ドラゴン族であり、魔女であり、ロイヤルガーディアンの女

「ブルース……いや、シベリウス。なんでお前がここにいるんだよ」

「ラ、ラスティ……なぜ、ここに!」


 シベリウスも驚いていた。

 コイツはレオポルド騎士団の門番をしていて、今回の戦に向かったはず。なのに、なぜ城内をウロついているんだか。


「俺はこの国を助けに来た。皇帝になってくれって頼まれてな」

「ば、馬鹿な! 王位継承権はもうないはずだ」

「仕方ないだろ。あのルーシャスに頼まれたんだから」

「だ、団長に!? なんてことだ……だが、ドヴォルザーク帝国がピンチであることも事実だ」


 悩ましい表情でシベリウスは天上を見上げる。どこ見てんだか。


「で、俺を歓迎してくれるのか」

「……緊急事態だからな。ただし、ロイヤルガーディアンのスケルツォがどんな反応を示すか……」


「それなら大丈夫だ。ヤツとは長い付き合いだからな」

「だろうな。まあいい、ラスティ……こっちへ来い」


 シベリウスの後をついていく。

 山のように高い大きな扉が開き、その先が現れた。


 この奥こそ“新世界の狭間ニューゲート”という部屋だ。


 お偉いさんが集まり、会議したり皇帝と謁見したりする場所だ。


「わぁ、凄いです。こんなに広い部屋なのですね」

「ああ、ここでよく遊んだよ。アルフレッドとな」

「ラスティさんの子供の頃……」


 過去を思い出しているのか、スコルは俺を見つめた。俺のガキの頃かぁ。たいしたものじゃなかったけどな。


 兄貴はウザかったし――ああ、そうか。


 エルフの国・ボロディンで幼少の頃、スコルとは会っているんだよな。


 この城では、俺はとにかく兄貴とケンカばかりしていた。

 アルフレッドにたしなめられては、二人で遊んでいた日々。……そうだな、ここには何だかんだ思い出が多い。


 少し昔を感じていると、奥から気配を感じた。


 この独特な魔力は間違いない。



「お久しぶりですね、ラスティ様」



 ドラゴン族であり、サンダードラゴンであり、魔女であり、そして、ロイヤルガーディアンである――大人の女性は『スケルツォ』だ。


 本来なら皇帝のみを守護する者だが、今その皇帝も不在。となると、今の彼女は何者分からない。


「スケルツォ、久しぶりだな。以前、アントニンを守護しなかったのは何故だ」

「良い質問ですね、ラスティ様。あの時は皇帝陛下のご命令でしたので」

「それで動かなかったと?」


「ええ、元陛下が魔王だったとはいえ、ご命令はご命令。それがロイヤルガーディアンの務めです」


 なるほど、忠実なんだな。

 ドヴォルザーク帝国に百年は仕えているらしいし、そういうことなんだろうな。



「なるほどな、そういうことにしておく」

「ええ。ところで、その後ろの方々は?」


「そうだったな。俺の隣にいるのは――」

「スコルです。スコル・ズロニツェと申します」


 スコルがそう挨拶すると、スケルツォが意外そうに驚いた。



「ズロニツェ……なんと。ラザロ様の……守護聖人聖ヴァーツラフ・ズロニツェの聖女様ですね」


「はい。ボロディン出身です」

「やはり。ルドミラ達の神器を開発し、不老不死を成就させたと」

「詳しくは分かりませんが……多分そうかと」


「事情がありそうですね。……おや、これは珍しい銀髪の少女ですね」


 今度はハヴァマールに興味を示した。

 だが、本人は怖がっているが。


「な、なんなのだ。余を食ってもおいしくないぞ、ドラゴン族!」

「ほぉ……この猫耳は本物ですか?」


「そんなわけあるかいっ。これは衣装アイテムじゃ!」

「なんと可愛らしい」


 スケルツォがここまで興味を持つとはな。


「言っておくが、そのハヴァマールは俺の妹だぞ」

「ラスティ様の!? どういうことですか?」

「詳しくは後で話す」

「いろいろ事情がありそうですね」


「ああ。あと知っての通り、帝領伯の娘・ストレルカと元副団長のエドゥアルドだ」

「ええ、お二方とも存じておりますよ。久しぶりですね、ストレルカ嬢」


 本当に顔見知りのようだが、ストレルカは困惑していた。


「そ、その嬢ってやめてくださいまし、スケルツォ様」

「いやぁ、今更変えられませんので。……と、大賢者エドゥ殿」


 スケルツォは、エドゥと抱擁ハグを交わす。

 そこまでの仲だったとはな。

 知らなかったなぁ。

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