将軍と姫騎士
ブレアの後ろをついていくと、衛兵たちが緊張の面持ちで身構えていた。
「こんなに兵を配置しているんだな」
「他国が戦争をしているからな。こちらも無関係とはいかない」
「そうだな、共和国は陸続きだし、油断はならないか」
「広大なネラホゼヴェス山脈が天然の壁となってくれているから、そう簡単には攻めてこれない。なので通常は船を使う必要はあるが……用心するに越したことはない」
グラズノフ共和国には、標高三千メトルを超える山々があった。あれを軍隊で超えてくるのは至難の業だろうな。
そんな話をしながらも、広間に到着。
「机も椅子も豪華だな。シャンデリアまである」
「好きな場所に座ってくれ、ラスティとその一行たち」
俺は椅子に座った。
スコルたちもそれぞれ着席。
「さて、ブレア。さっそく話だけど」
「断る理由はない。同盟関係を結ぼう……それと鉄だったな」
「は、早いな。もう決断を?」
「構わないよ。ラスティには以前、金貨を分けて貰った恩がある。あれのおかげで国は安定を取り戻し、より盤石となった。今こそ力を合わせて神聖王国ガブリエルを止めないと……世界は支配されるだろう」
「ああ、そんな魔王みたいな真似事はさせない。世界は自由であるべきなんだ」
「その通りだ。神聖王国ガブリエルは既に多くの村を滅ぼしたと聞いている。ニールセンは力で捻じ伏せる輩らしい。暴力の権化だ」
「理解してくれて嬉しいよ。じゃあ、これで決定で」
がっちり握手を交わし、グラズノフ共和国との“同盟”を結んだ。それと鉄の売買も同意してくれた。これで俺の『ラルゴ』は更なる防衛力アップが望める。
「ありがとう、ブレア」
「ラスティが信用に値するからだ。個人的にもね」
「個人的にも?」
「……っ! そ、それより、今日は我が城に泊まるといい。持て成すぞ」
「そうだな、一日くらいゆっくりしていくよ」
「自由に回っていいぞ。なにか困ったことがったらなんでも言ってくれ」
明日にはドヴォルザーク帝国へ向かえばいいだろう。
「助かるよ、ブレア」
俺は改めて礼を述べた。
すると扉が開いてズカズカと男が入ってきた。……あれは、誰だ?
「会議中、失礼する」
「お、お父様!」
って、ブレアのお父さんか。ガタイの良い大男だな。筋肉質だが、軽装のアーマーを身に着けている。騎士でもあるらしい。
この只ならぬ雰囲気、明らかに強いな。
「やはり客人を迎えていたか。……む、その高貴な顔立ち、ドワーフ王の宝石とも呼ばれるスペサルティンガーネットの瞳……間違いない。ドヴォルザーク帝国の第三皇子・ラスティ様ではありませぬか」
ブレアのお父さんは胸に手を当て一礼した。礼儀正しいな。
「いや、俺は元第三皇子。もうドヴォルザークの皇子ではないし、今は島国の主をやっている」
「それは失礼を。それにしても、島国を?」
「ラルゴという。俺は国を守るために交渉しに来た」
「なるほど。……おっと、先に名乗るべきでしたな。我が名はマーカス。グラズノフ共和国の将軍などをやっておりますがね、名ばかりです。今は娘のブレアに任せている状態。実質的なトップは姫騎士である彼女です」
どうやら、ほぼ全権をブレアに委任しているようだな。マーカス将軍からも、国を自由に歩いて良いと許可を貰った。
これで動きやすいな。
なんでも協力してくれることにもなったし、交渉は完全に上手くいった。
* * *
――ひとまず、部屋を借りれることになった。
城内には三十を超える空き部屋があるらしく、好きな所をどうぞと言われた。どこでも使っていいのかよ。
俺は二階の見晴らしの良さそうな部屋にした。
しかし、なぜか全員俺の部屋に集まってきた。
「ちょ、みんな。他にも部屋はたくさんあるんだが」
「だ、だって……ラスティさんと同じ部屋がいいじゃないですか」
スコルがそう言うと、みんな頷いた。おいおい。
けど、この人数は多すぎるので――そうだな、じゃんけんかな。
「ここは公平に“じゃんけん”しよう。勝った人が俺と一緒ということで。残り三名は別の部屋ね」
みんな同意。
スコル、ハヴァマール、ストレルカ、エドゥは、それぞれ向かい合って――って、あれ!? いつの間にかブレアもいた。
「私も混ぜてくれないか!」
「「「「ブレアさん!?」」」」
びっくりした。なぜかブレアもいるし! ということは、五人対決!? マジか。下手をすれば、ブレアと一緒の部屋ということかな。
ついに“じゃんけん”が始まり……あいこが何度も続く。長い長い戦いが始まり……そして、意外な勝敗となった。
……そうなるのか!
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