騎士団結成(仮)

 ――知ってる天井だ。


 俺は自分のベッドの上にいた。

 風呂へ入って……それから何があったっけ。


 思い出せない。


 ……いや、記憶が少しずつ蘇ってきた。


 そうだ、俺は女性陣みんなから襲われて……あぁ、もう思い出したくない。


 起き上がって外を見ると、もう朝だった。

 そうか、俺はあのまま気絶してしまったらしい。


 着替えて自室を出た。


 階段を降りていくと、異常な空気が場を包んでいた。……なんだ? なにか起きているっぽいぞ。


 一階の玄関前でそれは起きていた。

 中年の男がルドミラに何か文句を言っていた。トラブルか?


 俺は気になって現場へ向かってみた。



「どうした、ルドミラ」

「おはようございます、ラスティくん。ええ……その、この男性が“貴族にして欲しい”と言うのです」


「き、貴族に!?」



 おいおい、この島国ラルゴに貴族制はないぞ。騎士とか職業・称号くらいはあるけど、その程度だ。



「私はドミニクというものだ。あなたがこの島の主か」

「あ、ああ。悪いけど貴族はナシだ。偉くなりたければ島に貢献してくれ。それで称号くらいならやれる」


「称号……それではダメだ。私には地位が必要だ。民を動かす爵位がね」


「ここはドヴォルザーク帝国ではない。ドミニクさん、どうしても貴族になりたければ帝国へ行ってくれ」


「おいおい、主様。私はこの島をよくしようと考えているんだよ。その為にはまず貴族が必要だ。下々に命令し、上納してもらう。当たり前じゃないか」



 ……なにを言っているんだコイツ。俺の島にケチをつけようとするとは……やっぱり、こういうヤツも移住してきてしまうんだな。



「その意見は受け入れられない。帰ってくれ」

「そうはいかない。せめてこの私に奴隷をくれ。働きたくないんだ」


 なんてヤツだ。

 呆れていると、ルドミラが殺気を立てた。



「ドミニクさん、お引き取りを」

「……な、なんだ女騎士。……チッ、まあいい。考えておいてくれよ、主さん!」


 散々悪態をついて、ドミニクは去っていく。

 やれやれ、ああいうヤツもいるんだな。


「申し訳ないです、ラスティくん」

「三千人も人が増えれば一人や二人、ああいう男も出てくるよな」


「ですが、面接をしたのは私ですから」


「全てを見抜ける人間なんていないさ。けど、治安維持を考えると騎士団の結成は急務だな。ルドミラ、お前が騎士団の団長になれ」


「……へ。私がですが!? いやいや、私はラスティくんの護衛が任務ですから……お傍を離れるなど出来ませぬ」



 そんな顔をグイグイ近づけられてもな。……いや、けど騎士団長といえば適任はルドミラしかいない気がする。



「ルドミラ、頼む。この島を守るためだ」

「……むぅ。仕方ありませんね。さきほどのような輩が出て来た時、対処できる者がいないとですからね」

「おぉ、騎士団長になってくれるか」


「はい、私でよければですが」


「よく言ってくれた。騎士団の名前は改めて決める。とりあえず暫定騎士団を結成する」

「分かりました。この剣に誓い、ラルゴをお守りいたします」



 これで仮の騎士団が出来た。

 あとは副団長とかメンバーを募るだけだが……。



「後ほど騎士団も敷地内に作っておくよ」

「ありがとうございます、ラスティくん」


「それじゃ、俺は朝食でも食べにいく」



 * * *



 俺は食堂へ向かい、まずは腹を満たすことにした。

 扉を開けると――そこには。


「お待ちしておりました、ラスティさん」

「おはよう、スコル。朝食を作ってくれたんだ」

「はい、そろそろかと思って」


 今日は紅茶にパリパリに焼けたトーストか。優雅だな。


 席にはエドゥだけがいた。


「おはよう、エドゥ」

「おはようございます、ラスティ様」

「美味そうだな。俺も食べようっと」

「スコル様の作る朝食は絶品です」


「間違いない。この味付けが完璧なんだよな」


 褒めるとスコルは顔を真っ赤にしていた。可愛いな。


「ラスティ様、これから戦争へ?」

「いやまだ出陣はしないよ。まだ情報もそれほど得られていないし、国内でやることも多いからね」

「急がなくて大丈夫です?」


「うーん、かといって闇雲に動いても全滅するからねえ」


「そうですね。今はレオポルド騎士団を信じるしか」

「そうだな、帝国の騎士団が弱いわけではないし……一週間は持ちこたえるだろ。それまでには向かう」


「分かりました。必要でれば何でも言って下さい」

「ああ、その時は頼む。特にテレポートはお願いするかも」

「いつでもおっしゃってください」


 とりあえず、国内を安定させねば。

 帝国を助けるのはそれからだ。

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