ドヴォルザーク帝国の危機
少し移動し、今度は先ほど捕えた四人組の前へ。俺はリーダーらしき“太っちょの剣士”に話しかけた。
「そこのお前に問う。お前達の目的は、この島の支配か?」
「俺はリーダーじゃねぇよ。こっちのセイントローブの男がリーダーだ」
どうやら、この“太っちょ”ではなく、聖職者っぽい服に身を包む“痩せ宣教師”がリーダーらしい。意外だな。
「宣教師か」
「そうだ。私は神聖王国ガブリエルの宣教師。かつては連合国ニールセンの特使を務めていた。だが、連合国は魔王によって分断された。今や神聖王国ガブリエルとして独立し、再び支配を強めている。ニールセン様のお力によってな」
「お前たちはわざわざ何しに来た」
「簡単なこと。この島を支配下に置きにきたのだよ。もう何度も刺客がやって来たのではないかね?」
その通り。ヤスツナやドム、そして今回のこの四人組。どんどん新しい敵が送られてきていた。このままでは敵が増える一方だ。
新たな住人を迎えている場合ではなくなる。
やはり、島の『要塞化』が必要か。
「ひとつ教えてくれ、宣教師」
「いいだろう。その代わり、私もひとつ聞きたい」
「分かった。まずは聞かせてくれ、ニールセンはここへ来るのか?」
そう聞くと宣教師は“ニヤリ”と不気味に笑った。……コイツ、随分と余裕があるな。
「いずれは来るだろうな。だが、その前に『ドヴォルザーク帝国』を落とすことになるだろう」
「なんだと!?」
「ドヴォルザーク帝国は現在、皇帝が不在。第一、第二皇子もその座に就く片鱗すら見せない……ならば、真の第三皇子であるニールセン様こそ相応しいわけだ……!」
「帝国に攻め入る気か。そんな無謀な」
「無謀? それはどうかな。噂によれば、数万人の移住が決定したと聞いている。それだけ人口が減るということは、それだけ帝国に不満を抱いている民がいるということだ。そうだよ、帝国は隙を見せてしまったんだ」
そうか、俺の移民募集の情報が届いていたか。そう捉えられるとはな。ほんの少し、俺のせいなところもあるわけか。
いや、だが帝国の怠慢が招いたこと。
俺に帝国を守る義理もない。
落とされようとも助ける義務もない。
同盟を組んでいるわけでもないからな。
「そうか、帝国は好きにすればいい。あのバカ兄貴共が何とかするさ」
「ああ、その後はこの島だ。ここは美しい……自然も食べ物も豊富。住んでいない家も多いと見た。ここは“楽園”だ。ニールセン様に献上するに相応しいフロンティアだ」
宣教師とは思えない邪悪な笑みを浮かべる男。こいつ、聖職者の顔じゃねえ。なにか企んでいやがる。
「もういい。お前は俺に何を聞きたい」
「私から聞きたいことはただひとつ。貴様はこの島どうする気だ?」
「なんだ、そんなことか。決まっている……『国』を作る。ただの無人島だったこの島を国にするんだ。世界のどの国にも負けないほどの島国にな」
「そういうことか。確かに周辺は敵もいないし、隣国も少ない……安全地帯と言えよう。だが、陸路が無かろうと攻める方法はいくらでもあるのだ」
「その前に防衛力を高めてやる」
「好きにしろ。そして思い知るがいい……ニールセン様の素晴らしさ、圧倒的な恐怖! 支配力をな!!」
俺は背を向けた。
情報は十分に得られたからだ。
ニールセンが何をしようとしているのか――それが分かっただけでも、大きな収穫だ。
ドヴォルザーク帝国に危機か……。
* * *
地下から戻ると、沈黙していたハヴァマールが謝ってきた。
「すまぬ、兄上。余は……こんなつもりでは」
「いや、いいんだ。俺はみんなを幸せにしたい。ただそれだけなんだ」
「そうだな。余もみんなの為に力を合わせたい」
手を伸ばしてくるハヴァマール。
俺は握手を交わした。
なぁに、これからどんどん防衛設備も増やしていくし、大丈夫さ。きっと何とかなる。この力があれば。
食堂へ向かうと、ご飯が出来ていた。
スコルやみんなが世話しなく料理を運んでいたんだ。俺も手伝うか。
「あ、ラスティさんは座っていて下さい。主様ですからね」
「え、でも……いいよ、手伝うよ、スコル」
「だめです! ほら、座って下さい」
そう椅子を引く。スコルがそう言うのなら良いのか。
次第にルドミラやエドゥもやって来た。
風呂から上がったようで体が火照っていた。
随分と長く居たようだな。
「おかえり、ルドミラ」
「良いお湯を戴きました、ラスティくん。あの大浴場は、ずっといられてしまいますね」
少し前に作った『温泉』を改良したものだった。あれから『大浴場』に生まれ変わり、神殿並みに生まれ変わっていた。
複数のシャワー付き、露天風呂ももちろんある。ストレルカの魔法による“ジェット付き”だったり、ライオンモンスター像の口から湯が流れていたり、なかなかの仕様となっている。
女性陣から大好評だった。
俺もあとで汗を流しに行こうっと。
その前に食事だ。
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