帰還、再会、波乱

 港に着き、船を降りる。

 ルドミラとエドゥ、そしてハヴァマールから歓迎を受けて抱きつかれた。


「待っていた、ラスティくん」

「おっす、ルドミラ。ドヴォルザーク帝国から戻ったよ。そっちは元気そうだけど変わりはないか?」


「みんな健康に問題はないよ。ただ、報告は一件ある」

「む? そうか。後で頼む」


 一件かあ。何事だろうな。

 少し嫌な予感がするが――まあいいや。

 今はみんなの無事を祝おう。


「久しぶりです、ラスティ様」

「エドゥも元気そうだな」

「はい、あれからずっと島を守っていました。調査も随分進みましたよ」


「おぉ、さすがだな。こっちも移住希望者を募ってきたところだ」

「ついに人がやってくるのですね!」



 エドゥは変わりなくか。

 さて、次に照れ臭そうに立ち尽くす我が妹。



「どうした、ハヴァマール。なんか、らしくないぞ」

「うぅ……兄上」

「おいおい、まさか離れ離れになって寂しかったのか?」

「そ、そんなことはない! 断じて!」


 とか言いつつも動揺してるな。

 まさかこの兄を思ってくれていたとはな。けど、ハヴァマールのおかげで『聖槍グングニル』を使用できるようになったし、助かった場面は多かった。



「ハヴァマール、こっちへ来い」

「そ、そのぉ……うん」


 走って来るハヴァマールは、俺に抱きついて来た。まさか、寂しい思いをさせてしまっていたとは。


 猫耳が垂れ下がっているし、尻尾も元気がない。


 妹は連れていくべきだったかもしれないな。ちょっと反省しつつ、俺はハヴァマールの頭を撫でた。



 最後に気になる人物。

 ロープでぐるぐる巻きにされたテオドール。口元も布で塞がれているし、苦しそうだ。いったい、何をしたらそうなるんだか。



「なあ、ルドミラさん。テオドールなんだが」

「やっぱり気になる?」

「そりゃな。これでは、挨拶も交わせないぞ。何があった?」


「うん。実はね、神聖王国ガブリエルの刺客が現れたんだ」

「なんだって!?」


 俺とスコル、ストレルカが船でドヴォルザーク帝国へ旅立った後、神聖王国ガブリエルから来たという青年に襲われたらしい。



 名を『ヤスツナ』というらしい。

 変わった名だな。

 まるで“異国”の人みたいだ。



「――で、私が倒して牢にぶち込んだんだ」

「それがどうテオドールに関係するんだ?」



 そこからはエドゥが話してくれた。



「そのヤスツナは、他人の体に乗り移る特殊なスキルを持っていたんです。だから、今のテオドールの中には『ヤスツナ』がいるんです」


「なっ!!」



 そんな馬鹿な。乗り移る能力だって?

 それでこんなグルグル巻きに拘束されていたのか。


 スコルが心配そうな顔で「なんとかならないのですか?」とエドゥに聞くけど、首を横に振るだけだった。



「それが、未知の力が使われているんです」



 それは大賢者であるエドゥにすら分からない代物らしい。マジかよ。コイツが分からないなら、誰が分かるんだ。


 神聖王国ガブリエルの謎技術ってことか。


 ――ん?


 待てよ。


 神聖王国ガブリエルか。



「そうだ、みんなに紹介していなかった」



 みんな「?」と浮かべ、俺に注目する。俺は懐から、超ミニマムサイズの獣人ドムを取り出した。ドムは諦めているのか眠っていたけど。


「兄上、それは?」


 ハヴァマールが珍しそうにのぞき込む。


「うん。コイツは『ドム』。ちっこいけど獣人だ。ドヴォルザーク帝国で襲われてな。なんと神聖王国ガブリエルからやって来た男だ」


「な、なんと! 兄上の方でも襲われていたのだな」

「そうなんだ、ハヴァマール」



 このドムなら、ヤスツナのことについて何か知っているかもしれない。俺は眠っているてのひらサイズのドムを指で突く。



 瞬間、サイズが戻っていく。

 そうか、スキルの有効期限が切れたのか。



「んぉ!? んおおおおおおおお!!」



 ムクムクと多くなっていくドムは、元のサイズに戻った。こうして見ればデケェな。


 瞬間、ドムは殺意をもって近くにいたハヴァマールを人質に取った。



「しまった! ハヴァマール!!」

「あ、兄上……」



 ドムのゴツイ腕の中でハヴァマールは涙を流す。くそっ、スコルが施してくれた『ミニマム』の効果がこんなタイミングで切れるとは――!



「フハハハハハ!! 油断したな、ラスティ!! この間抜けが!! これで形勢逆転ってわけだ」


「ドム、てめえ」


「お~っと、動くんじゃねぇぞ! この銀髪の嬢ちゃんの顔がどうなっても知らねぇぜ? いっそ、お前の目の前で服をひん剥いてやろうか!?」



 邪悪に笑うドム。

 ……ああ、そうだ、この男は『神聖王国ガブリエル』の刺客。敵だ。


 当然、元に戻ればどんな手段を使ってでも俺を苦しめてくる。そういう男だ。



「ドム、ひとつ聞かせろ」

「あぁん!? 俺様と取引ってか!? まあいいぜ、言ってみろ」


「そこのテオドールに『ヤスツナ』ってヤツが乗り移っている。元に戻す方法はあるのか?」


「ヤスツナぁ? ああ、あの若造か。異国出身で、なぜかニールセン様に気に入られているんだ。気に食わねえ」


「元に戻す方法は知らないか?」


「あぁ? 馬鹿かお前。誰がそんなことを教えるか!!」



 ――ということは、なにか知っているようだな。ドムは、ヤスツナを知っているようだし……つまり、関係者。幹部クラスの繋がりがあると推測できる。



「分かったよ、ドム」

「動くなって言ったろ! お前の妹だか知らんが、殺すぞ!!」


「分かっていないな、お前は」

「なに? 分かっていない??」


「この島はな、俺の島なんだ。無人島開発スキルで作り上げた最強の島なんだぜ」


 俺は手を挙げた。

 すると後方の地面から『砲台』が上がった。


 秘密兵器を隠しておいて良かった。


 これを使う時がきた。



「な、なにをする気だ!?」


「てめぇには、これを『魔導レーザー兵器』をお見舞いしてやる!! いけえええええええええ!!」



 火力を最大にするとハヴァマールまで巻き込んでしまうので、俺は威力を調整。一番弱い火力のレーザーを放った。



「ばかなあああああああああああああああああ!!! うあああああああああああああああ!!」



 ドムの顔面に命中して一気に海へ押し出す。その隙に俺はハヴァマールを救出した。

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