勇者の親友

 宮殿に留まってばかりもいられない。ただ観光しにボロディンを訪れたわけではないのだ。エルフの技術を取り入れ、島をよりよくする為に来たんだ。


「これからどうします?」


 お茶をれてくれるスコル。

 俺は、ティーカップを手にして香りを楽しんだ。う~ん、独特。いや、お茶に感心している場合ではない。


「そうだな、日が暮れるまでもうちょっと時間もあるし……農業に詳しい人に会いたいな。スコル、心当たりとかないかな」


「農業ですか。う~ん……」


 考え込むスコル。

 長くエルフの国に住んでいたスコルなら、心当たりがありそうな気はするけどなぁ。期待していると、スコルは手を鳴らす。



「なにか思い出した?」

「はいっ! テオドール様ならお詳しいかもしれません」


「テオドール? ……はて」



 つい最近、どこかで聞いた名前だ。いつ、どこで耳にしたっけ? う~ん、思い出せない。誰かがその名前を口にしていたはずなんだけど。



「世界中から来てくれと要請があるほど有名な方ですから、今、この国にいるか分かりませんが向かってみましょう」


「じゃあ、頼む。ハヴァマールとストレルカも連れていこう」

「分かりました。では、行きましょう」



 部屋を出て、ハヴァマールの部屋を目指した。長すぎる廊下を歩き、ようやく辿り着くと丁度、ハヴァマールが姿を現したところだった。


「兄上、スコル!」

「おぉ、丁度いい。外へ出掛けようと思っていたんだ。ハヴァマールも一緒に行くか?」

「うん。そのつもりで二人の部屋で向かおうと思っていたのだ」

「タイミングバッチリだな。次は、ストレルカだ」



 すぐ隣の部屋へ。扉をノックすると返事があったので――中へ。



「いらっしゃいませ。どうされましたの、ラスティ様」

「さっそく、みんなで外出だ。ストレルカも来るかい?」

「もちろん、同行します!」



 決定だな。全員集合したところで『テオドール』が住んでいるという屋敷を目指した。ユーモレスク宮殿を出て、街へ降りていく。



「ところで、兄上。どこへ向かっているのだ?」



 ハヴァマールから袖を引っ張られ、そう聞かれた。そういえば、まだ二人に目的地を言っていなかった。



「それなんだが、農業に詳しいらしい『テオドール』という人を訪ねる事にしたよ。スコルが案内してくれる」


「テオドールかぁ~。なるほど! ある時は鍛冶屋ブラックスミスであり、ある時は錬金術師アルケミスト。そして、今はモンスターテイマーである彼か」


「知ってるのか、ハヴァマール」

「知ってるも何もない。聖魔伝説の人物だ。ルドミラの親友だよ。少し前に話しただろう」



 言われてみれば『伝説のモンスターテイマー』なんて話をしたような。……ああ、したわ。間違いない! そうか、テオドールは、あの勇者ルドミラの仲間。


 驚いていると、テオドールの屋敷に着いた。



 ――それにしても、エルフだったとはな。ルドミラがエルフだし、違和感はないけど。でも、共和国出身じゃなかったっけ。いろいろと情報が足りないな。とにかく本人に会えれば嬉しいのだが。



 テオドールの屋敷は、なんと街中にあった。屋敷っていうか――



「って……“お店”なのか」

「そうですね。正確に言えばお店です。テオドール様はたくさんのお店をやられている方なんです。今は主にペットのお店を経営されていますね」



 なるほど、それでモンスターテイマーとして有名なわけか。にしたって、鍛冶屋でもあって、錬金術師でもある? どんだけ技術の塊なんだ。さすが伝説だな。


 恐ろしく大きい店の前に着く。

 どうやら通常営業しているようで、客が入りが激しい。繁盛しているなぁと、観察していると背後から声を掛けられた。



「おやおや、これは珍しいお客さんですね。第三皇子のラスティ・ヴァーミリオン様ではありませんか。おや、こちらの可愛らしい少女は聖女スコル様。お帰りになられていたのですね」



 ――なッ、いつの間に!

 コイツが『テオドール』なのか……?

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