大神官アルミダ

 ユーモレスク宮殿に到着。

 十年前と変わりなく、荘厳そうごんな建物が何処までも広がっていた。相変わらず凄い高さと広さ。


「十年振りか……」

「はい。わたしもようやく帰ってこれました」

「そうだな、ここが始まりでもある」



 宮殿の中へ入っていく。

 ゆっくりと無駄に長い階段を上がる。宮殿ってだけあって距離があるなあ。



 奥まで行くと、中から綺麗な顔立ちをした女性が現れた。



「大神官アルミダ様!」



 そうか、あの豪華な衣装は大神官様か。昔と変わらない美貌だな。銀というよりは白い髪。ティアラのようなものを被り、宝石のついた杖を持つ。



「お久しぶりです。聖女スコル・ズロニツェ」

「はい、お久しぶりです。戻ってきました」


「ええ、とても心配しましたよ。貴女が行方不明になってから、ボロディンは帝国との関係が悪化し、大変でした」

「も、申し訳ございません。でも、わたしは自由に生きたかったんです」


「まあいいでしょう。それより――」



 大神官アルミダがこちらを見つめる。

 なんか居心地が悪い視線だ。



「……お、お久しぶりです」

「ええ、ラスティ様。覚えていますよ、十年振りですね。陛下や皇子はお元気ですか?」

「残念ながら、国を追放されたんですよ、俺」


「それはお気の毒に」


「でも、今は無人島を手に入れて、そこでスコル達と一緒に住んでいるんですよ。おかげで今は快適な生活が送れているので、スコルの事は御心配なく。

 俺たちは、ちょっと農業とかその辺りの技術を知りたくてやって来たんです。もちろん、スコルの無事を伝えたかったというのもあるんですが」



 そう伝えると、アルミダは理解を示してくれた。



「そうでしたか。そんな事になっていたとは……とにかく、今日は宮殿で休むといいでしょう。スコル、お客様をご案内して下さいね」



 そう言って大神官はきびすを返した。ちょっと怒ってるようだったけど、どうやら、歓迎はしてくれているようだな。



 ◆



「ユーモレスク宮殿はたくさん客室があります」


 通路を生きながら、スコルは案内してくれていた。宮殿内は、なんだか身分の高そうな人達ばかり。すれ違うたびに信者らしき人が驚き、スコルに祈りを捧げていた。……凄い光景だな。


 結構奥まで歩き、ようやく到着したようだ。



「へえ、ここが部屋なのか」



 テンションを上げるハヴァマール。俺もだけどな。あのストレルカでさえ、少しビビっていた。



「これは素晴らしい内装ですね。帝国に勝るとも劣らない」

「ストレルカもこういう屋敷とかに住んでいるんじゃないのか?」

「さすがに宮殿クラスには住んでおりませんから」


 納得。それもそうか。



「ハヴァマールさんとストレルカさんは、この部屋を使ってください」

「ほぉ、これは広い。見晴らしも最高だ!」


 先に部屋の中に突撃するハヴァマールは、きゃっきゃとはしゃいでいた。でも、確かに綺麗な部屋だなぁ。緑色が多くてエルフって感じがする。


 棚、机、椅子、ベッド……どれもこれも木製だけど、とても丁寧な造り。自然という要素を取り入れているな。なんだが清々しい気分だ。



「では、わたくしも部屋で休憩します」

「おう、ストレルカ。また後で」



 ストレルカは部屋に向かった。

 俺も自分の部屋を覗いてみたいな。


「スコル、部屋へ案内してくれ」

「分かりました。では、ハヴァマールさん、また後程」



 ハヴァマールは「分かったのだ~」とベッドに飛び込んでいた。すっかり、ぐーたらになったな。


 再び通路に出て、スコルの案内を受ける。



「俺の部屋は少し距離があるのか?」

「え、ええ……」

「ん? スコル?」

「と、到着しました。こちらです」



 なぜかスコルが震えていた。なんでそんなに緊張しているんだろう。とにかく中へ――ん? なんだか良い匂いもするし、綺麗に片付いている。というか、非常に女の子っぽい部屋。ピンク色も多いし、すっごく可愛らしい。


 あれ、この部屋って……。



「なあ、スコル。この部屋なんか客室っぽくないんだが――って、うわ!!」



 いきなり押し倒され、俺はびっくりした。



「ラスティさん、ここはわたしの部屋です」

「そ、そうか。それでスコルと同じ匂いが――って、ええッ!?」


「い、一緒の部屋にしましょう。その方がいいでしょ?」

「スコルと一緒の部屋か……」



 俺の身が心配なんだけど、スコルがずいずい寄ってくるので断り辛い。……ま、まあいいか。滞在するにしても、二日とか三日の予定だし。

 それに、俺もそろそろ腹を括る時が来た。


 今日、あのクロードという男と対峙たいじして、俺はよく理解した。スコルを守らなきゃ――と。

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