聖女と帝領伯令嬢

 しばらくしてアルフレッドが少女を抱えて戻ってきた。あの距離をよく飛び越えてくるな。


「お待たせしました、ラスティ様」

「おかえり、アルフレッド。その子か」



 海のように青い髪。

 サファイアのような青い瞳。


 高貴なドレスに身を包む少女がいた。間違いなくゲルンスハイム帝領伯とやらのご令嬢に違いない。凛々しくも華のある顔立ちが少しまぶしい。



「第三皇子の……ラスティ・ヴァーミリオン様! あのヨハネスの言っていたことは本当だったのね」


「はじめまして。俺はそのラスティです」

「……落ち着いた声をしているのですね。それに……その、飄々ひょうひょうとした顔立ちがタイプですっ」


「それより、あの商船は君ので間違いないのか?」



 訊ねると、ストレルカは正直に答えてくれた。



「はい、あれは我が『メンデルスゾーン家』の船であり、わたくしの船でもあるのです

「そりゃ、凄いな。でも、どうしてこの島に?」


「聖騎士ヨハネスの命令です。……実は、彼とはお見合いをさせられ、強引に婚約を交わされたんです。でも、わたくしは彼のような傲慢ごうまんな方は好きになれませんでした」



 そうか、あの男が指示したんだな。

 でも、婚約までとは……きっと船を自由に動かすためにストレルカの気持ちを無視して、そんな愚かな真似をしたんだろうな。最低なヤツだ。



「そうか。けどまあ、ヨハネスはもうぶっ飛ばしたから、安心すると良いよ」

「……え、あの聖騎士を倒されたのですか!? ラスティ様が!?」


 信じられないと驚くストレルカ。


「事実、俺がここに来ただろう」

「そうですね、彼が……ヨハネスが止めないはずがない。……良かった、ありがとうございます。ラスティ様」


 突然抱きつかれて俺は動揺した。

 これはまずいと離れようとすると、スコルが間に入った。


「離れて下さい!!」


「……なんです、貴女。その耳、エルフ? そう、ボロディンの方ですか」

「だからなんです。ラスティさんは、わたしのなんです!」


 あわわ……。

 なんか俺の取り合い(?)のようになっとるぞ。



「ふざけるな!! 兄上は余の兄上だ!!」



 って、ハヴァマールお前も参戦するなァ!! 余計に騒ぎになるだろうがっ! とりあえず、ハヴァマールは頭を撫でてなだめた。


「これで落ち着け!」

「うにゃー…。兄上ぇ~」


 よし、ハヴァマールは俺の“ゴッドハンド”で撃沈した。ちなみに、俺は昔から猫好きであり、猫に好かれるタイプでよくでていた。半分猫っぽいハヴァマールを鎮めるなぞ容易い。


 後は二人だ。



「スコルもストレルカも落ち着け。スコルは俺の言う事を聞いてくれるよな」

「も、もちろんです。脱げと言われれば脱ぎますよ!?」

「それはダメだー!!」


 まったくもう、スコルはたまに暴走するな。でも、そういうお茶目なところも良いんだけど。



「決めました! ラスティ様、このわたくし、この無人島にしばらく滞在させていただきます」

「マジか! いやでも、船を出してくれる人がいると助かるし、どちらかと言えば力になって欲しい」

「ええ、そこの金髪エルフから、ラスティ様を奪ってみせます」


 スコルを敵視するストレルカ。

 なんで仲が悪いんだー?


 しかも、スコルも珍しく火花を散らしているし。ハヴァマールとは仲が良いのに、これはどういう事なんだか。


「とにかく、分かった。停泊を認めるから、島は自由に上陸していい」

「ありがとうございます、ラスティ様。友好の証にこれをどうぞ」


 ドサッと置かれる木箱。

 これは商船に積まれていた商品のようだ。



 蓋を開けてみると――



 シャーフ肉×10、パン×10、リンゴ×10、バナナ×10、赤ワイン×10があった。それと調味料に『塩』と『胡椒こしょう』……って、これはドヴォルザーク帝国産の食糧か!



「いいのか、こんなに」

「どうぞどうぞ。その代わり、わたくしの船に遊びに来てくださいね」

「分かったよ、ありがとう。ストレルカ」

「ラスティ様……はい、いっぱいお話しましょうね!」


 ストレルカは、船に戻りたいとアルフレッドに頼んだ。いちいち抱えられてジャンプも面倒だろう。俺は、アイテムボックスから木材を取り出し、無人島開発スキルの『島開発』で簡単に『橋』を作った。


「これで帰りな」

「へ……ええええッ!? な、なんか急に木橋が出来ているんですけど……! これはラスティ様が……?」


「ああ、俺の力だ」

「す、すごい……! ラスティ様、わたくし……いえ、また今度ゆっくり話しましょう」


「じゃあな」


 今度こそストレルカは帰っていった。

 振り向くと、スコルが俺をポカポカ叩いてきた。


「ラスティさん、もー!!」

「えぇ……。どうしたんだよ、スコル」

「ああいう女の子が好きなんですか……」

「ん~? まあ、ストレルカは美人ではあるよな」


「……分かりました。わたし、もう本気でラスティさんを振り向かせますからねっ!!」


 ぬぬぅ?

 なんかスコルのやる気が凄いなぁ……。いったい、何がなんだか分からんけど、でも楽しそうだし、いいか。

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