帝領伯令嬢の商船にて

 浜辺を歩き、先に商船が停泊しているがけを目指した。まずは、ストレルカに挨拶をしに行こうと考えた。それと交渉・・だ。


 ストレルカに船を出してもらい、エルフの国『ボロディン』へ目指す。向こうで農業やその他諸々もろもろの知識や能力を得られれば、この島にとっても有益なものとなる。


 でも、一筋縄ではいかないかも。

 彼女は、ドヴォルザーク帝国のゲルンスハイム帝領伯を父に持つ、貴族の娘。つまり、帝領伯令嬢。祖国を思えば、この交渉は厳しいものになる。でも、ストレルカは話せば分かってくれそうだし、交渉する価値はあると思った。



「あそこだ、エドゥアルド。この前、顔を合わせたとは思うけど、あの商船にストレルカという女の子がいる。最近は、よく物資を支援してくれるんだ」


「ええ、会話は交わしませんでしたが、ストレルカ様は存じ上げていますよ」

「知ってるんだね」

「ゲルンスハイム帝領伯の要請で領地防衛の為に何度かお会いしました」

「マジか。詳しく教えてくれ」


 話を聞くと、どうやら『連合国ニールセン』の二十か国ある内の小国がたまに領有権を巡ってちょっかいを出してくるらしい。そういえば、ドヴォルザーク帝国と連合国ニールセンは度々戦争を起こしているな。


 なので常にレオポルト騎士団は遠征を繰り返している。昔も今も小競り合いから大規模な戦争は無くならない。そのような情勢を熟慮すると、我が島も無関係とはいかない。


「――なので、この島でお会いできるとは思いませんでした。ストレルカ様は、大精霊と契約を結ばれている世界屈指の召喚士サモナーですからね」


 つまり、この大賢者であるエドゥアルドから見ても、ストレルカという少女は凄腕なんだ。確かにあの大精霊は驚くべき力を持っていたな。



 崖に着き、以前俺が作った橋というか“渡り板”を歩く。これで島との行き来可能になっていた。



「お~い、ストレルカ。来たぞー!」



 大声で呼ぶと、船の中で物々しい音がした。なんか慌ててる様子だな。



『も、もしかして……ラスティ様ですか!?』

「そうだよ。って、なんで声だけ?」


 ストレルカは、なぜか船内から姿を現さなかった。その事情が直ぐに判明。


『ご、ごめんなさい。今まで寝ていて……その、まだ裸なんです』

「は、裸!?」


『実は、わたくしは裸でないと寝れないタイプなんです。着替えるので少々お待ち下さいまし』



 意外というか何と言うか……いわゆる裸族か。見えないけど、なんか落ち着かないな。ソワソワしていると、エドゥアルドが冷静に蟀谷こめかみを押さえていた。なんの儀式だろう?


「どうした、エドゥアルド」

「――これは『ソウルウィスパー』という異能です」


「へ……ソウルウィスパー?」


 力の正体を教えてくれた。



 [ソウルウィスパー][Lv.5]

 [補助スキル]

 [効果]

  離れている相手と精神を介して“交信”が出来る。会話時間は無制限。最大レベル5の場合、傍受されないようになり、盗聴スキルを無効化する。



 この大賢者、スキルをポンポン教えてくれるな。そんな秘密を簡単に教えていいのか? という疑問は置いておき、これはテレパシーみたいなものか。



「ドヴォルザーク帝国にいる友人と話していました。どうやら、帝国の動きが不穏のようです」


「なにか動きがあったのか?」

「まだそこまでは。ですが、情報収集はお任せ下さい」

「助かるよ。帝国むこうの情報なんて入って来ないからな、エドゥアルドだけが頼りだ」



 見つめるとエドゥアルドはコクコクとうなずき、少し嬉しそうだった。おぉ、可愛い。ちょっと気持ちが浮ついていると、ようやくストレルカが姿を現した。



「お待たせいたしました、ラスティ様。……それと、あれ? そこの草原の大地を彷彿ほうふつとさせるライムグリーンの髪をした方は……ああっ、まさか」



 口元を上品に押さえ、ストレルカは目を白黒させていた。


「レオポルト騎士団の副団長エドゥアルドです」

「お久しぶりです、エドゥアルド卿」


「この前は慌しかったので、あまりお話出来ませんでしたが、これからよろしくお願いします」


「は、はい……。というか、エドゥアルド卿を仲間にしているラスティ様、凄いですよ。さすが第三皇子様です!」



 尊敬の眼差しを向けられる。

 けど、俺はもう“元”だけどなっ。


 ――さて、交渉開始だな。

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