大切な思い出

 ワーグナーもブラームスも轟沈ごうちんしている。

 冷静になってみれば、ちょっとやりすぎたかも。後でガミガミ怒られるなぁ……これ。


 とにかく俺は、金髪の少女の元へ向かった。


「キミ、大丈夫か」

「あ、ありがとうございます……」


 少女は恐怖でおびえていた。

 どうにか落ち着かせてやりたいな。う~ん、そうだ。俺の読んでいた本をやろう。先ほどブラームスにぶつけた本を地面から広い、少女へ渡した。


「はい、これあげるよ」

「……本、ですか」


「これは“コボルトでも分かる魔導書”だよ」


「なんです、これ!」

「魔法が習えるんだ。兄貴達を見返す為に勉強していたけど、俺は全然ダメだった……まあでも、ブラームスを倒す武器にはなってくれたよ」


 手渡すと、金髪の少女は笑顔になった。可愛くて、俺はつい見惚れてしまった。エルフってこんなに可愛いんだ。


「ありがとうございます。大切にしますね!」

「ああ、キミはエルフだから魔法を覚えられるだろう。大魔法でも覚えて、いつか俺の魔法使いになってくれよ」


「お、皇子様の……それはぜひ!」

「よーし、約束だ。えーっと……君の名前なんだっけ」


「スコル……スコル・ズロニツェと申します。この通り、エルフ族です」

「そうか、スコルか。可愛くて良い名前だな。ちなみに俺はラスティだ。ドヴォルザーク帝国の第三皇子だ! 覚えてなくていいぞ、ワハハハ……」


「いいえ、決して忘れません。今日助けていただいた事はずっと覚えていますから」



 またこの天使のような笑顔。俺にはちょっと、まぶしすぎるかな。てか、兄貴達はこんな可愛い子をボコボコしていたのかよ。酷いっていうか、エルフを差別しているんじゃないかと邪推じゃすいしてしまうな。



 ――この直後、俺は父親に見つかり一時間以上の説教を受けた。



「ラスティ、お前というヤツは!!」

「あのエルフの子がいじめられていたんだ。それを助けちゃいけないのか、父さん」


「助けた事は立派だ。だが、実の兄であるワーグナーとブラームスに怪我けがを負わせただろう。あれはやりすぎだ」


「兄貴達の方が悪いよ」

「黙れ、ラスティ。やはり、お前は……いや、まあいい。これも“ヤヴンハールの誓約”だ。帝国繁栄の為……ラスティ、今日あった出来事は忘れよ・・・。今はそれで全てを許そう」


 親父は、俺の頭に手を置いた。


「――な、何をするんだ」

「ヤヴンハールの誓約により、お前の記憶を消す・・・・・

「な、なんだよそれ……! ヤメ……」



 ……そこで俺の視界はプツンと消えた……



 ◆



 ――それが十年前だという。

 俺は……あの当時を思い出していた。というか、親父に何かされてるっぽい事実が判明した。おいおい、なんだよ“ヤヴンハールの誓約”って……ハヴァマールが言っていたヤツか。


 あの日、俺の記憶は親父によって消去されていたわけか。道理で思い出せないわけだ。スコルの事も覚えていなかったわけだ。



「話してくれてありがとう、スコル」

「思い出してくれましたか?」

「おかげでな。どうやら俺は本当に昔にスコルと会っていたようだ。ああ、そうだ、俺が助けたんだ」


「そうですよ。だから、わたしはずっとラスティさんの事を――はっ……」


「ん? どうした」



 途中で言いかけて両手で口を塞ぐスコル。あれ、また顔が真っ赤のような。何を言いかけたんだ。


「……い、いえ。でも、思い出して貰えて……良かった」


 スコルは、一つ粒の涙を零し、嬉しそうに微笑む。……なんだろう、今の俺、心がザワザワしている。なにか……なにか言ってやりたい。なのに、何も出てこない情けない俺。くそう、こんな時は何て声を掛けてやればいいんだ。


 教えてくれ、アルフレッド。



『――ぼっちゃん。人生とは常に戦。大きな壁にぶつかった時は、深く考えてはなりません。己に惑わされるからです。なので感じる・・・のです。ピンチはチャンスに変えられる』



 昔に教えて貰った言葉を思い出した。そうか、よく分からんが、感じればいいんだな!



 …………!!



 おぉ、恐ろしく冷静になれたし、こうすればいいんだと判断できた。感じればこんな簡単な事だったんだ。フィーリングってすげぇや。



「スコル、これからも一緒にいてくれ」

「は、はひぃ~~~…」



 ダバ~っと、まるでアルフレッドのように泣きじゃくるスコルさん。おいおい、そこまで川のように泣かなくとも。でも、よっぽど嬉しかったんだな。俺も嬉しいけどな!(←もらい泣きしそうになった)

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