奇跡の力

 城へ戻り、散歩完了。

 そのまま大広間で朝食を食べ、俺はみんなに第二皇子・ブラームスが流れ着いていたことを話した。


「な、なんと……そんなことがあったのですね」


 ルドミラが椅子から立ち上がり、意外そうにしていた。


「幸い、説得には応じてくれた。脅威はないけれど、まだ信用には値しない。だから、小屋で住んでもらうことにした。しばらくは様子を見る。ルドミラ、君に監視を頼みたい」

「もちろんです、ラスティくん。よろこんで引き受けます。彼からは情報を聞き出したいですからね」


「ありがとう、ルドミラ。助かる」


 全員、俺の言葉に納得した。

 ルドミラが監視するし、俺も警戒していく。なにかあっても対処はできるだろう。


「兄上、今日はダンジョン作成の続きを?」

「そうだな、ハヴァマール。あとは木材だけだから……そうだな、今日はスコルとエドゥに来てもらおうかな」


 反対は――なし。

 残りのメンバーには城のことを任せる。


「ラスティ様、自分も同行して良いのですか?」

「うん、木材ならエドゥがいいかなって思ったんだ。賢者の力は強力だからね」

「それは光栄です。少しお話もしたかったですし」

「たまにはいいだろ」


 俺は、スコルとエドゥを連れて城の外へ。



 * * *



 ゲイルチュールをブンブン振って森を薙ぎ倒していく。その度に木材がアイテムボックスへ転送されていく。多くを伐採できるけど、それでも限度はあった。


「スコル、移動速度の支援魔法を」

「分かりました。キリエとグローリアを掛けますね」


 全員に支援魔法が掛かった。

 これでステータスや移動速度がアップ。


「エドゥは伐採できるか?」

「お任せください、我がソウルテレキネシスならば伐採など容易いのです」


 おぉ、例のソウル系スキルか。

 非常に強力な念力といったところだ。


「では頼む、エドゥ」


 こくりと静かにうなずくエドゥは、手を木々に向ける。



「ソウルテレキネシス!!」



 叫ぶと同時に周辺の木がボコッと抜けた。すると異能の力が木を『木材』に変えていく。なんてパワーだ。



 木材:8447個 → 木材:16889個



 倍以上増え、十分な数が獲得できた。



「ありがとう、エドゥ。おかげで土地も広まったし、木材も十分に溜まった」

「お力になれて良かったです」


 そんな時、スコルが足を止めていた。


「どうした、スコル」

「あ、あのぅ……わたし、ちょっと……お花を摘みに」

「え? モゾモゾしているし、顔を赤くしてどうしたんだい?」


 エドゥからひじを突かれて、耳元で「トイレのことですよ」とささやかれた。うわ、今耳がすげぇゾワゾワっとした。

 ていうか、トイレのことか。


「……行ってもいいですか」

「あ、ああ」

「で、では」


 頭を下げ、スコルは森の奥へと消えていく。


「そ、そっか。我慢していたのか」

「丁度二人きりになれましたし、そこの湖でお話ししましょう」


 少し歩くとアルフレッドの眠る湖があった。そこへ向かい、草むらに腰を下ろした。


「で、話って?」

「ラスティ様、失礼します」


 エドゥはいきなり身を寄せてきた。

 普段、無表情で感情を表さないから、びっくりする。


「どうしたのさ、エドゥ」

「自分なりのアプローチです。ラスティ様を落とそうかなと」

「俺を落とすって……でもさ、エドゥはルドミラとテオドールに対して話す時、たまにはキャピキャピしているよな。俺はあっちの方が明るくて好きだけど」


「あれは昔の名残です。今の自分はこれ」


 静かに淡々として口調でエドゥは言う。

 しかも、俺の腰にまたがってきた。


「ちょ、エドゥ……スコルに見られたらまずい」

「ラスティ様は、スコル様が好きなのですね」

「ぐっ……! ま、まあな。でも、みんな好きだ」


「へえ、ハーレムをご希望ですか。でも、一国の主となる以上、必要なことです。なので、自分は愛人で結構ですよ」


「あ、愛人!?」


 なんてことを言うんだ、エドゥは。しかも、目が本気だ! うわ、こわっ。


「ええ、愛人です。ラスティ様、今なら自分を襲っても叫びませんよ」


 とか言って、俺の服のボタンを脱がしていくエドゥ。なんか息も荒いし、やばい。俺襲われるぅー!?


 そんな時、草陰から気配がした。



「ただいまです~…って、ええッ!?」



 早くもスコルが戻って来てしまった。

 押し倒されている状況を目撃され、場が凍り付く。



「あ……スコル。これは、その……えっと」



 じわっと涙目になるスコルは、その場に立ち尽くす。



「最悪なタイミングですね、スコル様」

「エドゥさん、ラスティさんと何をしているんですか……!」

「なにって逢引デートです」

「で、でーと!? 抜け駆けなんてズルいです! それに、ラスティさんはわたしの……」


「わたしの?」

「うぅ……」

「言えないのですね。では、自分はハッキリいいます。このエドゥアルドは、身も心もラスティ様のものです」


「んなっ……」



 酷くショックを受けるスコル。ていうか、俺もビビって言葉を失った! え、エドゥって俺のものだったの!?


 エドゥは勝利を確信していた。おそらく、スコルが内気で反論できないタイプだと思っているからだ。


 でも、その認識はもう古い。

 スコルはもう昔の弱い女の子ではないのだから。



「では、スコルさんは帰るといいですよ」

「……させません」

「?」

「ラスティさんは誰にもあげません!!」


 とうとうブチギレたスコルは、なにか・・・のスキルを叫んだ。……え、まって、この白い光はなんだ!!



 爆発系!?



 ――直後。




『ドドドドドドドドォォォォォォォォォォォ…………!!』




 凄まじい光が湖を包んだ。



 ちょ、スコル!!


 なにもここまでしなくとも!!



 まぶしすぎる光に目頭を押さえ、止むのを待った。


 少し経ってようやく目を開けられた。

 エドゥは? スコルはどうなった?



「スコル……無事か」

「……ごめんなさい。わたし」

「いや、被害はないようだし。エドゥは?」


 近くに気配を感じる。


「自分も平気です。この程度の光……いえ、待って下さい。この聖なる力・・・・、まるで“ラザロ”の追い求めた奇跡の力そのものではありませんか! これは、まさか――」


 なぜか驚き、興奮するエドゥ。

 いったい、何なんだ?


 俺は動揺していると、ただならぬ気配を感じてゲイルチュールを構えた。


 その瞬間、なにか飛んできてゲイルチュールに激突。火花を散らした。



「……ぐっ! なんだ!?」

「…………私は、私は何者なんだああああああ!!」



 黒い影が現れたかと思ったら、その顔に覚えがあった。



「おまえ……なんで」

「私は、私は、私は、私は、私はあああああああああ!!」



「アルフレッド!!」



 ……なんで生きているんだ?

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