世界聖書の“ページ”

 ニールセンは、やがて元の形に戻った。

 無敵ということは、こういうことだったんだな。倒しても死なない。ダメージも受けない……文字通り無敵なわけだ。



「ラスティさん、彼の“弱点”を突かなければ倒せません!」

「ミカエル……じゃあ、教えてもらうしかなさそうだな」



 俺は急いでバックステップしようとするが、ニールセンの腕が伸びてきた。野郎、闇属性を熟知していやがる。あれが神聖の王の姿? ありえねぇだろ。

 こんなの魔族じゃないか。


 シグチュールで振り払いながらも、俺はミカエルの元へ。


 だが、ニールセンがいつの間にかミカエルの背後を取っていた。野郎、テレポートか!


「フハハハ! 私の使えるスキルはなにも闇属性だけではないのだよ」

「ニールセン、お前! ミカエルは仲間だろうが!」


「この女が仲間? ふざけるな。コイツは私の弱点を知る数少ない裏切りの幹部。もう消すしかないだろう」



 ニヤリと笑うニールセンは、ミカエルを殺そうと闇を伸ばす。くそっ、させるか!!


 俺は攻撃を加えようとするが、距離的に間に合わない。


 助けられないと思ったが、スコルが叫んだ。



「ミカエルさんは守ります!! ホーリークロス!!」



 聖属性の輝きがニールセンの腕に命中。ヤツは弱点属性を突かれて、そのまま吹っ飛んだ。



「ぐああああああああああああ……」



 やはり、聖属性には弱いのか!

 俺は今のうちにミカエルの元へ。

 弱点を聞き出すことにした。



「教えてくれ、ミカエル!」

「わ、分かりました。ニールセンの弱点は――きゃああっ!!」



 あと少しで弱点が聞けると思ったその時、ミカエルの全身を闇が飲み込んだ。ニールセンの野郎!!



「おまええええ!!」

「言わせるものか……言わせるものかァ!!」


「おまえはしつこいんだよ!! 聖槍・グングニル!!」



 この必殺スキルは、魔力馬鹿食いだからあんまり使いたくはなかったが、そうも言っていられない。


 聖槍・グングニルは、嵐を引き起こしミカエルの闇を振り払う。更に、暴風がニールセンを吹き飛ばす……! これなら!!



「ぐあああああああああああああああああああああああ…………!!!」



 ほぼゼロ距離からの攻撃だったから、ニールセンはかなりぶっ飛んだ。



「兄上、今のうちにこの場を離れるのだ!」

「ハヴァマール、そうだな」



 今は弱点を聞く方が優先だ。

 俺は全員を守りつつ、霧の中へ。

 視界が悪いから、どこへ向かっているか分からない。ただ闇雲に走って、出口を探した。


 ……出口なんてあるのだろうか。



 気づけば霧を抜けていた。

 見たことも無い“黒い草原”にいたんだ。



 なんだここは……まるで魔界だぞ。



「ここは神聖王国ガブリエルの領土です」

「マジか、ミカエル」

「はい。現在の神聖王国は、このように荒廃しつつあるんです。あのニールセンの闇のせいで……。かつては美しい花々に満ちていたのですが」



 ヤツが王になってから、事態は悪化したみたいだな。

 とにかく俺は隠れる場所を探した。


 ……あの岩陰にするか。


 ちょうど少し行った場所に大きな岩があった。川も流れていたが、これも真っ黒だった。これは水なのか……?


「ミカエル、今度こそニールセンの弱点を教えてもらうぞ」

「もちろんです。ニールセンの弱点といいますか、トドメを刺すには世界聖書の“ページ”を破壊するしかありません」


 ミカエルがそう説明すると、ハヴァマールが「ページを?」と首を捻った。


「ええ、聖書自体の破壊は不可能ですが……ページは可能なんです」

「なんの関係があるのだ?」

「ニールセンは世界聖書の百ページ目に自身の『心臓』を埋め込んだんです」



「「「心臓を!?」」」



 俺たちは驚いた。

 ただただ驚いた。


 心臓を本の中に入れたって……なんだそりゃ。聞いたこともない技だ。てか、そんなことが出来るのか?


「世界聖書は過去や未来のことが読み取れるとされていますが、空白のページは自由自在なんです。体の一部やお宝を隠したりするなんて容易いこと。噂によれば使いきれない程の財宝が眠っているとか」


「それで無敵ってわけか。それなら、スコルを狙う必要はないんじゃないか」

「世界を支配するという目的もあるのでしょう。ですが、それよりも心臓を動かしたいのだと思います」


「そうか、弱点を隠したいわけか」

「ええ。しかし、心臓を本から取り出すにはエルフの聖女の力が必要」

「それでスコルか」


 うなずくミカエル。

 これで全てが繋がったような気がする。ヤツは自分の為にスコルを欲しているんだ。そして、倒すには世界聖書を奪うしかないってことだ。


 これで方針は決まったな。

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