恋するアニメアイコン
サムライ・ビジョン
第1話 とあるオタク
「…くほっ!くふふふ…」
相変わらず気持ちの悪い笑い声だなぁと思いつつも、この想いは止められない。
…いや、笑い声には似ているけれど厳密に言えば笑い声ではなくて、いわゆる「尊い」ものを見たときに思わず声に出る…感じだな。
俺は放課後、皆々が野球やサッカー、ブラスバンドなんかに青春を燃やすのを尻目に、我が家に直帰する。
制服というのは堅苦しく鬱陶しい。まずは手洗いとうがいをして、それから部屋に入ってブレザーを脱ぎ、シャツを脱ぎ、それからパンイチに。スウェットを穿いて、長袖を着て…
全体的に真っ黒な
「あああ!!マナミたそぉぉぉ!!尊すぎます!!」
タイムラインに流れてきたのは俺の推し…
「赤坂マナミ」ちゃんのイラストだ。
俺にとって一番のオアシス…いや、オアシスなんかの一言では物足りないな。
カルキ抜きのされた綺麗な水はもちろんのこと、コーラやコーヒー、オレンジジュース、緑茶に紅茶、ビールに焼酎、日本酒ワインウォッカウイスキー…多種多様の飲み物が楽しめるドリンクバー…
だけではない!
和食、洋食、中華にジャンク、人が飲み食いできるものは一通り揃っている酒池肉林…
…ああ、頭の中で思いの丈を連ねるだけでも好き好き精神が止まらない!
ちなみに言うと、俺のアイコンはマナミちゃんではない。マナミちゃんにとっての一番の親友、ユキナちゃんだ。
マナミちゃん本人をアイコンにするのはなんだか厚かましい気もするし、ヘッダーの方が広く大きく表現できるので、マナミちゃんはヘッダーにしている。
もちろん神絵師のイラストに対しては、いいねとリツイートを欠かさない。
俺が感想を書いて数分もすれば、みんなが返信をしてくれる。
今回のイラストを描いたフォロワーもまた、いつものように返信をしてくれた。
「やまっちさんのコメントのおかげで、今日もモチベが上がりましたᕦ(ò_óˇ)ᕤ いつもありがとうございます!」
俺はこの瞬間が好きだ。誰も嫌な気分にならないオタクだけの世界。
俺はマナミちゃんを見て幸せな気分になったし、絵師さんもまた俺の言葉で幸せな気分になっているであろう…
タイムラインに戻ると、DMに通知が来ていることに気がついた。
俺に限らず、オタクというものはSNS上ではオープンなものだが、それゆえに面倒なことに巻き込まれることもある。
「お前散々恋愛のあるべき姿はあーだこーだとか言ってたくせにアニメアイコンなんだな」
恋愛のあるべき姿…というのはおそらくあの件のことだろう。
とある主婦が夫のために料理を作り置きした、という何気ないツイートに噛みついていた「自称」フェミニストがいたのだ。その「自フェミ」こそDMの主なのだが…
「アニメアイコンは関係ないだろ。それと、旦那に作り置きした奥さんのツイートを見て奴隷だの何だの言ったお前の引用ツイート、やっぱり消すべきだと思うよ」
まったくもって正論だと我ながら思う。
「消しましぇ〜んwww大体、あんな風に幸せアピールしてるけど、実際は家事をする性奴隷みたいなもんでしょ?あ、結婚生活のことなんてオタクにはわからないか〜!www」
話の通じない相手はどうしても存在するため、問答無用でブロックするに限るのだが、ひとまずこれはスクショする。
むしろ、スクショチャンスを待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます