです」

「いや、まだだ。これは深すぎる」


 いったんルドミラを引き上げ、抱き寄せた。

 普段、ルドミラとこんな風に密着することなんてないのだが、これは仕方ない。

 仕方ないのだが、いかんせんルドミラはビキニアーマー。肌の接触が多すぎて、男の俺には刺激的すぎる。


「あ、あの…………」

「悪い。俺なんかがルドミラに触れるだなんて、おこがましいよな」

「いえ、そうではないのです! ……嬉しいのです」

「……お、おう」


 そうか、嬉しいのか。

 それなら良かった。

 普段のルドミラは、凛としていて騎士の中の騎士って感じで、遠い存在に思えた。でも、こういう状況となると彼女は乙女だった。

 可愛いところもあるんだな。


「このまま上へ戻るのは難しそうですね」

「ああ、思った以上に高さがあるらしい。下もどこまで続いているか不明だ」


 遺跡にこんな深い穴があるとは思いもしなかった。

 これはもしかして魔法的な何かが働いているのかもしれない。

 そうでなければ説明できないほどの奈落だ。


「では降りますか?」

「いや、ヴェラチュールにすればテレポートできる。それで地上へ戻ろう」

「なるほど、名案ですね」

「さっそく試してみるぞ」

「分かりました」


 俺はゲイルチュールをヴェラチュールに変化させた。

 すると穂先が剥がれ、そのまま落下した。



「――って、しまったあああ!!」

「ラ、ラスティくん!?」


「ええい、このままやるしかない。テレポート!!」



 これで転移するはずだ……!


 だが。



 なにも起こらなかった。



「あ、あの、転移していませんよ!」

「なぜだ!? テレポートできないのか……」

「恐らくは『転移禁止領域』でしょう。ダンジョンによってはテレポートやワープポータル類の転移スキルが禁止されている場所もあるんですよ!」


「そういうことか! そういうことは早く言ってくれぇ!」



 ぴゅ~んと落下していく俺とルドミラ。

 まずいな、いつ底へ激突するか分からない。せめて明かりを……そうだ! 俺には、俺にしかない“特別なスキル”があるじゃないか!


「なにをするのですか?」

「見てろ、ルドミラ」


 俺は『無人島開発スキル』を使い、石材を壁に接着させた。材料を加工して『階段』を作った。そこへ着地。更に、木材を使用して『たいまつ』を作り壁へ差し込んだ。これで完成っと。


「おぉ! お見事です、ラスティくん。まさか、ここで無人島開発スキルとは……これならば安全に戻れますね。しかも視界も良好です」


「けど、材料の数に限界がある。上か下か判断しないとな」


 その為にもアイテムボックスから『石』を取り出した。それを底へ投げた。



『ぴゅ~~~~~~~~~~~~……ん、コンッ!』



 かなり時間が掛かって石は底へ落ちた。これでは降りるのは危険だな。



「まだまだ底は深そうですね」

「ああ、なら材料を節約して階段を上に作っていこう」

「飛び跳ねていくのですね」

「そういうことだ。俺が先行して石の階段を作る。片足分だけになるから、気を付けてくれ。まあ、ルドミラの跳躍力なら大丈夫だと思うけど」


「ええ、その辺りは御心配なさらず」


 決まりだ。

 俺はゲイルチュールを持ちながら、上へハイジャンプ。

 壁につるはしを突き立て、石の足場を作った。


 それを何度も繰り返していく。


 背後からはルドミラが器用にジャンプしてくる。


 あとは材料が尽きないことを祈るだけだ。



 そうしてようやく地上の光が見えてきた。



「ルドミラ! 地上だ!」

「何百とジャンプしてきましたが、やっとですね……!」



 最後の足場を作り、力を振り絞って飛び跳ねた。ようやく穴から脱出を果たして、地上に舞い戻ってきた。



「スコル、みんな! 大丈夫か!!」



 周囲を確認すると、そこには水の壁があった。こ、これはなんだ!?



「ラスティ様、お戻りになられたのですね!」

「ストレルカ……これは君のスキルか。水の壁で出入口を塞いでいるのか?」

「はい、その通りです。これはウォーターウォールというスキル。物凄い水圧なので、少しでも触れれば人体が圧壊します」


「マジか。俺たちを待ってくれていたんだ」


「ええ、ラスティ様たちが穴に落ちられてから、わたくしたちはギルドと戦っていました。ハヴァマールさんが雷を降らしてくれたのですよ」


 そうだったか。ハヴァマールがやってくれたか!


「よくやった、ハヴァマール」

「当然なのだ。余はみんなを守るのだ」


 へへーんと胸を張るハヴァマールの頭を俺は撫でてやった。気持ちよさそうに喜ぶ我が妹。傍らでスコルが俺をみつめる。



「……ラスティさん、心配しました」

「ごめんな、スコル。俺も罠があるとは思わなかった」

「あのあとギルドの方達が襲ってきて、わたしたちも穴に落とされそうになったんです。でも、ハヴァマールさんが助けてくれて……」


「やっぱり、最初から罠だったんだ。信じた俺が馬鹿だった。ごめん」

「いいんです。ラスティさんは悪くありません。戻って来てくれて良かった」


 泣きそうになるスコルを俺は抱きしめた。

 俺はいつもスコルに心配を掛けてばかりな気がする。


 けど、これで元通りだ。


「こうなったら、このまま幻影ダンジョンへ突入するしかない。ストレルカ、そのウォーターウォールを維持できるのか?」

「可能ですが、オケアノスを置いて行くことになります。それと魔力にも限界がありますから……」


 この壁がいつまで持つか分からない。

 持続時間が切れれば、あのギルドたちが進入してくるだろう。となれば、戦う羽目になる可能性もある。できれば、このまま邪魔されないようにしておきたいのだが。



「魔力が欲しいのですね? なら、わたしがストレルカさんに供給します!」

「スコル……そんなことが可能なのか?」

「はいっ。実は……」


 懐から何かを取り出すスコル。


 こ、これは……!


 世界聖書・・・・じゃないか!

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