水属性魔法スプラッシュと鋼鉄チェーン
「ある方? 第一皇子ワーグナーか? それとも、第二皇子ブラームスか」
「皇子ではないさ。今や、その二人に王位継承権はないと聞いた」
「なんだと? じゃあ、誰と取引した!」
「情報をペラペラ喋る馬鹿がどこにいる――!!」
ドムという獣人は、蹴り上げてきた。針のような爪が俺の頬を掠める。……うわッ、掠めただけなのに頬が切れたぞ。
「ラスティさん、傷が! ヒールします!」
スコルの治癒魔法のおかげで、傷は回復した。だけど、あの蹴りといい、指の爪といい……まともに受けたら、引き裂かれるな。
俺は、敵の出方を伺いつつゲイルチュールを構えた。
「なんだ、その“
「甘く見ていると痛い目を見るぜ」
「そうか! なら、その武器ごと噛み砕いてやる」
大きな口を開け、襲ってきた。
なんて恐ろしい牙だ。
だけど、口を開けたらいろいろ詰めれるよな。
材料の『石』をアイテムボックスから取り出し、俺はゲイルチュールで打ちつけ、飛ばした。それをドムの口の中へ次々と放り込んでいく。
ヤツは、余裕の顔をして“バクン”と噛み砕いていた。石ではダメか。
「頑丈な牙だな!」
「そうだ、ワシの牙は鋼よりも固い!」
「へぇ、そりゃ凄い」
石ではだめだ。岩は大きすぎて、あの口に入らない。なら、木か? いや、木なんてアッサリ砕かれる。なら……砂? おぉ、砂か。
砂を詰め込んでやる。
俺は、強く廊下を踏み込み――姿勢を低くした。敵の牙が頭上を掠めるが、気にしない。この瞬間、俺は『砂』をアイテムボックスより取り出し、ヤツの口の中に手で突っ込む!
「むごッ!?」
「オラオラ、砂を食いやがれ!!」
「むごぉ、むご、むごぉぉぉッ!!」
それでもドムは、砂を飲み込もうとした。くそっ、砂を食う気かよ! させまいと、攻勢に転じるが、ヤツはどんどん後退していく。すげぇ、バックステップ能力だな。さすが獣か。追いつけない……!
「ラスティ様、わたくしにお任せ下さい!」
「ストレルカ、やれるか!」
「ええ、オケアノスを一時召喚します。方舟の契約に応じ、いでよ、オケアノス!!」
廊下に魔法陣が展開されるや、そこから大精霊オケアノスが出現。相変わらず、無駄にイケメンの全身筋肉質の男だな。
オケアノスは、水属性魔法の『スプラッシュ』を発射。
[スプラッシュ][Lv.5]
[水属性]
[効果]
中級魔法。
水属性魔法を放つ。
Level.1 :水属性ダメージ:500%
Level.2 :水属性ダメージ:1000%
Level.3 :水属性ダメージ:1500%
Level.4 :水属性ダメージ:2000%
Level.5 :水属性ダメージ:2500%
腕ほどある水の柱がドムの口へ飛んでいく。見事に命中し、ドムの口の中にある砂が水によって『泥』になっていく。
『――モゴォォォォォォォォッ!!!』
ドロドロになった泥水。
ナイス、ストレルカ!!
ただの砂を泥に変えて、吐き出しにくくした。しかも、ヤツはパニックになっている。ここだ! 今こそが最大のチャンス。
俺は、足の力をバネにして、力を振り絞って飛び跳ねていく。ゲイルチュールを構え直し、上からドムの頭を狙う。
振りかぶって、脳天を討ちつけた。
「うおらッ!!」
「ぶヴぁばばばばばばばばばばばばあああぁぁ――!!」
ドゴォっと地面に顔面を討ちつけるドム。泥と共に沈んだ。衝撃で泥を吐き出し、窒息することはなかった。クリティカルヒットは与えたし、白目を剥いて倒れてるな。
「牙が厄介だったな。でも、倒した。スコルもストレルカも助かったよ」
「い、いえ、わたしはヒールしか……うぅ」
スコルはそういうポジションなので問題ないんだがな。しかし、今回はストレルカに助けられたな。まさか砂を泥に変えるとは。これは、なにげに合技じゃないか。
「お役に立てて良かったです。わたくし、ずっと足手まといで……」
「そんなことはない。さっきは本当に助かった。俺ひとりでは、泥は作れなかったよ」
「……良かった。ラスティ様っ」
抱きつかれて、俺は動揺する。
もしかして、ずっと気にしていたのかな。
あんまり思いつめないで欲しいけど。
「あぁ! ストレルカさん、ずるいです!」
スコルも抱きついてくるし。
* * *
女子二人は先に部屋へ戻らせた。
俺は、獣人のドムが意識を取り戻すまで廊下で待ち続けていた。しばらくして、ようやく気絶から回復。暴れ出した。
「くそ、くそ、くそぉぉぉ! なんだ、どうして動けない!!」
「ワークテーブルで作った『鋼鉄チェーン』でお前を巻きまくっておいたからな。そう簡単には抜け出せんぞ」
[鋼鉄チェーン]
[効果]
耐久値:5000。
ワークテーブルか鍛冶スキルで製造できるチェーン。敵を捕縛したり、なにかを括りつけたり、運搬などに使う。
「こ、鋼鉄チェーン!? なんだこの素材は!? 鉄か!」
「まあな。俺は結構なんでも作れるんだ。それより、聞かせろ。誰と取引をした」
「しつこいな! この落ちこぼれの元第三皇子が!」
「俺を
「ぐ、ぐぬぬ……」
事実は事実。
巨大な島が俺のもので、家とか農地とかの開発を自由でき、女の子達と不自由なく暮らせている。聖女とか勇者がいるんだぞ。これ以上は贅沢ってモンだ。
何に不満がある? 過去? どうでもいい。俺は、今を生きる。
島の安全の為にも、俺はコイツから聞き出す必要がある。
「最後の忠告だ。教えれば、今は痛い目に遭わずに済む」
「だ、だれが……!」
「そうか」
俺は、容赦なくゲイルチュールを引っ張り、チェーンを強めた。
「ぐぉぉおぉおおおおおおおお!!」
「さあ、吐け。その方が楽になるぜ」
「く、くそぉおおおおおおおおお!! くそ、くそ、くそがあああああああああああああ!! このワシに神聖王国ガブリエルを裏切れというのか!! 無理だ! ニールセン様に殺される!!」
「叫ぶな馬鹿。さあ、さっさと言え」
更にチェーンを強める。
下手すりゃ、ドムの体が引き千切れる可能性もある。だが、俺は心を鬼にした。
「ぬうぅぅぅおおおおおおお…………! わ、分かった! もう分かった!! 喋る、喋るから命だけはあああああああ!!」
「よ~し、それでいい! じゃあ、話して貰うぞ」
「……わ、わがっだ」
チェーンが体に強く食い込み、ヘロヘロになっているドム。さあて、取引相手の名前を言って貰おうか……!
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