騎士団長の部屋

「まさか、ラスティ様がレオポルド騎士団へ来られるとは……」


 ブルースは、溜息を吐く。

 まるでいつか俺が来ることを予見していたかのような口ぶりだ。


「教えてくれ、ブルース」

「ちょ! ラスティ様。本名は堪忍してください。僕の事は“シベリウス”と。頼みますよ」


 ブルース改めシベリウスは、そう頼み込んでくる。やれやれ、アルフレッドの息子だって気づかれたくないのだろう。仕方ない、付き合ってやるか。


「分かった、シベリウス。それで、レオポルド騎士団の騎士団長について聞きたい」

「……なるほど。騎士団長ですか」


「そうだ、教えてくれ。本物のアルフレッドなのか?」



 シベリウスは、首を縦に振った。



「本物の騎士団長で間違いありません。僕が言えることはそれだけです」

「馬鹿な! アルフレッドは死んだんだぞ。息子の君の耳にも情報は入っているはず」


「父上は死んでいませんよ。なぜなら、騎士団長をしているのだから。……ラスティ様、その目で確認するといいのですよ」



 その通りだ。

 その為に、ここまでやって来た。

 もし、アルフレッドが生きているなら、それはそれで喜ばしいことだが……しかし、そうなると分からない。今まで俺の隣にいたアルフレッドは何者だ?


 それとも死体が起き上がったとでもいうのか。


「通してもらうぞ、シベリウス」


「ええ、いいでしょう。騎士団長もラスティ様に話があると思いますし。ところで、その金髪のシスターさん、とても可愛らしいですね。それに、隣は帝領伯のご令嬢・ストレルカ様ですね」


 俺の後ろで静かに状況を見守っていたスコルが頭を下げた。


「スコルです。よろしくお願いします」

「良い名前ですね、スコルさん。へえ、エルフなんですね」


 シベリウスのヤツ、スコルの手をガッツリ握ろうとする。もちろん、俺は阻止そしした。両手を包み込むように握るとか、おかしいだろッ。とはいえ、シベリウスは、昔からエルフが好きだったもんな。スコルはやらんけどな。


「はい、ボロディン出身なんです」

「ほぉ、あのエルフの国ですか。道理でお美しいと思った。……可愛い」

「そ、そうなんです。今はラスティさんの島で楽しい生活を送っています。そのぉ、そんなに見つめられると困ります」


「おぉ、噂の島ですか。その情報は、レオポルド騎士団にもとどろいております。あの聖騎士のヨハネスやその他の聖騎士、それに第一、第二皇子を撃退するほどの防衛力があるとか」


 そこまで島の情報が流れているとはな。

 まあ、それもそうか。

 あれだけド派手にほこを交えたんだ。


 うんうん、と納得しているとストレルカがシベリウスに聞いていた。


「あの、シベリウスさん。その、本当はどうでもいいんですけど……一応聞きたいんです。ヨハネスはどうなったんです?」

「聖騎士ヨハネスは、貴女から婚約破棄されて島から追い出された後に行方不明となっていましたが――つい最近、神聖王国ガブリエルでの活動が確認されました」


「な、なんですって? あのヨハネスが神聖王国ガブリエルで活動を? 帝国を裏切ったのですね」


「あの時は、ルドミラ様が騎士団長でしたから……その、まともな捜索もされずに放置されていましたからね」



 そうだったのか。ルドミラは、意外と雑なところもあるからなあ。性格ゆえか、それともタイミングが悪かったか。とはいえ、今はガブリエルにいるとか、なんだか不穏だな。


「スコル、ストレルカ、そろそろ行こう」



 二人を連れ、俺はいよいよレオポルド騎士団の中へ入っていく。



 * * *



 レオポルド騎士団。

 城とは別に大きな建物があり、城塞が構えられている。防衛兵器が大量に配置され、聖騎士も多く警備に当たっている。


 やはり、俺の顔を見て驚く聖騎士たち。


 中には、ヨハネスの元部下もいた。

 睨んでくるなって。


 無駄に広い通路を進むと、騎士団長の部屋に到着。これまた無駄に大きな扉がそこにはあった。この先にアルフレッドがいるのか。


 俺は息を飲んで扉を開けた。

 その先には――。

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