追放とヤヴンハールの誓約

 アイテム『謎の地図』を見てみると、この島の一部が書かれていた。しかも、この近辺じゃないか。


「う~ん、だけど字が下手すぎて読み解けないな。辺境部族のグラム語か?」

「兄上は、そんな雑学トリビアを知識にしているのか」


「馬鹿にするな、ハヴァマール。いいか、本は知識の宝物庫だぞ。どんなくだらない知識でも役に立つ場合がある。今の島暮らしって、本のおかげもあるんだ」


「分かった分かった。余が悪かったのだ」


 謝罪のつもりなのか、密着してくるなッ!!

 くぅ……意識するな、意識するな、意識するな俺。こ、この程度で動揺して、どどどどうする!!


「こ、この地図は恐らく、森の中のようだな」

「そうだな、兄上。海賊たちは他人に見つからない場所に隠したはず。――って、本当にお宝を探すのか?」


「せっかく手に入れた“謎の地図”なんだ。まあ、たまにはいいんじゃないか。島開発しながらで」

「面白そうではあるな。分かった、余も手伝う」


 だ、だから……密着しすぎだッ!


「ハヴァマール、近いって」

「……兄上」

「ど、どうしたんだよ。らしくないぞ」


「余は、ずっとひとりぼっちだった。兄上を天界から見守って……干渉できぬ日々だった」


 なんだ、いきなり……真面目な話のようだな。


「そうだったのか。でも、なんで直ぐに『声』を掛けてくれなかったんだ」

「皇帝のおかげというかな」

「親父の?」

「うむ。皇帝が兄上を『追放』してくれたおかげで、代々から続く“ヤヴンハールの誓約”が解除されたのだろう」


「なんだそれは」


「聖魔伝説だ。帝国から出現した伝説の勇者・ルドミラは、エルフの剣士。彼女は、先代の魔王われらと激しい戦いを繰り広げた。だが、結局決着はつかなかった」


「決着がつかなかった……?」


「というか、兄上と余は“魔王なんかではない”のだ! それなのに、人間共はそのように誤認し、忌み嫌った。ふざけておる」


 まてまて、いきなり話が飛んで意味不明だ。てか、魔王ではないって……薄々そうだろうなとは思っていたけどさ。ハヴァマールがあまりにも可愛いし、そんな魔王とかしそうな雰囲気でもないしな。



端折はしょらないで教えてくれ」

「もう面倒臭いのだ。聖魔伝説の全容なんぞ話していたら、三日三晩は掛かるし」

「なげぇな、おい」



 まあいいか、また徐々に聞いていこう。



 ◆



 風呂から上がり、家へ戻ると良い匂いがした。おぉ、なんだ今まで感じなかった料理の匂いだぞ。なんか新鮮だなあ。


 リビングには料理が並べられていた。



 さっそく『シャーフ肉』つまり羊肉を焼いてくれた。それをパンに挟んでくれたようだな。リンゴもセットでなんかイイ感じだ。



「これは綺麗に盛り付けたな、スコル」

「がんばりました! 味付けもばっちりですっ」


 自信満々だ。これは期待ができるな。

 さっそく椅子に座り、料理を頂いた。


 パンを手に取り、口へ運ぶ。


「んまっ……! 塩胡椒しおこしょうが絶妙な塩梅あんばいだな。この味付けは実に俺好み。こんな美味いの城のシェフ以来だぞ!」


「そ……そんな褒められると照れちゃいますね」


 顔を真っ赤にしてモジモジしているスコル。これは誇って良い。素晴らしい腕前だ。こんな美味いものが食えるようになるとはなぁ。ストレルカにも感謝だな。



「うむ、スコルの手料理は目を見張るものがある」

「ハヴァマールさんのお口にも合って良かったですっ」

「料理の美味いエルフというか聖女は珍しいな。良いお嫁さんになれそうだな」


「お、お嫁さん……」


 はぁ~と、スコルは倒れそうな勢いで目をクルクル回していた。


「おいおい、大丈夫かよ、スコル」

「だ、大丈夫でしゅ~……」


 ダメだこりゃ!!

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